NDC LUNCH
MEETING

徳井 直生
株式会社Qosmo 代表取締役

Event Date : 2015.02.21

徳井 直生 株式会社Qosmo 代表取締役

先進のテクノロジーや独自の発想で、デザインの可能性を広げる人たちがいます。
さまざまな領域を横断し、これからのデザインをともに考える対話の場「NDC LUNCH MEETING」
今回は、AIと人の共生による創造性の拡張の可能性を模索している、
メディアアーティスト、DJ、Qosmo代表取締役の徳井直生さんをお迎えしました。

音によって、見えないものを見せたい───徳井
音によって、
見えないものを見せたい
───徳井

徳井

2008年。iPhoneが現れた年です。App Storeが公開されるというので、急いで2週間くらいでアプリを作りました。「World 9」。日本語では「9の1」というアプリです。ポケットに入れてジャンプすると音がする、そんなシンプルなアイデアをアプリ化しました。このときやりたかったことは、「音」を少し加えるだけで、普段過ごしている街がちょっと違ってみえる、ということ。「World 9」は世界で50万ダウンロードされました。私はそれまで、美術館など限られた世界でインスタレーション作品を作っていたのですが、iPhoneアプリを使うことで、世界中のさまざまな人に直接、自分たちのアイデアを届けられることがわかりました。このアプリがきかっけとなり、Qosmoという会社をはじめました。
「音」によって、そこにないものを見せる。その思いは、5年後の「Sound of Honda」というアプリと映像作品に繋がりました。「Sound of Honda」は、音でF1ドライバーのアイルトン・セナのファステストラップを再現するもの。澤井妙治を中心にQosmoとして企画から参加しました。「World 9」と規模は全然違うのですが、コンセプトは近いのです。
現在、いろんな媒体を使っていますが、基盤にあるのは「音」です。モバイルだったり、データだったり、AIだったり、そういった分野のお仕事も増えてきていますが、基本的に、音を媒体にしたプロジェクトをやっています。

作った本人が想像もしなかったアウトプットが生まれる───徳井
作った本人が想像もしなかった
アウトプットが生まれる
───徳井

徳井

コンピュータの中に環境を作り、その中で仮想生命を進化させる仕組みを作った人がいます。コンピュータグラフィックスの研究者、カール・シムズです。彼が研究していた「Evolved Virtual Creatures」は、簡単に言うと、まずボディやジョイントなどシンプルな機構を持つ個体をたくさん作ります。次に良い動きをした個体同士を掛け合わせて新しい個体を作ります。そしてそれを何度も繰り返すことで進化させる、という仕組みです。システムを作っただけで、システムの中で想像もしなかったような動きが生まれる。大学時代、私は、これにすごくロマンを感じて、人工生命と人工知能に関する研究室に進学しました。
進化の仕組みをつかって具体的な問題を解くことも可能です。例えば「巡回セールスマン問題」を解くことを考えてみましょう。たくさんの都市をセールスマンが巡回するとき、ランダムに回ると無駄な移動が多くなりますから、巡回の経路を最短にするにはどうしたらいいか、という問題。解き方は、都市に番号をふり、ランダムに数字の列を作り、それぞれ計算します。そして比較的良かったものだけを残し、残したもので次の世代のものを作っていきます。ただ残すのではなくて、成績の良いもの同士を掛け合わせたり、一部をちょっと変えたり、ということをして次の世代を作るのですが、これは遺伝でいうところの「交差」や「突然変位」にあたります。この生物の進化の仕組みを繰り返していくと、徐々にいいものが残っていくのです。こうして進化の仕組みを最適化に用いる計算手法を、「進化的計算手法」と呼びます。

徳井 直生 Tokui Nao
株式会社Qosmo(コズモ) 代表取締役

1976年石川県生まれ。Qosmo代表取締役、メディアアーティスト、DJ。東京大学 工学系研究科 電子工学専攻 博士課程修了。工学博士。ソニーコンピュータサイエンス研究所パリ客員研究員などを経て、2009年にQosmoを設立。AIと人の共生による創造性の拡張の可能性を模索している。近作にAIを用いたブライアン・イーノのミュージックビデオの制作など。また、AI DJプロジェクトと題し、AIのDJと自分が一曲ずつかけあうスタイルでのDJパフォーマンスを国内外で続けている。主な展示に、2011年「N Building」(「Talk to Me」展/ニューヨーク現代美術館)、2017年「The Latent Future」(Open Space 2017/NTT ICC)など。
Qosmo

