WORKSPHERE

vol.01 長谷川 豪
未来の仕事場を考える

Event Date : 2012.05.22

vol.01 長谷川 豪 未来の仕事場を考える

長谷川 豪(建築家)
NDCセミナー第1回目は、新社屋の設計をした建築家、長谷川豪さんを迎えた社内勉強会。
新社屋の設計に込められたアイディアや思いから「未来の仕事場」「これからの働き方」を一緒に考えた。

これからの知的労働がどんな風に立ち上がっていくのかそれをそろそろ考えたい―― 原 研哉
これからの知的労働が
どんな風に立ち上がっていくのか
それをそろそろ考えたい
―― 原 研哉

 

セミナーのタイトルにつけた「ワークスフィア」の「スフィア」とは、例えばバイオスフィア(生物が生きられる場所)といったように使われる「環境」を意味する言葉です。人の働き方は、昔に比べてずいぶんと変化してきました。例えば、労働時間の「8時間」というのは、昔炭坑で行っていた労働からきている概念ですが、僕たちの労働の形はその頃とはずいぶん違ってきています。コーヒーを飲みつつ、色々な才能や職能が集まり話をする中で、新しい何かが生まれることもある。これからの知的労働が、どのような「スフィア」で立ち上がっていくのか。それをそろそろ考えたいと思っています。

新社屋の設計をお願いした長谷川豪さんについては、今まで手掛けた作品を見る機会があり、空間の使い方とか、何だか非常に独特の理にかなった発想をする人だなという印象をもっていたんです。しかも、ただ発想で驚かせるだけではなく、それがちゃんと機能しているのがすごいな、と。建築家の隈研吾さんからも「若手なら長谷川がいい」という声もありましたし、長谷川さんなら僕らのお願いを満たしつつ、さらに創造的な「ワークスフィア」を提案してもらえそうだ、ということで新社屋の設計をお願いしたわけです。

原 研哉 Hara Kenya
日本デザインセンター代表取締役

最上階を空っぽにする、という提案「余白」が、働き方を刺激していく―― 長谷川 豪
最上階を空っぽにする、という提案
「余白」が、働き方を刺激していく
―― 長谷川 豪

 

考えてみれば、銀座という場所は、休日になると歩行者天国になっていたり、各デパートの屋上が屋上緑化されていて利用者に開放されていたりと、なんとなくですが、“地上”と“最上階”にはパブリックな雰囲気があると感じていました。NDCの場合はオフィスなのですが、パブリックなスペースを持ったらどんなことが起きるのかと考えていて。それで、思い切って「最上階を空っぽにしませんか」という提案をしてみたんです。

最上階の13階については、役員や社員のみなさんと話し合っていく中で、さらに2つの提案をしました。まずは、資料室に眠っていた相当数の蔵書を13階にもってきて、社員も使えて、お客さんも使えるようなライブラリーにすること。ライブラリーの中央に直径6mの円卓を置き、本を読んだり打ち合わせをしたり、あるいは、ポスターとかサインのラフを思いきり広げて検討なんかができる場所になったらいいなと思いました。

もう1つは、このポリローグという空間。「銀座の真ん中に180㎡ものこんな余白をつくってどうするんだ」という声もありましたが、むしろ私は「この場所をどう使うかNDCの社員が考えたくなる」ということが重要だと思っています。役員のみなさんに「この空っぽの空間を、デザイン会社の資源・可能性としてとらえてもらえないか」という提案をしたところ、驚くほどすんなりと、とても前向きに受け入れていただきました。

その際、原さんからこんなお話があったんです。今までのNDCの50年は、決まったクライアントから仕事を受けて、クリエイターがベストなソリューションをするという受注型の仕事のやり方が多かったけれども、これからは、むしろクリエイターが自分でプロジェクトを立ち上げて、能動的・積極的・主体的にプロジェクトやデザインをつくっていくことが求められると。例えば興味のある人をここに呼んで、セミナーを開いたりワークショップをするうちに、自分たちが思ってもみない発想が生まれたりする。そんな仕事の仕方がこれからは必要ではないかということでした。ポリローグはそんな「新しいクリエイター像」を刺激する空間になればいいなと思っています。

上が、日本デザインセンターが提示した新社屋のレイアウト。そして下が長谷川さんから提案されたレイアウト。
オフィスを8階から12階にまとめ、13階をオープンスペースとしている。

長谷川 豪 Hasegawa Go
 

1977年 埼玉県生まれ。2002年 東京工業大学大学院修士課程修了。2002年〜2004年 西沢大良建築設計事務所。2005年 長谷川豪建築設計事務所設立。2009年~ 東京工業大学、東京理科大学、法政大学非常勤講師。
主な受賞に、2005年 SDレビュー2005鹿島賞、2007年 第9回東京ガス住空間コンペグランプリ、東京建築士会住宅建築賞金賞、第28回INAXデザインコンテスト金賞、2008年 第24回新建築賞。

「デザイン会社をデザインしすぎることほど、はずかしいものはないと考えた」という長谷川さん。「ポリローグについては、デザインしたのは20%。NDCの使い方にあわせた変化を期待している。この場所が、今日からはじまる空間になれば」

中央に直径6mの大きな円卓が置かれたライブラリー。情報資料室としての役割だけではなく、社員が集う場として生まれ変わった。

社員が主役となり未来の仕事場、新しい働き方を考える―― 川俣 忠久
社員が主役となり
未来の仕事場、
新しい働き方を考える
―― 川俣 忠久

  

デザイン会社として、新しい時代に合わせた新しい取り組みが求められている今、この新社屋移転を「これからの働き方」を見つけるきっかけにしたいと考えています。

例えば新社屋には、会議スペースを増やしました。個人スペースは少し小さくなったかもしれないですが、プライベート空間で仕事を進めていく以外の仕事方法もあると思ってのことです。当然、デスクでする仕事もあるでしょう。でもこれまで10割デスクにいたところを2、3割でもオフィスの中を歩いてみる。あるいは13階に行って話をしてみる、ライブラリーへ行って6mの円卓を使って仕事をしてみるのもいいかもしれません。

ちなみに、このポリローグは1年間で260回使えます。何かテーマを決め、社外の人を招いて、連続したセミナーを企画してみるといい。はじめは自分たちの勉強会でもいいかもしれない。とにかく社員が主役になって、未来の仕事場とは、新しい働き方とはどういうことなのか、と模索していくことが必要です。

会場でも「ポリローグを使ったこれからの働き方」をテーマにアイディアを出しあった。それらの中から新しい企画が生まれるかもしれない。

川俣 忠久 Kawamata Tadahisa
日本デザインセンター専務取締役