REPORT
2013 D&AD Awards Pencil Talk 前編:これからのクリエイティブ

佐藤 卓(佐藤卓デザイン事務所 代表取締役)
齋藤 精一(株式会社ライゾマティクス 代表取締役)
古屋 言子(D&AD Japan Representative)
日本デザインセンターも積極的に挑戦しているD&AD賞ですが、日本事務局の古屋言子さんと、海外の賞を通してデザインを考える場を持とうという話になりこのトークが実現しました。ゲストは佐藤卓さん、そしてライゾマティクスの齋藤精一さん。2013年度の審査員であるお二人に加えて日本デザインセンターから大黒大悟、荒井康豪が登壇して、参加者120名の方たちとの熱い3時間になりました。
レポート前編では、審査員たちの視点から見えてきた、これからのクリエイティブについてご紹介します。

D&ADの特徴について
D&ADの特徴について

古屋

D&ADは、1962年にイギリスのロンドンで、当時60年代のスウィンギングロンドンで、この時代に活躍していたグラフィックデザイナー、イラストレーター、アートディレクターたちによって、立ち上げられたNPOです。デザインを軸にその業界の次世代のさらなる活性化と育成ということを目的につくられた教育団体です。
D&ADの活動はふたつあり、ひとつは日本でもよく知られているD&AD賞で、これを世界展開しています。世界的にも非常にレベルの高いデザイン広告賞として認知されています。
もうひとつは、教育プログラムで、日本ではあまり馴染みはないのですが、デザイン、広告に関わるすべての方たちに、教育の機会を与え、イベントを展開したり、交流をはかる、そういった場を設けています。
D&AD賞の順位の呼び方は「Pencil」という言い方を用いていて世界的にもお馴染みです*1。1番下が「インブック」、その上が「ノミネーション」、その上が「イエローペンシル」、そして「ブラックペンシル」という、ひとつひとつ上がって1番上の頂点の「ブラックペンシル」を選ぶという流れになっています。「ブラックペンシル」というのは、非常に受賞するのが難しく、毎年必ずしも受賞作品が出るということはありません。
昨年度から設立された「ホワイトペンシル」は社会、環境、健康などの問題をテーマに、その問題解決に貢献するクリエイティブアイデアに与えられる賞です。
もうひとつの特徴は、カテゴリーの多さで全部で24部門あります。例えばグラフィックデザインの中でもイラストレーション、写真、タイポグラフィなど、ひとりでも多くのクリエイターが参加できるよう考えられています。

*1:2013年度の受賞数の結果
日本のエントリーは410名。総エントリー数21,000からみると少ないが、受賞の数は他の国に比べて非常に多い。最近は中国、ブラジルからの応募が増えている。審査員は毎年約200名。

デジタルデザインで注目したポイントとは
デジタルデザインで
注目したポイントとは

齋藤

デジタルデザインというと、一般的な広告のWebサイトとかアプリというものと、最近だったらiPhoneとかAndroidのアプリとかがありますが、僕は今回、もう少し教育に使えるようなデジタルアプリやサービスを注目して見ていました。
まず審査員たちが1番最初に行なったのが、デジタルデザインというのは、どういう価値観で見るべきか、という議論でした。そこの価値を見据えた上で、今回お見せするWebサイトもあれば、美術館の体験システムのようなお話もあれば、まさに広告もある。いろいろなんですが、D&ADは50周年だったので、もう一回価値をちゃんと話し合って、文化として何を残していくべきか、ということを議論して決めました。

古屋

そもそもデジタルデザインの定義が、審査員個人個人によってもちょっと違うのですが、テクノロジーの進化があったり、あるいはその使われ方が、国によって異なっていたりというところがあるので、デジタルデザインという分野は、毎年毎年見直しが必要なんです。
今、齋藤さんのお話にもあった教育向けのソフトの実際の作品があります。作品名は『Gallery One』*2です。クリーブランドの美術館で使われたものです。

