NDC LUNCH
MEETING

池澤 あやか
東宝芸能株式会社/タレント・エンジニア

Event Date : 2014.08.08

池澤 あやか 東宝芸能株式会社/タレント・エンジニア

先進のテクノロジーや独自の発想で、デザインの可能性を広げる人たちがいます。
さまざまな領域を横断し、これからのデザインをともに考える対話の場「NDC LUNCH MEETING」
今回は、デジタルに強い「GEEK寄りタレント」としてプログラミングや
Webの領域でも活躍されている池澤あやかさんをお迎えしました。

「もっとプログラミングを勉強しなければ!」と思いました───池澤
「もっとプログラミングを
勉強しなければ!」
と思いました
───池澤

菅原NDC

タレントとしてもご活躍の池澤さんですが、プログラミングを始めるきっかけは何だったのでしょうか。

池澤

Webの世界には高校の頃から興味がありましたが、プログラミングの勉強を始めたのは大学からです。特に、ゼミに入ってからですね。電子工作やメディアアートといった分野のゼミだったんですが、そこで初めて出されたプログラミング課題が当時の私には非常に難しいもので。「もっとプログラミングを勉強しなければ!」と思いました。
大学でopenFrameworksやProcessingといったツールを学んだり、個人的にRubyというプログラミング言語の勉強合宿に参加したりしました。普段Webの仕事をするときは、だいたいHTMLやCSS、JavaScriptで完結させてしまいますが、RubyはわりとWebに近い言語なので生かすチャンスも多いですね。

プログラミングの仕事について、詳しく教えてください───有馬NDC
プログラミングの仕事について、
詳しく教えてください
───鍋田NDC

有馬NDC

プログラミングの技術を生かした仕事について、さらに詳しくお聞きしたいです。

池澤

先日、21_21 DESIGN SIGHTで行われた「コメ展」という展覧会のインスタレーション作品に携わりました。TwitterやInstagramで「#kometen」というハッシュタグを付けて写真を投稿すると、その写真がたくさん表示されるという作品があったんですね。私の仕事は、タグの付いた写真を引っ張ってくるプログラムをRubyで書くことでした。ただ、#kometenって短いタグなので、コメ展と関係ない写真が入ってくることもあって。そういった不必要な写真を削除する機能の実装もしています。
他にはたとえば、TOKYO FABBERSというコミュニティのティザーサイトの制作をさせていただきました。3Dプリンタやレーザーカッターなどを用いてものづくりを気軽に楽しむFABという活動があるんですが、各地にあるFABの拠点の情報を一カ所にまとめたサイトがあれば便利じゃないか、ということで。

SNSに投稿されたコメ展の写真を集めることで、来場者の興味を可視化している(※コメ展では会場内の作品を来場者が自由に撮影できた)。

池澤あやか Ikezawa Ayaka
東宝芸能株式会社/タレント・エンジニア

タレント。エンジニア。東宝芸能株式会社所属。1991年生まれ。2006年、第6回東宝シンデレラ審査員特別賞受賞。同年、映画「ラフ」にてデビュー。2014年、慶応義塾大学環境情報学部卒業。映画やドラマなどで活躍する一方、特技であるプログラミングの技術を生かした「GEEK寄りタレント」としての仕事も多い。Webにまつわる主な仕事に、雑誌「MacPeople」での連載「池澤あやかのギーク道」、Eテレ「NHK高校講座 社会と情報」のMC、株式会社まちづくり三鷹、高橋征義との共著『小学生から楽しむRubyプログラミング』(日経BP社)などがある。
http://ikezawaayaka.com/

菅原NDC

今お話にあったような仕事は、フリーランスのWebエンジニアとして、池澤さんに依頼が来るのでしょうか。

池澤

そうですね。だいたいフリーランスのような形で。たとえばTOKYO FABBERSの仕事は、渋谷にあるFabCafeから直接声をかけていただきました。

魚と交流するための水槽があってもいいのでは───池澤
魚と交流するための
水槽があってもいいのでは
───池澤

有馬NDC

以前FabCafeで行われたイベントでは、池澤さんもメディアアート的な作品を披露されていましたよね。

池澤

コミュニケーションするための水槽のことですね(笑)。水槽というものは普通、魚を観賞するためにありますが、魚と交流するための水槽があってもいいのではないかと思いまして。水槽の一部に指を置くことによって、中で泳ぐメダカの動きを操ることができる水槽を作りました。これ、どうやってメダカの動きをコントロールしていると思いますか。
エンジニアは、自分の得意とする技術領域を活用し、さまざまな機能を提供することができますが、ユーザー体験という視点が抜け落ちてしまうことがあります。そこをデザイナーと協力することで、エンジニアからすると、「あ、そういう風にしてユーザーはサービスを使ってくれるんだ!」という新しい視点が生まれるんだと思います。

