MEETING
閑歳 孝子
株式会社Zaim 代表取締役
Event Date : 2015.10.09
![閑歳 孝子 株式会社Zaim 代表取締役](https://www.ndc.co.jp/assets/uploads/2015/10/kansai_Im_top_pc.jpg)
先進のテクノロジーや独自の発想で、デザインの可能性を広げる人たちがいます。
さまざまな領域を横断し、これからのデザインをともに考える対話の場「NDC LUNCH MEETING」
今回は、2015年現在、450万人が利用する国内最大級のオンライン家計簿「Zaim」の開発者、閑歳孝子さんをお迎えしました。
パソコンの中でのものづくりというのに関心がありました─── 閑歳
パソコンの中での
ものづくりというのに
関心がありました
─── 閑歳
ものづくりというのに
関心がありました
─── 閑歳
閑歳
高校生の頃から通信に興味があって、お小遣いを貯めて買ったのも服や雑貨でなくパソコンでした。 当時プログラムは書けなかったのですが、それでもパソコンの中でのものづくりというのに関心がありました。慶應義塾大学の環境情報学部に進学して、佐藤雅彦先生の「コンピュータにとっての次の表現」をテーマにした研究室に入ることができました。そこで出た課題のうち、初めて世の中に出たものが「動け演算」です。
原
よく知っています。数学、演算でぱらぱらマンガを、というのが衝撃的でした。デザイナーはそういうところを感覚的にやるので。
閑歳
表現の面ではかなり影響を受けています。佐藤先生にはリジッドな表現をしなさいと教えられまし た。「余計な装飾がなく、ごまかさない、本質的におもしろい、役に立つものを作りなさい」と。今でも先生に見てもらっても恥ずかしくないものを作りたいという思いがあります。
電車で隣に座った人が偶然使っているようなサービスを─── 閑歳
電車で隣に座った人が
偶然使っているようなサービスを
─── 閑歳
偶然使っているようなサービスを
─── 閑歳
閑歳
当時そのほかにも、友達と一緒になって今でいうSNSのような、学内の授業情報共有サービスを作っていました。この授業ではいつ出欠が取られる、といった情報を受講している学生同士で共有できるんです。まさに今出欠が取られているぞ! という情報をみんなにメールで知らせたり……。ちょっと邪なサービスではあったのですが(笑)。自分たちがつくったプラットフォームの上で、リアルタイムに喜んでもらえるということが嬉しかったですね。
鍋田NDC
「Zaim」のようなサービスを作るようになったルーツはそこにあるのでしょうか。
閑歳
大学時代の経験がもとになっていると思います。はじめてエンジニアとして採用された会社ではB to Bサービスを作っていたのですが、そのうちC向けのサービスをつくりたいな、と考えるようになりま した。学生の頃から夢だったのが、電車で隣に座った人が偶然自分の作ったサービスを使っていると いう状況に遭遇することだったんです。「Zaim」を作るときもそのことを考えました。例えば自分の 母親でも使うようなサービスはどんなものだろう、日本人全員が当事者になれるようなテーマってな んだろうなと考えたとき、家計簿を思いつきました。紙の家計簿をつけている人は少ないですが、 「お金」という部分だと全員に関わりがあるし、人生に大きな影響がある、色んな局面での判断を変 えるすごく重要なツールだと思ったんです。
![](https://www.ndc.co.jp/assets/uploads/2017/07/kansai_Im_image01.jpg)
iOSアプリでの表示。
Web版、 Androidアプリも公開。
![](https://www.ndc.co.jp/assets/uploads/2017/07/kansai_Im_portrait.jpg)
閑歳 孝子 Kansai Takako
株式会社Zaim 代表取締役
1979年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業後、日経BP社で記者・編集に携わる。Web系ベ ンチャーのケイビーエムジェイ(現 アピリッ ツ)にてブログやSNSなどの自社パッケージの企 画・開発を手がけた後、2008年にユーザーロー カルに一人目の社員として入社。新規Webアクセ ス解析ツールの開発・企画・UI・デザインなど 全般を担当。個人でも数多くのWebサービスを開 発しており、「Smillie!」でAward on Rails大賞、 「Zaim」でTeclosion KDDI賞/優秀賞・WISH大 賞・オリジナリティ賞/グッドデザイン賞ベスト 100を受賞。現在は、株式会社Zaim代表取締役を務める。
エンジニアとしての技術を身につけるまでの経緯は?─── 三好NDC
エンジニアとしての
技術を身につけるまでの経緯は?
─── 三好NDC
技術を身につけるまでの経緯は?