Aを入れたらA’が、もしかしたらDが返ってくるとか───徳井
Aを入れたらA’が、
もしかしたらDが返ってくるとか
───徳井

徳井

学生時代からDJをやっていまして、その当時も曲を作っていたのですが、「進化的計算手法」に夢中になっていた私は「進化的計算手法」で曲を作れないか、と考えました。自分の音楽的才能にそれほど自信がなかったこともあり、ソフトウェアを書いて音楽を作れば、他の人が作れない音楽ができるかもしれない、と思ったのです。
ただ、問題がありました。さきほどの「巡回セールスマン問題」と違い、いい音楽ってなんだ?を、コンピュータで評価するのはなかなか難しいからです。そこで私は、一曲一曲人間が聴いて判断する「対話型進化計算」という手法を考えて音楽を作りました。大学院のときに作ったシステム「SONASPHERE」は、いわばモジュラーシンセサイザーの3D版でした。
「SONASPHERE」は、研究という点では、音で、予測可能性と不可能性のバランスを探るプロジェクトでした。コンピュータのおもしろくないところは、インプットに対するアウトプットが基本的に同じ、というところだと思います。ですが、音を作るとか、デザインもそうだと思いますが、同じインプットに対して毎回異なるアウトプットが返ってくるようなシステムがあってもいいんじゃないか。Aを入れたらA’が返ってくるとか、もしかしたらDが返ってくるとか、あり得たかもしれない可能性をコンピュータが拡張して返してくれたらいいなぁ、と思って作っていました。

齋藤(NDC)

Dが返ってくるというのは「突然変異」ですよね。具体的にどういうことでしょうか。

徳井

音楽を数値化してデータにしているのですが、例えば「1000」という音楽のデータを「0010」にするとか、半分に切って入れ替えるとか、です。

齋藤

人によるクリエイティブを入れて、後の方向性を決めるのですか。

徳井

ここは機械的にやっていますが、ランダムに出たものから比較的いいものを人間が選んで、あとは、一定の割合で掛け合わせたりとか、そこの割合を決めることが、実はキモだったりします。「突然変異」の率を高くすると、バリエーションは増えるけど収束しません。逆に、突然変異がないと、ひとつのものに全部まとまってしまいます。

深津 貴之(THE GUILD代表)

間接的な作り方ですよね。自分の仕事は神になること。ルールだけ作る。あとは、進化に任せる。

徳井

そうです。あとは評価軸をあたえること。進化の世界にあてはめると、人の好みが「自然環境」になるわけです。

参加者の評価で進化するシステムを作りました───徳井
参加者の評価で進化する
システムを作りました
───徳井

徳井

2015年、Qosmoで、テレビの「NHKスペシャル NEXT WORLD 私たちの未来」で、サカナクションのテーマ曲のリミックスをウェブ上で作りました。このとき「対話型進化計算」という手法で、参加者の評価によってリミックスが進化するシステムを作りました。

鍋田(NDC)

評価のプロセスに興味があります。どのように評価したのですか。

徳井

音楽の場合、一曲一曲聴かなければいけないで、すごく時間がかかり、並列に評価できないところが問題です。なので、ユーザーに4つのメロディを提示することにしました。それを順番に聴いていただき、評価していただくのです。どれも気に入らない場合もありますから、シャッフルボタンで別の4つが出るようにしました。そして、250人の評価が終わると、一回世代交代が起きるようにしました。

鍋田

もしかすると、最初のほうで選択した人の結果が、強く反映されていきますか。

徳井

はい。最初に選んだ人の好みが、進化の方向性を決めてしまうことがあるので、多様性を担保しながら進化を進めていきます。そのバランスが難しいのです。NHKの場合、テレビで放映されるので、あんまりヘンな音になっても困るので、バランスには注意を払いました。

AIが進化したとき、人間に残された行為とは───深津
AIが進化したとき、
人間に残された行為とは
───深津

徳井

現在、DJとしては、「2045」という、人工知能、ビックデータ後のVJ/DJ表現を考えるイベントを開催しています。2015年の「2045」では、過去のDJのプレイリストを50万件くらい集めて、それを人工知能に選曲させました。イベント名は、2045年問題、シンギュラリティからきています(※1)。
人間がDJをしたときと、人工知能がDJをしたときで、オーディエンスの反応がどう変わるのか、そこに興味があります。参考になるのは、そこにいるだけでなにもしないセレブDJでしょうか。あるセレブDJの面白い逸話があります。盛り上がった彼がDJブースの上に立ち上がった時にブースが倒れてしまったんですね。それでも何事もなかったように音楽は流れ続けてました。要するに彼はそこにいて操作をしているふりをしていただけで、実は何もしていなかったのです。だけど、そのセレブDJがいるのといないのとではぜんぜん盛り上がり方が違うわけで、人間っていうのはアイコン的ななにかを求めてしまうのかもしれません。人工知能が表現に介在するとき、価値はどこに生まれてくるのでしょうか。

※1 2017年現在、人工知能のDJと人のDJが一曲ずつかけあうパフォーマンス 「AI DJ Project」に進展している。

深津

長谷俊司さんの「BEATLESS」という小説を思い出しました。この本を読むと、AIが高度に進化した場合、人間に残されたことは、責任を取ることしかないのか、と考えさせられます。

徳井

同じですね。「2045」では、選曲をしているのは人工知能。でももしイベントが失敗したら、責任は人間なのかもしれないですね。