NDC LUNCH
MEETING

舘野 祐一 
WAmazing株式会社共同創設者

Event Date : 2017.03.07

舘野 祐一  WAmazing株式会社共同創設者

先進のテクノロジーや独自の発想で、デザインの可能性を広げる人たちがいます。
さまざまな領域を横断し、これからのデザインをともに考える対話の場「NDC LUNCH MEETING」
今回は、エンジニアとしてさまざまな企業で活躍し、またCTO(最高技術責任者)として経営者の観点からもエンジニアの未来を見据える、舘野祐一さんをお迎えしました。

エンジニアの技術力を、さらに価値に繋げたいと思ったことがCTOになったきっかけです———舘野
エンジニアの技術力を、
さらに価値に繋げたいと
思ったことが、CTOに
なったきっかけです
———舘野

舘野

少しだけこれまでの話をしますが、私は大学時代にコンピューターサイエンスをしっかりやっていたとか、そういうわけでは全然ありませんでした。はじめてプログラミングをしたのは、大学4年の卒業研究でプログラミングが必要だったからです。ただ、卒業研究で作ったサービスが、最終的に1,000人以上に利用され、それがプログラミングってすごく面白いなと思った最初の出来事でした。それから、エンジニアとしての経験を、アルバイト先や株式会社はてななどで積んでいきました。

鍋田NDC

エンジニアからクックパッドの執行役CTOになられたのは、どういったきっかけだったのでしょうか。

舘野

はい。就任する前は、技術部長という約30名のエンジニアをマネジメントする立場でした。そこで、エンジニアの技術力を、さらに価値に繋げたいと思ったことが、最初のきっかけです。それから役員になることで、技術力を経営に活かすにはどうしたらいいのか、経営側がエンジニアに求めることは何なのかというようなことを考え始めました。
 
役員を2年ほど経験した後、クックパッドを退任しまして、それ以降は、さまざまな会社で組織を技術面から支えるというお手伝いをしていました。WAmazingという会社に出会ったのもその頃です。

株式会社はてな

京都に本社を構えるインターネットサービスの運営・管理を行う企業。主なサービスに「はてなブックマーク」、「人力検索はてな」「はてなブログ」等がある。

クックパッド株式会社

「毎日の料理を楽しみにする」という理念のもと、料理レシピの投稿・検索サービス「クックパッド」を運営。

舘野 祐一 Tateno Yuichi
WAmazing株式会社共同創設者

インターネットではid:secondlife@hotchpotchという名前で活動中。
2006年、株式会社はてなに入社。ソーシャルブックマークサイト、はてなブックマークのサービスリニューアルのリードエンジニアを務め、その後エンジニアリングマネージャとしてサービスの開発・改善に努める。2010年、クックパッド株式会社に入社し、開発基盤の整備を行う。2012年同社技術部長、2014年同社執行役CTO。就任中に技術部門のトップ兼経営メンバーとして、技術面からクックパッドの成長を支える。2016年、ウェルスナビ株式会社オウチーノ株式会社などの技術顧問として、技術視点からの組織強化を行う。2017年1月より、以前から技術顧問として参画していたWAmazing株式会社へ共同創立者CTOとしてジョイン。アプリ、通信、ハードウェア等を組み合わせ、日本中を楽しみ尽くしてもらうためのサービス開発を行っている。

鍋田NDC

WAmazingでは、マネジメントをする立場でありながら、開発をするプレイヤーでもありますね。

舘野

そうですね。この会社はエンジニア0名の段階でインバウンドのIT事業を立ち上げようとしていて、何か面白い会社だなと思って手伝っていました。それから、事業内容や考え方が一致したこともあって、創業メンバー兼CTOとして仕事をしています。

WAmazing株式会社───対訪日外国人旅行者にむけたスマートフォンサービスを手がける。利用者は日本旅行中に必要な通信環境(SIM)を無料で空港設置のSIM発券機から受け取れ、快適な日本旅行を楽しめる。また、様々観光コンテンツの閲覧、購入も可能。2016年創業。

IT産業の特徴は、高速なイテレーションによる学習です───舘野
IT産業の特徴は、高速な
イテレーションによる学習です
───舘野

舘野

ITの、特にWeb産業の特徴は、高速なイテレーションにあります。仮説を立て、すぐにリリースを行い、ユーザからのフィードバックを受ける。このサイクルを早く反復することで、知見をすばやく蓄積することができます。だからWAmazingも、リリース前に戦略をじっくり練るというより、スピード感を意識してリリースしました。

三好NDC

なるほど、具体的にはどのようなフィードバックを受けていたのでしょうか。

舘野

たとえば、外国人旅行者が日本に来る時に何を便利だと感じるのかは、正直なところ、実ユーザーではないのでわかりません。そこで、何を便利だと思うのか仮説を立て、実際に興味を持ってもらえるか、使われるかで検証します。何度もリリースを行い、これらのフィードバックを受けて、サービス内容を更新しています。わからないことに対する正解を得る時に、このサイクルを早く回せる反復の学習作用が、ITの一つの価値だと思います。

ユーザー体験を深めるには、デザイナーとエンジニアの協力が不可欠───舘野
ユーザー体験を深めるには、
デザイナーとエンジニアの
協力が不可欠
───舘野

舘野

ユーザーが求めている価値を考え、すばやく提供するためには、デザイナーとエンジニアの協力が不可欠です。エンジニアが持っているIT技術と、デザイナーが持っているユーザーの体験を深化するデザイン力を共有することで、価値の提供を速くしていくことが可能になると思っています。
 
