NDC LUNCH
MEETING

菊池 紳
プラネット・テーブル株式会社創業者

Event Date : 2017.11.21

菊池 紳 プラネット・テーブル株式会社創業者

先進のテクノロジーや独自の発想で、デザインの可能性を広げる人たちがいます。さまざまな領域を横断し、これからのデザインをともに考える対話の場「NDC LUNCH MEETING」今回は、GOOD DESIGN AWARD 2017 金賞を受賞した、「SEND(センド)」などの農畜水産物の生産・流通プラットフォーム開発を手がける、菊池 紳さんをお迎えしました。

現状では農業に対するモチベーションが続かないと思った───菊池
現状では農業に対する
モチベーションが
続かないと思った
───菊池

菊池

20代の頃は金融や投資の世界にいる人間でした。農業に携わるようになったのは祖母から実家の農業を継いで欲しいと連絡があったのがきっかけです。小さい頃から畑に行くのも何かを作るのも好きだったので継ぎたいという思いはあったのですが、正直、現状の農業ビジネスモデルではモチベーションが続かないと思ったんです。その理由は3つあります。
まず1つ目は自分で作ったものが誰の手に渡って、誰が食べてくれているのかがまったくわからないということ。1つの箱にすべての農家の野菜が入れられてしまい、どの市場に卸されたのかわからないケースもある。これでは誰のために野菜を作っているのかわからない。2つ目は丹精込めて作った野菜もそうでない野菜もすべてが一緒にされてしまうということ。みなさんも練りに練ったデザインが落書きと同じ扱いにされたら嫌ですよね?それと同じです。そして3つ目は美味しくない状態で出荷しなければならないという矛盾。これ、どういうことかといいますと、通常の大量出荷の場合、熟していない固い状態の野菜でないと輸送の衝撃に耐えられないんです。それに、箱も規格が決まっているのでそれに見合った形のものじゃないとダメ。熟した野菜とそうでないもの、どちらが美味しいかは明白ですよね。
畑で作られた美味しい野菜が当たり前のように美味しい状態で人の口に入るようにできないかなと考えていました。

鍋田(NDC)

その思いが「SEND」の立ち上げに繋がっていったんですね。

菊池

そうです。美味しい状態で出してそれがきちんと評価されるという形を作りたかった。評価と共に対価が入ってくるのが重要です。それがないと農家としての誇りがなくなるし、継がせようという気も失せるという負のスパイラルに陥ってしまう。
また、生産者の所得の問題もあります。供給過剰による価格の暴落防止のために、生産を抑えて需要と供給を最適化しよう、という方針があるのですが、今まで1トン出荷していた物を100キロにしたら所得は10分の1ですよね。つまり、価格は最適化されても所得はされていない。そういう産業構造になっている限り誰も参入したいと思わないのは当たり前です。世界から食べ物が減っている時代に野菜を作るな、というのもナンセンスですしね。そういった問題を解決しつつ、エネルギーに満ちた元気な食べ物を食べたい人にスムーズに届ける仕組みを作りたいと思って誕生したのが「SEND」です。

菊池 紳
プラネット・テーブル㈱創業者

起業家。産業アーキテクト/ビジネス・デザイナー。”食べる”をテーマに、デザイン/テクノロジー/サイエンスを活用し、未来への提案となる事業を生み出している。
1979年東京生まれ。2002年、慶應大学法学部法律学科卒業。投資銀行、コンサルティング、投資ファンド業界にて企業支援に従事。2013年、農林漁業成長産業化支援機構(官民ファンド)の設立に参画、シニア・ディレクターに就任。2014年にプラネット・テーブル㈱を設立。「SEND(2017年グッド・デザイン金賞)」、「SEASONS!」「Farmpay」など、新しい生産者支援プラットフォームを開発・運営している。Next Rising Star Award(Forbes Japan)受賞、EY Innovative Startup Award(新日本監査法人)受賞。Food Innovation Initiative発起人/主宰。
 
プラネット・テーブル株式会社

流通時間を従来の3分の1に───菊池
流通時間を従来の3分の1に
───菊池

菊池

「SEND」は全国の意欲的な生産者と、そういう人たちから食べ物を仕入れたいという個人経営のレストランオーナーを繋ぐ、農畜水産物の物流マッチングプラットフォームです。個人店のオーナーは食材に対してそれぞれ強いこだわりを持っています。そういった人たちの需要を生産者に伝え、最適な物流で両者を繋ぐサービスです。流通じゃなくて“物流”を強調しているのは他の業者を使わずに自社のクルマとスタッフのみで回るシステム、そしてそれを叶えるデータ設計を実現しているからです。

