NDC LUNCH
MEETING

深津 貴之
THE GUILD 代表

Event Date : 2013.10.29

深津 貴之 THE GUILD 代表

先進のテクノロジーや鋭い感性で、デザインの可能性を広げる人たちがいます。
多様な才能と出会い、これからのデザインをともに考える対話の場
「NDC LUNCH MEETING」
初回は、優れたUIのiPhoneアプリを制作されている深津貴之さんをお迎えしました。

デザインがわかるプログラマー、プログラミングがわかるデザイナー。
この業界に不足してると感じています──深津
デザインがわかるプログラマー、
プログラミングがわかるデザイナー。
この業界に不足してると感じています
──深津

深津

デザイナーとプログラマーが共同作業するときの、そこにある壁というか溝について、よく考えます。あって当たり前なんですけど。

NDC

わかります。新しい課題ですから。デザイナーとコピーライターの壁なら昔から認識されているので、なんとなく対処できていますけど。

深津

デザイナーがプログラマーに、例えば「ここ、数ミリ下にしてください」と言ったとき、デザイナーは、簡単な作業だと思ってオーダーしているのだと思います。でもプログラマーからしてみると、それがとても時間のかかる作業のときがあります。逆に、プログラマーからみたら気にしなくても良さそうな違いが、デザイナーとしてはとても重要な場合もあります。
すれ違いが起こる原因は、お互いの領域に対する知識不足だと思います。基本的にお互いがお互いの領域に対する最低限の知識を身につけないと、意思疎通が困難になります。
デザインがわかるプログラマー。プログラミングがわかるデザイナー。が、この業界に不足していると感じています。これからはデザイナーもプログラマーも覚えなければならないことが日に日に増していきそうです。
企画段階でテクニカルなアドバイスができる人の参加が求められてくるのでは。デザイナーとプログラマーの間を埋めるプロジェクトマネージャーやテクニカルディレクターのようなポジションが重要になりそうです。

深津 貴之
Fukatsu Takayuki

株式会社THE GUILD代表。大学で都市情報デザインを学んだ後、英国にて2年間プロダクトデザインを学ぶ。
2005年に帰国し、thaに入社。2013年、THE GUILDを設立。Flash/Interactive関連を扱うブログ「fladdict.net」を運営。
現在は、iPhoneアプリを中心にUIデザインやInteractiveデザイン制作に取り組む。

NDC

でしたら、この場所を使って、そういう勉強会を開催します?

深津

そうそう「iOSヒューマンインターフェイスガイドライン」ってありますよね。あれをデザイナーもエンジニアも読んでいないケースが多いんです。仕事を進める前提としてこれを読んでおくと、いろいろスムーズになると思います。けっこうな情報量ですが(笑)。

ABテスト、グーグルアナリティクス。
調査がしやすくなって、調査結果で判断される機会が増えました──NDC
ABテスト、グーグルアナリティクス。
調査がしやすくなって、
調査結果で判断される機会が増えました
──NDC

NDC

効果測定の壁も、ありますよね。パッケージデザインでもA/Bテストは絶対にやります。でも、それで商品が売れるとは限らない。
某大手クライアントでも、アンケートの結果に従って、と無理を言われることが多いです。

深津

オバマの演説メールの話って知ってますか。有権者により響くメールを届けるために有権者の一部に、何パターンかのメールを送信して、その中で評価が高いメールの文面を残り数百万人の有権者に送ることで、より効果のあるメールを送ることができたという事例があるそうです。
このようなことをされると、デザイナーやアートディレクターの仕事がなくなるのではないかと思ったりもします。

NDC

私たちは、平均値を取るのが嫌でこういう仕事(デザイン)をしているところがあるので、難しい(笑)。

深津

こういったデザインとビジネスをめぐる問題については、あと2、3年の間に対策を立てなければ、と思います。

NDC

ユニバーサルデザインのセミナーに行ってきたんですが、UDフォントの事例をひとつ。旧来のユニバーサルデザインという売り方ではなく、保険などの利用規約をUDフォントを使って改良したそうです。美しいかどうかは別として、苦情が減ったという。そういうことをビジネスにしている会社がありました。
例えば、ビジネスとしての成功をどう定義するかによるのでは。フェラーリなどは売上がトップじゃなくても、ブランドとしての価値はトップクラス。ただ、そればかりだといわゆるマスプロダクションは「ダサい」ということになってしまい、それはそれで間違っているようにも。
デザインへの理解をどう深めるかも重要になりそう。効果測定という言葉が当たり前になり、その理論を理解した上でデザインをしないと効果測定という数字には勝てないかもしれないです。

深津

地道にやっていくしかないのではないでしょうか。いわゆる現在の日本を代表するデザイナーの方々が、上流で意思決定するポジションに立つという事例をどんどん作ってくださることも期待しています。

ATMや券売機は、UIを良くするともっと使いやすくなると思います やってみたいですね──深津
ATMや券売機は、UIを良くすると
もっと使いやすくなると思います
やってみたいですね
──深津

NDC

気になるUIデザインってありますか。

深津

そういえば、銀行のATMとか駅の券売機とか、良くしたいですね。特に飛行機の座席にあるモニター、あの謎の物体と8時間とかツライです。iPad miniを置いたほうが安いように思います。

NDC

例えば東京オリンピック・パラリンピックに向けて、そういうインフラのUIデザインを提案してみたいですね。

デザイナーの感覚とされている視覚的な調整を数値化できたらおもしろい──深津
デザイナーの感覚とされている
視覚的な調整を
数値化できたらおもしろい
──深津

NDC

クライアントワークとプライベートワークの比率は?

深津

昔はプライベートワークの方が多かったですけど、最近はクライアントワークを増やしています。iPhoneアプリで食べていくのも段々と辛くなってきているのが現状でして。僕が作ったアプリ「TiltShiftGen2」も初速はiOS7に合わせてリリースして良かったけど、その後一気に下がってしまいました。

NDC

SNSでの活動について。NDCのFacebookをもうちょっと盛り上げたいのですが。

深津

企業の規模感によるのでは。トヨタのような上場企業に対しては、一般人は割と好き勝手言いやすいですが、NDCくらいの規模感の企業であると中の人が見えてしまうので、名指しで批判していることに近くなるので意見が出しづらいと思います。

NDC

NDCにやってほしいことはありますか?

深津

Webやスマホでは、字詰めをするだけでも、デザインとエンジニアリングの両方の知識が必要になります。だから、スクリーン上で日本語文字組をきれいにするためのカーニングテーブルを作ってほしいです。 「TiltShiftGen2」でも自分で自動日本語カーニングを実装しましたが、なかなか大変でした。3種類くらい(せまい・普通・広い)カーニング設定を作るだけでだいぶ良くなるのでは。デザイナーとエンジニアが連携して、朝日新聞一年分の文字組を取得して一番よく使うペアカーニングを摘出し、そのペアを設定したパブリックな情報があるだけでも良くなると思います。 あと、例えばひとつの「四角形」と同じ大きさに見える「丸」のサイズを、多くのデザイナーに決めてもらうような調査をしてみたいです。そういう、今までデザイナーの感覚とされている視覚的な調整を数値化できたらおもしろいと思いませんか。