エンジニアは、自分の得意とする技術領域を活用し、さまざまな機能を提供することができますが、ユーザー体験という視点が抜け落ちてしまうことがあります。そこをデザイナーと協力することで、エンジニアからすると、「あ、そういう風にしてユーザーはサービスを使ってくれるんだ!」という新しい視点が生まれるんだと思います。

逆もまたありますよね。我々の場合は、企業のやりたいことをサービスとして具現化する力は持っていると思うんだけども、それがITの仕組みを経て落とし込もうとすると発想勝手になっちゃうんですよね。デザイナーもそこをブラックボックスにせず、きちんとしたエンジニアリングを介してサービスを提供していかなきゃいけません。

舘野

はい。同じように、エンジニアも技術開発をするだけが仕事ではないと思います。持っている技術で、ユーザーや会社が持つ課題をどう解決するかを常に意識していかないといけないと思っています。

エンジニアの技術は、ユーザーや会社の課題解決のためにある───舘野
エンジニアの技術は、
ユーザーや会社の
課題解決のためにある
───舘野

舘野

IT技術はいわゆるデジタルなものです。そして、デジタルなものには、必ず複製しやすいという特徴があります。
 
たとえば15年くらい前、グーグルやヤフーが提供していた検索技術は高度な知識と技術がないと作れませんでした。ですが、現在では優れたOSSを使えば誰でも検索サイトを作れるわけです。どれだけその技術を突き詰めても、将来的には汎用的なものに置き換わっていってしまうのです。
 
ソフトウェア開発者の仕事の一つは、自分たちがやれることを機械ができる形に置き換えていく仕事です。だから、5年から10年で新しい知識は陳腐化してしまいます。

三好NDC

いたちごっこのようですね。

舘野

だからこそ、エンジニアも技術開発だけが仕事ではないということです。エンジニアの価値は、技術をベースに「課題解決」をすることにあります。
 
私がクックパッドで役員になって、エンジニアに働きかけていたことも、自分の持っている技術をユーザーの課題解決に結びつけるという意識を、エンジニア一人一人に持ってもらうということでした。

深津貴之

具体的にはどんな開発だったのでしょうか。

舘野

たとえば、インフラエンジニアだったら「表示速度を200msec」に設定する。つまりユーザーがクックパッドにアクセスした時、0.2秒以内に表示できるようにしました。サイトを見ながら実際に料理を作る時に、速度が遅いとサクサク作れなくなってしまうというユーザーの課題に応えるかたちです。
 
クックパットでは「ユーザーファースト」という言葉を、大切にしたい価値として置いていました。この言葉から、ユーザーにとって快適な環境ってなんだろうというようなことをエンジニア一人一人が考えるようにしていました。

対話をしてくれる人かどうかで、仕事の進み方が一気に変わりますね───深津
対話をしてくれる人かどうかで、
仕事の進み方が一気に変わりますね
───深津

北本NDC

最近エンジニアの方とお仕事する機会がちょっとずつ増えているのですが、僕もずっとグラフィックの仕事をしてきたので、言語の違いで苦戦することがあったりします。エンジニアの方にとって、デザイナーと接触する時に困ることは何ですか。

舘野

私の接しているデザイナーはWeb業界のデザイナーが多いので、言葉の壁は少ないですね。

深津

時々、ルーツがIT業界ではないデザイナーと開発の仕事をすることがあるんですけど、共通する前提がないと苦戦することはありますね。アプリ用のデータで、指定がミリとかCMYKで来るとか。
 
アプリにも得意なこと、不得意なことはあります。ですので、エンジニアと実行可能性の対話がされない場合は苦労します。こうあるべきだからこう作ってくださいって降りてきたりとか。対話をしてくれる人かどうかで、仕事の進み方が一気に変わりますね。

有馬NDC

それは、僕らグラフィックデザイナーが早く対応していかないと、エンジニアさんからしたらグラフィックデザイナーと組むのがギャンブルだと思われちゃいますよね。

深津

たとえば、字詰め一つとってもエンジニアとデザイナーでは発想が違うんです。グラフィックデザイナーは、コピーライターの人がコピーを決めて、それに合わせた書体や字詰めを決めていきますよね。IT系の人は逆に、先に10パターンのコピーを全部試して、一番人に刺さる言葉を見つけてから、字詰めをやった方がいいんじゃないか、という発想になるんです。

有馬NDC

コピーライターからしたら、最初に出たコピー50案を1本に絞るという過程が技芸だと思うんですけど、Webのプロセスからしたら非効率ということですか。

深津

非効率というか、ITの発想では50案全部を世に出して、フィードバックをもらいながら絞っていこうという考え方になりますね。

舘野

そこの対話がきちんとできるかどうかが大切ですね。エンジニアも、グラフィックデザイナーも。ちゃんと交流してお互い知り合う努力をしないと、組織としての良いかけ算も生まれないですよね。

我々グラフィックをやってきた面々は、自分も含めてね、そのあたりについての再教育が必要だなと思っています。ただ、自分たちで学ぼうということだけでは済まない気もしていて。具体的なプロジェクトを通してやっていくしかないんだとも感じます。

池田拓司

そうですね。お互いにしっかり共有すれば作るものも見えてくると思うので、そこを起点にいろんな会話ができればいいのかなと思います。

だからこそ、エンジニアのみなさんとは、教えていただきたいというより、一緒にやっていきたいという気持ちです。
 
どんどん変わっていかなきゃいけない、キャパシティを増やしていきたいと思っているのですが、そのためには経営側から意識を変えていかなければいけない。そういう点において、一エンジニアであり、経営者でもある舘野さんのお話は大変興味深いものでした。