鍋田(NDC)

物流とデータを組み合わせた仕組みとは具体的にどのようなものなのでしょう。

菊池

オーナーからのリクエストやフィードバックはもちろん、そのレストランの過去のメニューや立地、来店客の属性、単価、規模感、近くで開催されるイベントなどの情報を細かくデータ化するんです。例えば西麻布だと香味や癖のある食材が人気があるけど、渋谷だともっと汎用性のある食材の需要があるとか…そういう差異を浮き彫りにしてデータをとるようにしています。
そしてそれを元に需要の予測を立ててマッチしそうな生産者を探して話を進めていきます。最適な地域の生産者に最適な量を発注して、配送のルート設計も徹底的に効率化を図っているから食品ロスが極端に少なくなるし、何よりも収穫をギリギリまで待てるのが大きい。既存の流通だと最短でも獲ってから4日かかるところを「SEND」なら3分の1の時間で済みますから。まさに畑の美味しさをそのまま届けられるわけです。
自分たちのマージンを極力少なくしてその分、生産者に支払える額を大きくしているというのも他のベンチャーとは違うところですね。利益率が低くても利用者が広がればいいという考え方です。そして、やっぱり少しでも多く生産者に還元してあげたいというのが強い。これは僕の意志でもあります。

曽我(NDC)

どんな生産者の方が「SEND」を利用しているのか気になります。

菊池

やっぱり物作りの人です。クリエイターに近い性質を持っている人が多い。そしてみなさん本当にめちゃくちゃハングリー。農協に言われたものだけ作ればいいや、って人はいないですね。
「今はどんな需要があるの?みんなが求めているものは?葉物だったらこれが作れるよ!」みたいに言ってくれる。エンジニアやデザイナーと会話しているような錯覚に陥ります。
あと、意欲的な生産者の人って同じようにやる気のある生産者の人と繋がりがあるから、こちらがしっかりとした仕事をしていれば口コミで「SEND」を広げてくれる。農家同士ってSNSみたいなインターネットよりもface to faceでのコミュニケーションの方が早かったりするんですよね。

デジタルとエモーショナルの融合が大切───菊池
デジタルと
エモーショナルの融合が大切
───菊池

三好(NDC)

自分がレストランオーナーだとするとイレギュラーな天候によって食材が届かないとか量が足りないみたいなトラブルが気になります。リスクマネジメントに気を遣いそうです。

菊池

欠品に関しては自分たちだけの問題ではないのでどうしようもない部分も正直あるのですが、もちろん座して待っているわけではなく、ここでもデータが役立っています。
例えばトマト。常に複数の場所に供給先を散らすようにしているのですが、鹿児島の東と高知の西からは一緒に取らないようにしています。これ何故かというと台風が来ると同時にやられちゃうからです。こういう風に過去の台風や天候をデータ化して調達を切らさない工夫をしています。
でも、データは神様じゃない。欠品の発生や、逆に食材が余ってしまうことは起こります。そういう時はこちら側からシェフに新しい食材の提案をするんです。そうすることでロス削減にも繋がるし、来月のメニューを探ることもできる。営業というインターフェースも大切にしています。デジタルとエモーショナルの融合といったところでしょうか。

データのお話が続いていますが、信頼できるデータ量を確保するためには反復的にサービスを利用してもらうことが重要ですね。

菊池

そうなんです。繰り返し利用してもらわないとデータが取れない。使ってもらうこと自体に意味があるので、価格設定もそこを重視しています。
後はシミュレーションですね。様々な変動やアクションポイントを元に分析して仮説を立ててみる…そういう実験的なことをしています。機械を使って効率化した解析をしているイメージです。

深津 貴之(THE GUILD代表)

開発やデザイン等何人くらいのメンバーでまわしているのでしょうか。

菊池

開発チームは全部で20人くらい。大きくは設計をするクリエイティブチームとオペレーションチームの二つです。オペレーションチームは産地側の担当とシェフ側の担当、そしてロジスティクスを回している担当で別れています。
生産者とやりとりするシステムと、シェフとやりとりするシステムはそれぞれ独立していてそれをAPIで統合しています。つまり「SEND」は様々なシステムを組み合わせた複合サービスです。
僕としては今後事業を拡大させていくことも重要だとは思っているんですが、それよりもこのモデルをJAをはじめとした他の農業関係者にもどんどんマネしてほしいと思っています。そうやって社会が変われば、生産者がハッピーになる。そんな世界が理想ですね。