齋藤

これも相当議論したんですが、僕が話したのは、美術館は今後どのような進化をしていくべきかということです。今はどちらかというと、自分がアクティブじゃないと観られないような美術館が多くて、自分で興味があるから、深追いしていって、いろいろなことがわかる。
ただ、そこまでリテラシーが高い人たちだけが美術館に行くわけではなくて、例えば、たまたまクリーブランドに行ったからこのミュージアムに行こうという人たちもたくさんいるので、その人たちにどれだけ発見をしてもらうかが大切です。
今ニューヨークのMOMAでも端末を渡して、Webサイトで同系色の作品をバーッとインデックスで見ることができるとか、デジタルのいわゆるデータベース化は普通にあって、まあそれにはあまり驚かないと。しかし、この『Gallery One』がすごかったのは、自分の顔で表情をつくると、画像解析、表情解析をされて、その表情に近い、例えば彫刻だったりもしくは絵画だったり、ポーズもそうなんですけれど、体験を伴うデジタルの使い方ができて、それが素晴らしいなと思います。
僕自身もブラック(ペンシル)を獲ったことがないので、まだ狙いにいってますけど(笑)。審査員たちは、テクノロジー的にみて素晴らしいもの、つくり手としての挑戦、あとは一般の人たちに対する波及能力とか訴求能力とか、わかりやすさとか、インターフェースとか、そこら辺やもちろんデザインも含めて見ていきます。しかし、そういう基準はあるものの、デジタルデザインの審査員のまとめ役、Joshua Davisが、デジタルの人なら知っていると思いますが、それこそ神様のような人が最後に、「選ぶのは、本当は自分だったらやってみたいことをやられたもの、悔しいものを正直に選ぼう」と。僕だったらこうした、っていうのを含めて議論しようという話をしました。
今回の『Gallery One』という作品は、美術館であのようなことをやらせてくれて、しかも体験も伴った上でデータベースも構築されて、新しい美術の引き出し方があるということで評価されたんです。
日本でも僕なんかが展示するときは、例えば、バックステージツアーとか教育普及というものが荷としてついてきます。ダンス公演などを見ていると、どういうふうにつくっているのかという、子どもにも向けたツアーとか、そういうものはあるんですが、教育普及というと裏方という位置づけであまり表に出てこない。なので、ほぼ美術館それぞれはコンテンツ化をあまりしない。
ただ最近はちょっと変わってきて、集客がしやすいので、子ども用の展覧会をやったり、それとか科学系のミュージアムでも、そういう教育を伴ったこともやるんですが、あまり我々がつくっているものにはハイエンドなデジタルデザインは入っていなくて、結構見よう見まねでつくったデジタルサイネージだけあって、どう使っていいのかわからないというのが多いです。
でも、ここに紹介したようなミュージアムの作品は、たくさんの美術館の方に見てもらって、美術館もこのようなデジタルの使い方があること、もしくは歴史の中の作品のアーカイブを見せることができるということを参考にしてもらいたいなと。そういう意味での最終的なイエローペンシルという感じです。

齋藤

次にキューバ危機のアーカイブのWebサイト『Clouds Over Cuba』*3をご覧いただきたいんですが、これはデザイン的にもテクノロジー的にもとてもバランスのとれたつくり方をしています。
我々がすごく評価したのは、完全な制作者としての目線ですが、これはFlashサイトに見えながら、実はHTMLで全部つくられている。制作に関わっている方々はわかると思うんですけど、キャンバスといわれるようなつくり方をしていて、結構大変なことを行っているんですね。最近はFlashだとiPhoneで見ることができないという問題を、すべて考慮した上でつくられています。
もうひとつ、制作の立場からの素晴らしいところがあって、これだけ膨大な映像をしっかりとアーカイブして、編集して、それを記事化もしているところもすごい。
さらに、これを全部見るとキューバ危機がどういうものであったかというのがすべてわかる。要は、本をたぶん4冊くらい読んだのと同じくらいの情報量が入っているサイトです。
プラスアルファ、スマホからコントロールができる機能がしっかりついていて、インターフェース論としても今年1番しっかりしたインターフェースで、ユーザビリティも考えられています。
審査員みんなで、ここでまたデジタルブックって何なんだ、という長い議論をしました。デジタルブックって、あるべきかないべきか。それとデジタルブックだからできることというのはなんなのかという話をしたのですが。
これはブックではなく、どちらかというと映像集なんですね。文字もたくさんあるんですけど。もしかしたらデジタルブックって、今だとなんとかリーダーの中に読み込まないとできないものが、こうやって本当はWebにアーカイブ化されて、それが読めるようになっているのが1番美しいんじゃないかっていう。それは教育的な観点から見て、これを追い抜くようなWebサイトがひとつ来年も出てきてほしいという観点でイエローペンシルに選びました。