三好NDC

水流を変えるボタンなどを押すとか…でしょうか。

池澤

あ、惜しいです。実は水自体は動いていなくて、水槽の壁が回っているんです。メダカって、周囲の景色が変わると水流が変化したように錯覚するらしくて。水流に逆らって泳ぐ川魚としての習性を利用して、水槽の壁、つまりメダカが見ている景色を、くるくる回転させることで動きを操っています。FabCafeでの展示では水槽の壁そのものが動く構造でしたが、以前はプロジェクションマッピングを使って水槽の壁に映像を投影していました。映像を変化させてメダカをコントロールしていたんですが、ちょっと見た目が派手すぎたので(笑)、壁自体が動くようにしたんですよね。

初めてプロジェクションマッピングをする方には、おすすめです───池澤
初めてプロジェクション
マッピングをする方には、
おすすめです
───池澤

菅原NDC

そういったプロジェクションマッピングもRubyでプログラムを書くのですか。

池澤

プロジェクションマッピングではopenFrameworksを使います。簡単にプロジェクションマッピングができるので、初めての方にはおすすめですよ。ちなみに「週刊アスキーPLUS」というWebサイトで、openFrameworksを使ってプロジェクションマッピングをしたときの動画が公開されています。

深津貴之(THE GUILD代表)

プログラムでプロジェクションマッピングをするときは、openFrameworksかProcessingか、あとはCinderなどを使う人が多いですよね。

タレント活動とデジタルな仕事との比率は?───鍋田NDC
タレント活動と
デジタルな仕事との比率は?
───鍋田NDC

鍋田NDC

Webサイトの制作だけでなく、水槽など、メディアアート的な活動にも積極的な池澤さん。タレント活動とデジタルな仕事との比率はどういった感じなのでしょうか。

池澤

旅番組のロケのような仕事もしていますよ(笑)。でも、プログラミングに関係したタレント活動も多くなってきています。先ほどのプロジェクションマッピング動画などもそうですし。

有馬NDC

池澤さんは、Twitterのプロフィール欄に「ややGEEK寄りタレント」とお書きになっていますよね。

池澤

はい(笑)。タレント活動と関連した「GEEK寄り」な仕事としては、大学時代のゼミの先輩と一緒にやっている連載があります。「ポケットがなくっちゃはじまらないっ!」というタイトルでして。

「小動物がいるかのようなポケット」と「高尾山メーター」───池澤
「小動物がいるかの
ようなポケット」と
「高尾山メーター」
───池澤

池澤

おもしろい胸ポケットを作ろう! というプロジェクトなんですが、まず作ったのが「小動物がいるかのようなポケット」です。シャツの胸ポケットから、リスの尻尾をイメージしたものが飛び出ていまして。尻尾はモーターにつないでいるので電気で動くんですけど、動物らしさを表現するために、乱数を利用したプログラムで動かしています。
他には、「高尾山メーター」というポケットを作りました。高尾山の標高と連動していて、山頂へ行けば行くほど胸ポケットに付いているLEDが点灯していくというものです。ポケットの裏に仕込んだGPSモジュールやArduino互換のマイコンボードが、現在地の標高を取得・計算してLEDを光らせる仕掛けになっています。

菅原NDC

そのマイコンボードというのは、そもそもどのようなことができるのですか。

池澤

プログラミング次第で、いろんなことができます。モーターを動かしたり、計算処理をしたり…。やりたいことに応じたプログラムをマイコンに焼き付けて、電力を供給すればプログラムが走るようになっています。

デザインとプログラミングが協力しないと、何も進まない───池澤
デザインとプログラミングが
協力しないと、何も進まない
───池澤

三好NDC

実際の作品制作の場では、池澤さんのようにプログラミングをする人とデザイナーとが役割分担をしながら進めていくことも多いと思うのですが、そういうときに誤解や対立で苦労したことはありますか。

池澤

もちろん役割分担をすることはあります。ただ私の場合は、プログラミングの経験もあるデザイナーの方との恊働が多いので、誤解や対立といった困難はなく、わりとスムーズに制作が進んでいるように思います。デザインとプログラミングが協力しないと何も進まないので、その二つが協力することはとても大切だと感じています。

やっぱりプログラミングはおもしろい───池澤
やっぱりプログラミングは
おもしろい
───池澤

深津

水槽やポケットの事例など、プログラミングを使ったものづくりのお話は非常におもしろいです。先ほどFABという言葉も出ていましたが、池澤さんは今後、そういったデジタルなものづくり活動を深めていかれるのでしょうか。

池澤

うーん、これからのことはわからないですね。プログラミングなど、好きなものを追求していきたいと思っていますが…。30歳まで待ってください(笑)。

有馬NDC

池澤さんの作品を拝見していると、プログラミングを生かしたものづくりには新しい可能性を感じます。これからもプログラミングを追求されるということですが、その楽しさは、どのようなところにあると思われますか。

池澤

はじめは単純に、自分の書いたプログラムで何かが動くのが楽しかったですね。でも今では、作っている途中、そのプロセスもおもしろいと思うようになりました。いろいろなプログラミング言語に触れていると、それぞれの特徴や法則性みたいなものが見えてきておもしろいんですよね。そういった過程も楽しみながら、これからも新しいことに挑戦していこうと思います。