WORKSPHERE

vol.4 増田 宗昭
企画、その発想と実現

Event Date : 2012.07.19

vol.4 増田 宗昭 企画、その発想と実現

増田 宗昭(カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社 代表取締役社長兼CEO)
2012年7月19日に開催した第4回NDCセミナー「ワークスフィア/企画、その発想と実現」では、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)の増田宗昭社長にお話をいただきました。企画とは何であるかについて、TSUTAYAの創業秘話、Tカードの開発ストーリー、代官山T-SITEで目指したものを例に挙げつつプレゼンテーションをしていただき、企画会社のリアルに触れる非常に有意義なセミナーとなりました。

本日はカルチュア・コンビニエンス・クラブ(以下、CCC)の増田宗昭社長の登場です。今回は“企画会社”というものが一体どのようにものを考えるのか、企画を具体化するにはどんな発想と手順が必要なのか、リアルな体験として聞いていただきたいと思います。僕は代官山 蔦屋書店のプロジェクトで声をかけていただいたのですが、最初に増田さんは「赤ちゃんのオムツより大人のオムツの数が上回るようになってきたんです。 TSUTAYAという若者向けのサービスをやってきたけれども、そろそろ本当に真面目に大人に向き合わないと」という話をされました。増田さんがすごいのはデータをもっていることです。「Tカード」会員は4093万人(2012年6月末時点)、日本の人口の3分の1。その人たちがどんな買い物をして、どんな本を読み、映画を見るか、発想の根拠がデータ、つまり世の中の動きなので増田さんの話はイメージではなくてリアリティのある数字が背景にあるんです。だからといってお堅い金儲けの発想ではなく、そこに増田さん独自の創造性がある。その発想と説得力にいろいろな人が巻き込まれて動き、いろいろなことが実現していくというわけです。ご本人の言葉とオーラ、そしてプレゼンの内容から、ぜひ吸収してみてください。

原 研哉 Hara Kenya
日本デザインセンター代表取締役

[about CCC]世界一の企画会社になりたい [about CCC]
世界一の企画会社になりたい

増田

CCCは企画会社ですが、いろんなクライアントから持ち込まれた案件をやるのではなく、できればひとつの企画をいろんなお客さんに買ってもらいたい。そういうことを目指しています。その作品のひとつがTSUTAYAです。TSUTAYAは現在全国に1,400店舗以上ありますが、僕らが直接運営しているTSUTAYAは100店舗に満たない。残りの1,300店舗はオーナーに企画を買っていただいて、ロイヤリティをもらうビジネス、つまり企画を買ってもらう会社なんです。でも単に「企画会社やれたらいいね」ではなく、生き残るためには世界一にならないといけない。「世界一の企画会社になりたい」と平成3年の頃から言い続けています。具体的には「カルチュア・プラットフォーム」を作っていくグループでありたいと考えています。(1)リアルな店舗でエンタテインメントを流通する仕事、(2)インターネットでエンタテインメントを流通する仕事、(3)Tカード、(4)データベースを使ってお客様に生活提案するレコメンデーションの4つです。

増田 宗昭 Masuda Muneaki
カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社 社長兼CEO

1951年生まれ、大阪府枚方市出身。TSUTAYA、Tカードを運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社 社長兼CEO。同志社大学を卒業後、株式会社鈴屋に入社。軽井沢ベルコモンズの開発などに携わる。1983年、同社を退社し、「蔦屋書店(現・TSUTAYA枚方駅前本店)」を創業。1985年、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)株式会社設立。TSUTAYAやTカードをはじめとする「カルチュア・インフラ」を創り出す企画会社の経営者として奔走している。

[about TSUTAYA]生き方に迷ったら行く場所、それがTSUTAYAです [about TSUTAYA]
生き方に迷ったら行く場所、
それがTSUTAYAです