古屋

つくり手の齋藤さんにお伺いしたいのですが、これは非常によくできた例だと思いますが、こういう作品は、つくり手がいかにもこう誘導しようというか、そう見えてしまうという作品もあると思うのですが、そこの難しさはどうお考えですか。

*2:『Gallery One』デジタルデザイン部門 イエローペンシル受賞。クリーブランド美術館の教育向けソフト。展示されている作品を自分たちが選んで、自分たちの好きなように見ることができる。

*3:『Clouds Over Cuba』デジタルデザイン部門 イエローペンシル受賞。制作はThe Martin Agency。キューバ危機のアーカイブのWeb サイト。ペーパーだけで200種類、インタビューの数も15人に及んでいる。

デジタルは人にすり寄れる
デジタルは人にすり寄れる

齋藤

デジタルだからできる、他の分野との大きな違いは、デジタルはもっと人にすり寄れる、もしくは膝を屈めて目線を合わせて対話ができるもので、そうあるべきだと思うのです。もちろん紙もそうですが、もっとこれどうでしょう、というものがデジタルにできることだと思うんです。
さっきのクリーブランドもそうですけど、もしもダンスに興味があるなら、そこからも入ることができるし、ど真ん中のアートに興味があるならそこからでも入れるし、映画だったらそこからも入れるし。そういういろいろな入り口があるべきかなと。
クリーブランドに関しては、たくさんの入り口はないですが、結果的にWebをつくっている人たちは、このWebサイト自体をみんな知っているんですよ。つくり方として新しいことをやっていたり、デザインとして洗練されたことをやっていて、ひとつのベンチマークとして見ていて、そこも結構バカにできない波及力がある。もっともっと人に知ってもらえるような、たぶん知らないうちにプラットフォームができているので、そこも含めて素晴らしいなと思います。
なので、デジタルができることって、万人にいろいろな入り口をつくってあげるようなこと、ですかね。

齋藤

この『Font Me』*4という作品は、システムとデバイスの部分は、うちがつくっていますが、審査の様子はよくわからないんです。なぜかというとD&ADでは、審査員が誰であってもそのプロジェクトに関わっているものを審査する場合は、外に出なきゃいけないんです。なので僕は外にいたので、なにを語られていたかはわからないんです。作品について簡単にお話しすると、デジタルの使い方として、体験したものがデジタル化されて、最終的にAdobeさんのフォントになって、それがしかもダウンロードができるというものです。体験に伴うデジタルの展開というのが素晴らしいなあ、と。そういう話を夜飯食いながら他の審査員から聞かされました。

古屋

ちょっと意地悪な質問をしますが、インブックにとまった理由とか、思いつくところはありますか。

齋藤

うーん。僕は、最近デジタルの工程をつくるときに、すごく感じているのが、広告と美術の派境をつくっているような気がしていて。特にうちの会社がやらせていただいているのは、その派境のちょうどギリギリのところをどうバランスをとるかということをやっていることが多いのです。プロモーション、広告って非常に儚いので、3ヶ月終わったらなくなるというのが常なものなのですが、これがもしも美術館で展示され展開されていたとしたら、社会に残るような、もしくは新しいフォントのつくり方として、からだを動かしてフォントをつくろうみたいなことができたら、もしかしたらもっとうまくいったのかなあとは思うんですが。まあ個人的な意見です。