─── 三好NDC
三好NDC
閑歳さんは卒業後、記者をされていたということですが、「Zaim」を開発して会社化にまで至る間、どんな経緯があったのでしょうか。
閑歳
通信系の雑誌で記者をしていたのですが、学生時代の楽しかった思い出が心に残っていて、Web系の世界にいつか戻りたいという気持ちが芽生えてきました。そのとき、大学の同期がしていたWebの会社に誘われたんです。当時私はエンジニアとしてのスキルが全くありませんでした。ディレクターという職種で入社したのですが、簡単な修正や、エンジニアに代わってドキュメントを書いたり、彼らの仕事の一部を手伝ううちに少しずつ技術を学んでいきました。その会社で、Ruby on Railsを扱えるようになりました。これまでエンジニアの方にお願いしなければできなかったものが、自分一人で作れるようになって、これはすごくおもしろいぞ!と。なんでもいいからやってみようと思い立ち、力試しにサービスを作り始めました。
元々起業したくてしたというタイプではなく、デリケートな個人情報を扱うなかで、どんどん増えていく10万、20万というユーザーのデータをひとりで預かるのは重すぎるということで会社化すること になりました。スタッフはエンジニア、ノンエンジニアが半々くらいで構成された会社で、「Github」を使いプログラムの内容をすべて共有しています。これは通常、エンジニアしか使わないものですが、弊社の場合全員が使うようにしています。家計プランナーとして入社した全くWeb業界を知らなかったスタッフもいますが、今ではHTMLを書けるようになっています。技術的なことでもエンジニアとノンエンジニアが情報共有して、お互い歩み寄れるよう、コミュニケーションをとり やすい文化を作っていきたいです。 ユーザーからのお問い合わせに対して返信ができる自社ツールを使っていたりもします。私、管理ツールを作るのが好きなので、こういうのは進んで作ってしまいます。スタッフに「作業」をさせたくないなという思いがあって、彼らの仕事は「考える」ことなので。なるべく効率的に、ルーティンワークを省略できればいいですね。
Webはリリースしてからが勝負。いかに繰り返し修正していくか─── 閑歳
Webはリリースしてからが勝負
いかに繰り返し修正していくか
─── 閑歳
いかに繰り返し修正していくか
─── 閑歳
原
「Zaim」に限ったことでなく、何か事を起こそうとするときには、もちろんエンジニアの技術や、 ずっとユーザーの声を聞いていく、改定していく速度みたいなものがある程度必要だと思います。新たなWebサービスを立ち上げる時には、リリース後も少しずつ改良していくのがいいと思いますか?
閑歳
私はそう思っています。「Zaim」の初期バージョンも、今見るとひどいです。出版からWebに来て一番おどろいたのは、紙媒体だと送り出すと何も手が加えられないといいますか、出してしまえば結果を見るしかできないのですが、Webは出してからが勝負ということです。繰り返し修正していくことに、モチベーション、お金、気力、いかにすべてをかけてやっていけるかだと感じました。初めからいいものを、というのは難しいと思います。
原
相当な密度でユーザーの声を聞いていないと、改良する方向というのも見えてこないのでしょうね。
閑歳
Twitterでつぶやかれている声なんかもずっと拾っていて、「Zaim」で検索して生の声を探しにいきます。そこを自分が離れてしまうと、心の入ってないサービスになってしまう気がします。お問い合わせフォームやアプリストアのレビューからも1日80〜100件ほどご意見が寄せられます。その中からなるべく「不満」を抜き出して、社内で共有しています。もちろんそのすべてを聞くわけではないのですが、ユーザーとコミュニケーションをとりながら少しずつ変えていきます。
初心者に使いやすい、シンプルなサービスの維持───閑歳
初心者に使いやすい、
シンプルなサービスの維持
───閑歳
シンプルなサービスの維持
───閑歳
東門NDC
「Zaim」を始めた頃に比べて家計簿サービスって増えてきたと思うのですが、工夫していこうという新しいことってありますか。
閑歳
サービスの機能面ではもちろんユーザーの声を参考にしながら新しいものを徐々に出していければと思っています。ただ一番恐れているのが、新たな機能を追い続けるばかりにどんどん複雑なサービスになってしまうということです。やはり9割くらいの人は初心者で、シンプルなものがいいわけです。こんな機能をあんな機能を、と求めてくる方というのは、凝った機能に詳しい方が多いんです。 それを読み間違えてどんどん深堀していってしまうと、マニアックな人だけが使うものになってしま います。そういった落とし穴にはまらない、シンプルなサービスでいられるように気をつけていま す。機能を増やしたからといってユーザーが増えるわけではないので。
北本NDC
ではあまり初期から機能は増えていないんですか?
閑歳
増えていることがばれないように増やしている、といったところでしょうか。ユーザー登録をしてすぐに使うときは、「Zaim」はすごく機能が少ないんです。ですが数回使っていくにつれて、こんなこともできますよ、と機能がアンロックされていくかたちをとっています。複雑な機能はあまり表面に は出さず、気づいた人だけが使えるという仕組みにしています。
お金に関する明瞭さが違ってくる───原
お金に関する
明瞭さが違ってくる
───原
明瞭さが違ってくる
───原
原
このサービスを使い始めると、お金に関する明瞭さが違ってくるんでしょうね。今、何にどれだけ使っていて、収支がどれくらいで、というのがはっきりしてくる。
閑歳
その通りだと思います。何にお金を使ったときに楽しかったかとか、何を無駄だと思ったかという自分の物事との向き合い方が明確になるみたいです。「Zaim」を使うことでマネーリテラシーを上げる、というのはすごく言っていまして。節約してほしく作っているわけではなく、もやもやしている 部分をなくして気持ち良くお金を使ってもらいたいなというふうに思っています。
原
経営なんかにも同じことが言えますね。基本的には収支管理、そして何に使ったときに楽しかったか。経験値が次の投資を生んでいくわけですから。
今後は「Zaim」以外のサービスも考えていますか?
閑歳
今のところ予定はないですね。というのも、「Zaim」を作るときに「ずっと続けていけるテーマ」を かなり精査したので。 ただ、「Zaim」の中でお金にまつわることをトータルにサポートしていければと思っています。地域 ごとの給付金情報を通知するとか。医療控除なんかも、薬局で目薬を買っただけでも控除対象になる というのを知らない方もいますよね。サービス内で勘定をして、そろそろ規定の金額を越えるのでは ありませんか? といったお知らせをすることもできるんです。今までは自分で紙やエクセルを使って 作っていた申請書を、PDFで出すこともできます。今後のことでは、近い将来不景気が訪れたときの サポートや、今「Zaim」を使っている世代が親の介護や相続という問題に当たるときにも頼れるサー ビスでいられれば、と考えています。家族、地域、自分の身の回りの色んなものと繋がっていくのが、今後の家計簿の未来としてはおもしろいですね。