増田

僕が同志社大学に通っていた時代は、学園紛争がひどくて授業がほとんどなかった。そんな中で、浜野安弘さんの『ファッション化社会』という本に出会い、それを読んですぐ、服飾専門学校に通ったんです。そこで専門コースに進級するときに出会ったのが高田賢三さんと三宅一生さん。「この人たちにはかなわないなあ」とデザイナーはあきらめましたがファッションはやりたかったので、『ファッション化社会』で紹介されていた鈴屋に就職しました。そこで入社1年目に、軽井沢のベルコモンズという商業施設のプロデュースを任されたんです。何も知らないままデザイナーや弁護士など専門家を7人つけてもらい、2年目には新入社員3人もらって、翌年にオープンしました。その経験から商業施設の企画は面白いと思うようになりました。鈴屋を辞めたのは、ライフスタイル全体をやりたいと思ったことです。あるとき、販売員の子たちが「冬なのに水着を買いにくるなんて不思議だね」と話している。その頃、海外旅行が普及して日本人が大勢ハワイに行っているんです。でも会社の人はお客さんのことが分からない。時代の方が会社より先に進んでいってしまったんです。そのとき生活の一部としてのファッションではなく、ライフスタイル全体を提案したいと思いました。食べ物、住居、ファッション、差別化欲求が満たされたあとには「はたして自分の生き方とは」という問いにあたります。そんなときに行く場所、それがTSUTAYAなんです。家具や服を選ぶ場所はあっても、スタイルを選ぶ場所、自分探しができる場所がない。だから本も音楽も映画も、借りることも買うこともできて、お客さまに喜んでもらえる店を作りたいと考えて、32歳のときに資本金100万円でTSUTAYAを始めました。創業時の名前は「蔦屋書店」でした。

ライフスタイルをリアルに選ぶ場としてのスターバックス

増田

たくさんの店舗が作れた理由は、お客さまにライフスタイルを選ぶ場所を提供しつつ、収益性が高いパッケージを企画できたからです。ところがいつも「レンタル屋」と言われるので、「本だって、CD、DVDだって売っています」と渋谷のハチ公前に店を作りました。六本木ヒルズができるときもTSUTAYAを作らせてもらった。店内にスターバックスを入れた理由は、ライフスタイルを選ぶときにリアルな場としてのカフェが必要だからです。僕が初めて東京に出てきたとき、原宿に「レオン」という喫茶店がありました。そこに糸井重里さんや浅井慎平さんなどクリエイターの人が集まっていて、その中で仕事をしていると自分もクリエイターの一員になれたような気がしたんですね。彼らが読んでいる新聞、履いている靴、持っている鞄、僕は全部見ていました。そうやってリアルな対象から影響を受ける、リアルな人を見る場所がカフェであり、スターバックスなんです。ちなみに日本における映画の動員数は年間1億7000万人です。TSUTAYA1社で貸しているDVDの枚数が7億4000万枚、今年はたぶん8億枚超えます。日本の映画産業を支える映画の流通を100万円の会社が作ったということ。カルチャーのインフラを作るというのは、こういうことなんです。

[about Tカード]一枚で何でも使える、魔法のカードはできないか [about Tカード]
一枚で何でも使える、
魔法のカードはできないか

増田

皆さん、Tカードは持っていますか。持っていない方はぜひ入って下さい! 2003年に六本木ヒルズの店を作るときに、TSUTAYAの会員カードは2000万枚を超えていました。そのとき何か面白いことができるのではないかと思いながら自分の財布をのぞいたら、たくさんのカードが入っている。それらを一枚にしてクレジットもレンタルもポイントも貯まる魔法のカードができないかなと考えました。これがTカードの始まりです。最初にエネオスに提案に行き、カラオケ、DPE、レンタカー、レストラン、コンビニ、派遣会社、薬局などと提携して、現在は88社、4万6548店舗でTポイントが貯まります。なぜ各分野のナンバーワン企業がTカードに参加してくれたのか。それはTカードが一枚でどこでも行ける「パスポート」だからです。お客さんにアンケートを取りますと、ポイントの付与レートが低くても、いろんなところで使えるTカードの方がいいと答えてくださっています。

[about T-SITE]プレミアエイジに「自分の店だ」と思ってもらいたい [about T-SITE]
プレミアエイジに
「自分の店だ」と思ってもらいたい

増田

代官山T-SITEを作ったきっかけは3年前。フランチャイズオーナーに方針をしゃべったとき、「5年後のTSUTAYAのお客さんはどうなっているか」という話をしました。市場というのはお客さんの数なので、赤ちゃんの数はどんどん減っているとなれば、お金や時間を持っている人をお客さんにするしかありません。しかしTSUTAYAのイメージは若い人が行くところで、シニアの会員は1割しかいません。これらの層にとって「俺たちの店」だと思ってもらえるようなブランドイメージや品揃えをしようということで作ったのが代官山 T-SITEです。なぜ代官山かというと、渋谷など人の多いところで実験をやっても正しいお客さんの評価を得られない。価値があればお客さんが来るし、なければ来ない。はっきり白黒つけられる場所でやろうということで選びました。加えて、地勢がよくて、歴史がある。まさにプレミアエイジにふさわしいと考えました。そこに記憶に残るようなものを建てないといけないので、美術館みたいな建築をイメージしました。インテリアについては「売り場を作らないでほしい」と言いました。人口構成とGDPのグラフを重ねて見ますと、90年からGDPが伸びていないんです。にもかかわらず店を作り、ものを売ろうとする。もう売り場を作るな、と。売り場的な空間ではなくて、むしろ人が行きたい空間、「おうち」ですね。居心地のいい家を作ろうと言いました。照明も家用の照明を使っていますし、値札も案内板もなし。存在感のない、それでいて探すときには目立つようなスケルトンの分類ポップを使っています。