古屋

これは『Font』というタイトルですが、実際フォントとしてアルファベット、日本語のひらがなも全部つくれるものなんですか。

齋藤

そうです。フォントダウンロードというのがあるので、確かTrueTypeでダウンロードできるはずです。

*4:『Font Me』デジタルデザイン部門 インブック。制作はBascule。

インターフェースが去年から劇的に変わった
インターフェースが
去年から劇的に変わった

齋藤

いろいろな審査をさせていただいていますが、D&ADの審査に対するストイックなところは毎朝8時集合で、ちょっと朝のグリーフィングがあって、大体8時半には席に座ります。デジタルの審査をする部屋は窓がない。暗くて狭い(笑)。基本暗くしてみんなで画面を見ると。それを朝8時から夕方6時くらいまで。途中に昼食休憩がありますが、基本的にみんな頭がフル回転のまま、1日を終えます。
どこの部分がいいか、もしくはどこの部分を文化としブックに残すのか、もしくはWebサイトなり紙なりに残して次の世代に引き継いでもらう。100年後に、もしも地球が滅びて、どこかの惑星の人がこの本を拾ったら、先人たちは、こんな素晴らしいものをやっていたんだっていうものをちゃんと残せるような選び方を本当にストイックにやっていたのが、すごく印象的です。

古屋

審査員長はJoshua Davisと、GoogleのクリエイティブディレクターのAaron Koblin。このふたりというのは、さっきJoshua(Davis)のお話をしていただきましたけれど、Aaronというのは、デジタルデザインの中でどういう存在なんですか。

齋藤

世界的に知られたスタープレイヤーです。みんな挙手して多数決でいろいろと決めていくんですけれども、Aaronが推薦するものは、ことごとく人気がないんですよ。なので、それがGoogleのクリエイティブディレクターで大丈夫なのかっていう話もしたんですけど(笑)。みんなそれぞれ少しずつ着眼点が違います。
笑)。みんなそれぞれ少しずつ着眼点が違います。
スクロールイヤーだって言っていたのは、何もかもほとんどHTMLになって、Flashサイトはインブックに選ばれた中でひとつだけかな。ONLY Jeansというところの映像系の作品なんですけれど。ただもうほとんどHTMLで、要はみんなタブレットで見るので、わーわースクロールしてすべてのコンテンツが見られると。目次があって、その下に続くようなものではなくて、とりあえずスクロールすればすべてが見られる。まあFacebookみたいなインターフェースですよね。インターフェースが去年から劇的に変わったというのが、今年のデジタルデザインでは大きいところだったかなと思います。

パッケージ部門は日本にチャンスがある
パッケージ部門は
日本にチャンスがある

佐藤

パッケージ部門の審査基準は、最初にどういう価値観で見るかという確認はなかったです。グラフィックとかデジタル系の人たちは、本当に缶詰になって大変だったみたいで。私は申し訳ないのですが、1日だけさせていただきました。パッケージの場合は、太陽がサンサンと入るあの広い空間の机の上に、バーッと並んでいるわけです。点数はそんなに爆発的に多くはなかったですよね。日本からもっと出品されれば、結構良いレベルに入ると思います。日本には素晴らしいパッケージもいっぱいあると思うので。

佐藤

この『Absolut Unique』*5は大量生産品ですが、アートワークが全部手で入っています。工程の中でどうやって仕込んでいるんだろうなっていうくらい、カラフルにいろいろなものがあります。出品は何本かですが、それを想像すると、大量生産品の時代に同じものが1本もないというその試みというのは、ちょっと面白いですね。
パッケージは本当にね、審査がわかりやすいんですよ。デジタルなんてね、僕はさっき聞いて、えーって。全然わかんない(笑)。パッケージはわかりやすいんですよ。パッと見て、あ、これ面白いねって。

古屋

審査員の表情もちょっと違いますね。デジタル系のほうに行くと、みなさん集中していて、声を掛けにくいなあって。

佐藤

眉間にシワ寄せて、たぶん暗いところだし。光が届かない深閑の世界(笑)。
そういう意味で、自分が審査をした時はまだイエローペンシルが決まる前でした。この審査の手順というのは、最初の審査があって、そこからあがったものの中から特別な審査員の人たちでイエローペンシルとかを決定する。だからこれがイエローペンシルに決定したのは、あとで報告を受けて聞いたというわけです。

