REPORT
小山ティナ 両極の環境から見えた“自分の芯” ──テクノロジーの先端世界から日本へ 〈後編〉

Twitter社でプロダクトデザインマネージャーを務める小山ティナさん。生まれ育ったスイスから、東京、そしてシリコンバレーと、歴史や文化が異なる環境に身を投じることで見えてきた、人間が求める幸福の本質、そして日本に秘められたポテンシャル。レポート後編では、テクノロジーの最先端・シリコンバレーのリアルな現状、そしてティナさんの見つけた新しい目標が明らかになります

シリコンバレーへ移住、そしてTwitterへ
シリコンバレーへ移住、そしてTwitterへ

小山

東京で約6年間働いたのち、シリコンバレーへと移住しました。はじめはスタートアップ企業で働き、その後Twitterへ入社しました。

Twitterを選んだ理由ですが、ひとつは2011年の東日本大震災当時、日本で災害時に情報伝達手段として活躍する様を目の当たりにしたこと。もうひとつは東京で勤めていたiA社の代表がTwitterを通して有名になったこと。そうした経験からシリコンバレーの中でも関心の高い会社だったからです。

Twitterでは、はじめは日本専用のデザイナーとして入社し、Twitterの機能を日本用に開発・整備する仕事に就きました。ニュースタブなどが一例です。世界でのTwitterユーザーは約3.3億人、日本はアメリカに匹敵するユーザー数がいるので、日本のことを分かっている私が抜擢されたんですね。

ただ、テック業界というのは変化が著しく早い世界。現在では、国ごとに専用の機能を設けるのは効率的ではないという見解にいたり、日本専用のチームというのは無くなりました。私たちが今目指しているのはユニバーサルデザインです。日本のユーザーのニーズに応えることは、世界中のユーザーにとっても有益なはず。だから、国別に対応するのではなく、世界基準で開発し、同じソースコードで、個人の反応や国籍によって表示を変える、というやり方にシフトしています。

ユーザーが成長させたTwitter
ユーザーが成長させたTwitter

小山

もともとTwitterというのは単純なアプリ。「ステータスアップデート」といって、“今自分はこれをやっています”と伝えるだけのものでした。日本では「なう」として広まった使い方ですね。
Twitterの面白いところは、ユーザーがエンジニアの想定を超えてどんどん新しい使い方をしていったところです。Twitterはユーザーの使い方を研究し、それを取り入れて商品開発をしていきました。

「Twitter is what’s happening now.」
「Twitter is what’s happening now.」

小山

しかし、ユーザーのアクションに対応して改良を続けていくうちに、次第に「Twitterとは一体なんなのだろう。なんのためにあるのだろう」と、作り手の私たちも混乱し始めました。アップデートはしても、イノベーションが起こらず、その結果ユーザー数が伸び悩む時期がありました。
そこに指針を示したのが、創設者の一人であり、現CEOのジャック・ドーシーです。彼は一時Twitterを離れていたのですが、2年前に戻ってきて、私たち社員に「Twitterとは一体なんだ?」と根本的な問いを投げかけました。そして彼が出した答えが「Twitter is what’s happening now.(今起きていることがTwitterである)」というものです。そのメッセージによって、私たちもこれからTwitterがなにをすべきなのか、方向性を共有できるようになりました。

デザイン部門が方向性を決める
デザイン部門が方向性を決める

小山

Twitterでは今、開発の仕方を大きく変化しようとしています。デザイン&リサーチ部門が会社をリードし、「Jobs to be done」* フレームワークにシフトし、根本的に製品開発はユーザーニーズをベースにしていく方法です。一体なぜツイッターは雇われるのか、どう言う「job」に雇われるのか、リサーチをベースに解明した上で開発を進めていきます。

*「Jobs to be done」:マーケティングにおいて、消費者の「欲しいもの」を調べるのではなく、「なぜその商品を購入したか」という理由を調べ次の製品開発につなげるフレームワーク。消費者の目的を「Jobs To Be Done(片付けたい仕事)」、そのために商品を買うことを「Hire(雇う)」という言葉で表現する。

「本当に大事なもの」を探す人々
「本当に大事なもの」を探す人々

小山

アメリカは個人主義の世界。自分の野望を実現するために自分を売り込むのが上手ですし、金銭的にも成功したい、もっと贅沢な暮らしをしたいという欲をみんなが持ち、それが発展の原動力になってきました。

一方、日本の人々と付き合ってみると、意外なほど欲がない。「ちょうどいい」とか「身の丈にあった」という感覚があって、物質や金銭以外の、精神的なバリューを大切にしている気がします。

今、シリコンバレーで働く人々の中でも、この日本的な価値観にシフトする人が増えています。山ほどお金を稼いでみたものの、そんなに幸せになれていない。本当に大事なのはお金では買えない「時間」と「自由」なんじゃないか? そう意識が変わって、シリコンバレーを離れる人も現れ始めています。

小山 ティナ
プロダクトデザインマネージャー

Twitter社プロダクトデザインマネージャー。スイス人の父と日本人の母のもと、スイスで生まれ育つ。チューリッヒ・ユニバーシティ・オブ・アーツ・アンド・デザイン卒業後、来日。東京のデザイン業界で約6年間過ごしたのち、アメリカ・シリコンバレーに移住。2016年twitterへ入社。デザインとエンジニアリングの架け橋となるデザインシステムを担当している。1児の母。
@tinastsh
swissjapanese.com

日本の持つ価値に注目してほしい
日本の持つ価値に注目してほしい

小山

私の周辺にも、日本に来る人、日本を好きな人が増えています。日本には長い歴史があり、ロングタームな考え方ができる土壌があって、優れた手仕事や素晴らしい文化がたくさんある。精神的に成熟している。今、デジタルやテクノロジーの最先端にいる人たちはそこを高く評価しています。

反面、日本のみなさんは自分たちの国のもっているポテンシャルに気づいていないんじゃないか、と思います。ヨーロッパやアメリカのカルチャーを追いかけるんじゃなくて、自分の国にあるものを見つめていけば、世界に発信していくべき素晴らしいものがまだまだあるはずです。また、新しいものを追い求めるだけでなく、保護、保全し価値を守っていくことにも目を向けてみてほしいと思います。

グローバルとローカルを繋げるのがテクノロジー
グローバルとローカルを繋げるのが
テクノロジー

小山

グローバルとローカルを繋げる、それがテクノロジーの力だと思います。私はシリコンバレーというグローバルな環境で働いてきましたが、これからはローカルに新しい可能性があると感じています。その中で、一番可能性を感じるのが日本です。

将来的な夢として、これまでに培ったテクノロジーの知識を活かして、日本の価値をグルーバルに発信していく架け橋になりたい。日本でみたモノづくりの素晴らしさと、それが衰退の危機にある現状。伝統的な産業の現場にテクノロジーが結びつくことで、世界の中で注目を集め、経済的にも持続的に発展していく流れを作れたらいいなと思っています。

極から極へ、身を投じる
極から極へ、身を投じる

小山

私はスイス、東京、シリコンバレーと、価値観の両極を経験したことで、自分は何を大切にしたいのか、ぶれない芯を見出すことができました。

極端な環境を体験するというのは、別に海外に行かなくてもできること。普段都心にいるのなら、思い切り田舎に行ってみるとか、ヨガや座禅で心を静めた後に都会の喧騒の中に行ってみるとか。今、同じ環境、同じ日常に閉じこもっている人は、一度正反対のことにトライしてみてはいかがでしょう。新しい視野が手に入ると思います。

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