プレミアエイジに響くものを徹底して揃える

増田

本の品揃えも、プレミアエイジにふさわしいもの、「人文」をメインに考えました。終わりから今を見て、残りの人生をどう生きるか、その参考になるものを徹底して揃える。さらにライフスタイル系の雑誌も充実させました。55mの雑誌売り場には、世界中の雑誌2300種類があります。お金にも時間にも余裕があるのがプレミアエイジなので、別荘、家、旅行、ヨット、骨董、医療に食、あとクルマ。活動時間も早い方が多いので、朝は7時からやっています。過去の思い出を楽しめるものとして、平凡パンチ、アンアン、ドムスなど創刊号から揃えました。映画も「復刻シネマ」2461タイトル

目指すのは「あの人がいるあの店に行きたい」と言ってもらうこと

増田

六本木ヒルズのときに、TSUTAYAがライフスタイル提案をするには、店に立っている人が、その本が良いか悪いか分からなければならないのだ、という反省があったんです。それなので代官山ではジャンル別の専門家をコンシェルジュとして募集したら、びっくりするほど応募があって、ジャズクラブのオーナーや雑誌の元編集者などさまざまなプロフィールの人が集まってくれました。彼らのような中身の分かる人に売り場を編集してもらっています。僕は、「お客様がお客様を呼ぶ」と考えています。あの人がいる店に行きたい、と言われるようになりたい。今年、代官山 蔦屋書店は、アメリカのカルチャーサイトが選ぶ「世界で最も美しい書店20」に選ばれました。日本で唯一だったので、試みが評価されて本当に嬉しく思っています。

代官山 蔦屋書店

[for 日本デザインセンター]「守破離」の心で、デザインとは何か考えてみる [for 日本デザインセンター]
「守破離」の心で、
デザインとは何か考えてみる

増田

企画を考えるには、ややこしいことを考えないこと。分かりにくいことはダメです。好きとか嫌いとか自分の直感を信じて、イメージして作っていくんです。プロセスは、「守、破、離」の考え方で取り組んでいます。ソニー創業者の盛田さんの例で言うと、もともと家の中にレコードがあって、音楽を持ち出して聞こうとラジカセができた。家の中で音楽を楽しむという「守」に対する「破」です。さらに「離」とは、「歩きながら音楽を楽しみたい」と考えられたウォークマンです。大切なのは会社側ではなくお客さん側から考えるということです。皆さんはデザインを売っていますが、デザインを売っている業界の常識ではなくてお客さんから見たときのデザインって何か、離れてものを考えてみる。それが守破離の心だ、と思っています。

クリエイターも、「編集」を提案することが大切だと思う

増田

TSUTAYAをやる前は貸しレコード屋だったんです。貧しい時代は、編集権は提供側にありました。一枚のアルバムをひとつの世界観として、楽曲の順番含めて作りあげていく。編集権はアーティストにあったし、お客さんはそのパッケージを求めてレコード店に行きました。でも、やがてお客さんが1曲目はサザンで、2曲目はユーミン、と自分で編集するようになった。編集するための材料があるのが貸しレコード店だったんです。価格の問題じゃなくてね。まさにこれこそ、TSUTAYAが広がった理由です。お客さんが編集権を行使したくなったということです。ファッションも同じ。貧しい時代は上から下までブランドに依存していましたが、豊かな時代は、自分がかっこいいと思うスタイルを作るために必要なパーツを探す。家も、建築家が作ったものではなく生活者が自分で編集したくなっているんじゃないでしょうか。最近感じているのは、人よりもすばらしい「編集」を提案することが大切になってきたんじゃないかということです。そういう意味でクリエイターの人たちの役割はますます重要になっていると思うので、ぜひ頑張ってください。