古屋

これがイエローペンシルと聞いて、卓さん的にはいかがでしたか。

佐藤

うーんと…。日本に結構もっといいものはあるかなあという感じは、正直、しましたね。すごい諸手を、という感じではない。まあそうか、っていう感じです。

佐藤

この『Long-Tongued Animal Shoehorns』*6は、わかりやすいというかかわいい。どんな国の人たちが見てもこのアイデアはかわいいなって、誰にでもわかる。店頭でPOPとしても機能するし。実は上の紙でできているところが丁寧によくできているんですよ。パカパカパカパカって組み立てられます。子ども向けだからといって、いい加減につくっていない。だからその辺の仕上がり感は、やはり説得力があったと思います。ただイエローペンシルかあ? っていうのはちょっとあるんですけれど(笑)。

古屋

そうですね。私も正直これがイエローペンシルに残ったと聞いたときに、うーん…と。

佐藤

いろいろな価値観の人が参加していますから。

古屋

卓さんがおっしゃったように、日本のパッケージを見ていくと、素材の選び方とか製法の選び方とか、技術の高い作品が溢れていて、コンビニに行ってもビジュアル的にも素晴らしいものが多いので、それでこれかあっていう正直なところはありましたね。

佐藤

パッケージ部門は、結構チャンスじゃないですかね。これを出したいっていう人が出すと、入る可能性が高い気がします。

古屋

じゃあ、これがなぜイエローペンシルだったのかということですが、この顔の部分は靴ベラを使っていて、ゴミになる前にお面として子どもが遊べるんです。そのすべてが無駄のないようにつくられています。
これまでのパッケージというのはビジュアル的な美しさだったり、技術的な高さだったりというところで競っていたんですけれども、どうしても社会的にサスティナビリティとかエコマインドというのが高まっている、というのでD&ADというのはそういった新しい価値観を示していかなくてはいけないという意味でイエローペンシルでした。

佐藤

この『The Balvenie 50』*7というウィスキーのパッケージは、いくらで売っているのか知らないですけれど、まあ凝っているんです。木の積層の筒状のところに入っているんですけれども、蓋を開けると縁に金属のオリジナルのリングがバチッとついていて、そこに刻印がしてあったりして。もうね、これいくらかかってんのよ? って。だから私はそういう意味で引きましたけどね(笑)。たぶん歴史のあるお酒だと思うんですが、それなりの歴史を背負った上でこれをつくられているという、その説得力があります。これはもう、票を入れなきゃならないだろうと。すごいですね。

佐藤

この『The Erection Blister』*8は薬ですね。カプセルが立っているんです。立っているから、面白いなと思って票を入れました。
実は他の国の人たちは、この薬の意味をわかって票を入れていたんです。私はおもしろいなという意味で(票を)入れていたんです。最終的に上の賞を決めるときに、これ、いいですよねと議論していて、真ん中にポンと置かれたわけです。我々はこの薬の意味がわからなかったので、ところでこれはどういう薬なんですかって言ったら、みんなが私のことをガッと見て、それわかんないで票を入れていたの、みたいな顔で見られちゃって。え、え、って汗がダラーッと出て(笑)。それで説明を受けたら、男性が元気になる薬、EDの薬だそうなんです。よくできていますよね、このアイデアは。パッケージのひと箱の空間に1個だけ立っていて、あとは上げ底みたいに空ですから。でも、外箱のデザインは最悪(笑)。審査員みんなで、これ外箱なきゃねって。外箱あまり写してないでしょ。外箱がよかったら、イエローペンシルとか、もうブラックペンシルまでいっちゃってもいいんじゃないかと思うくらいのアイデア。僕は秀逸、かなり素晴らしいと思います(笑)。

古屋

サスティナビリティとエコマインドを意識したパッケージに関しては、卓さんはどうお考えですか。

佐藤

日本人の環境に対する意識は、意外と浸透していると思います。例えばゴミの分別は地域によって捨て方が違うという問題はありますが、でも今、ペットボトルのラベルを剥がして捨てるとか、剥がしやすくなっているとか、日本は結構進んでいるんですよね。どちらかというと今頃なに言っているのかなって感じかな。もうとっくに日本はそういう意識なんですけどっていう気持ちはちょっとあります。
こういう話を聞くと、日本で起きていることをもっと海外へ伝えていく必要があるな、ということを思います。

古屋

おふた方に、D&ADの審査全体に関してのお話をお聞きしたいんですが。審査のプロセスに関してはなにかユニークだなと思ったことなどはありますか。

齋藤

僕が思ったのは、特にデジタルの場合は日進月歩でいろいろ進化しているので、そこの定義自体を集まってから決めるところ。
日本のクリエイティブはもっといいものがたくさんあるので、絶対にエントリーしたほうがいいです。

古屋

そうですね。今までブラック(ペンシル)に輝いたのは、50年の歴史の中で1作品、2008年の『UNIQLOCK』だけなんです。ただ日本には良い作品がたくさんあると思うのでぜひエントリーしていただければと思います。
ところでD&ADは教育目的というところに非常につながっていますが、卓さんはなにかそういった意味で、デザインと教育という括りで活動をされていますか。

*5:『Absolut Unique』パッケージ部門 ノミネーション。これまで限定パッケージで世界的なアーティストとコラボしてきたが、今回は展開施策を見直した。40,000本ものボトルは、すべて異なるデザインが施されている。

*6:『Long-Tongued Animal Shoehorns』パッケージ部門 イエローペンシル受賞。子ども向け靴メーカーのキャンペーンとしてつくられたパッケージデザイン。靴べらのところが、動物の長い舌になっている。

*7:『The Balvenie 50』パッケージデザインノミネーション。

*8:『The Erection Blister』 パッケージ部門 ノミネーション。男性用のクスリのパッケージ。

政治家や企業のトップがデザインマインドをもっていないと駄目
政治家や企業のトップが
デザインマインドをもっていないと駄目

佐藤

やはり子どものときから、デザインマインドを育むことが大切なんじゃないかと思って、NHK Eテレの子ども番組『デザインあ』とか『にほんごであそぼ』とかをやっています。『にほんごであそぼ』はもう11年くらいになります。デザイン関係者だけがデザインマインドを持っているのではいけなくて、政治家だったり企業のトップがデザインマインドをもっていないと駄目だと。美術大学のときからではもう遅い。これからいろいろなところに散っていく、子どものときにおとなからなにを渡してあげられるだろうかというのは、結構重要だと思います。

齋藤

今、卓さんがおっしゃっていたように、僕なんかが提案するものは、結局クライアントさんも会社を代表する人が決めるわけですよね。そういうところにもっとデザインマインドが浸透したら日本のクリエイティブがだいぶ変わるなと。今まで良いのに刈り取られていたものをもっと残せると思います。協力できることがあったらぜひ言ってください(笑)。
あと、僕は教育に関しては、デジタルは今後教育にどう絡んでいくかというところが気になります。

古屋

そうですね。D&ADにも今後教育というカテゴリーができるかもしれないですしね。

齋藤

そうですよね。なので、そういう意味では、デジタルがどういう方向に教育にかかわっていくか、それでインターフェースはどう変わっていくのかっていうのは、今後僕はすごく楽しみだし、D&ADの中でそれが評価されると、それがひとつの世界的なスタンダードになると思うので、ぜひ来年はそこを見てもらえるとすごくいいと思います。

古屋

『デザインあ』を見た子どもたち、小学生とか、もしかしたらもっと小さい子もいるかもしれないんですが、彼らが将来なにになりたいかと聞かれたときに「デザイナーになりたい」という子が増えてくると思うのです。小学校でも、今は美術、音楽、体育という括りになっていて、そこにデザインというのが入ってこられたらいいなとか。番組を見て思っているんですけれど。

佐藤

デザインは、とかく誤解をされがちなところもあります。面白ければいいじゃないかということでも、またない。だけど子どもの入り口としては、まずは面白そうだというのが大切なんだという気がしています。

齋藤

僕は特にデジタルだと機能と美を両方持っていないとたぶん成り立たないもので。パッケージデザインもたぶんその通りで、僕も初めて会場をまわって見ながら、ああ、こういう見方もあるんだとか、他の全然知らないけれど審査員で巨匠の方とも話しながら、こういう考え方もあるんだっていうのはすごく勉強になったので、宣伝ではないですが、50年史の本を見てもそういうことがたくさん書いてあるので、すごく勉強になるなと思います。