WORKSPHERE

vol.2 ロフトワーク
人をつなぐ、新しい仕事のつくり方

Event Date : 2012.06.08

vol.2 ロフトワーク 人をつなぐ、新しい仕事のつくり方

林 千晶(ロフトワーク代表取締役)
諏訪 光洋(ロフトワーク代表取締役社長)
2012年6月8日に開催した第2回NDCセミナー「ワークスフィア/人をつなぐ、新しい仕事のつくり方」では、ロフトワークの林千晶さん、諏訪光洋さんにお話をいただきました。「オープンであること」「人をつなぐこと」をキーワードにして、従来にない仕事のかたちを切り開いてきたお二人の言葉は、コミュニケーションの原理を鋭く突くものが多く、発見に満ちた刺激的な2時間でした。

人と人の間に飛び交う可能性を仕事にかえていく人―― 原 研哉
人と人の間に飛び交う可能性を
仕事にかえていく人
―― 原 研哉

ロフトワークの仕事をひとことで言うと「仕事をしてほしい人と、その仕事ができる人をつなぐ」ということです。はっきりした経営資源があるのではなく、つなぐことで新しい仕事のかたちを作る。初めはそんなことが可能なのか? と驚きました。林さんを見ていると、大事な人と大事な人をつなぎまくる! ことでそこから偶発的に仕事が発生しているようです。日本人離れした俊敏さで人と人の間に飛び交う可能性を仕事に変えていくんですね。

そういった意味では、日本デザインセンターがポリローグを使って新しい仕事のかたちを考えようというときに、林さんは最適なゲストだと思います。共同経営者の諏訪さんは、新しいつながりをもとに現場の課題をクリアしながら具体的にプロジェクトを回す方。きょうはお二人にぜひ、「人をつなぐ」という視点からロフトワークのリアルをお話いただければと思います。

「林さんとの出会いは、経産省にプレゼンをした時に審査員側に林さんがいらっしゃったこと。その後、日本人離れした俊敏さで僕といろんな人をつないでくれています」(原 研哉)

原 研哉 Hara Kenya
日本デザインセンター代表取締役

 

クリエイティブが流通するインフラをつくる―― 林 千晶
クリエイティブが流通する
インフラをつくる
―― 林 千晶

ロフトワークを始めたきっかけは、1999年にまで遡ります。当時、私はニューヨークで経済記者、諏訪はクリエイティブディレクターをしていました。この年は第一次インターネットバブルと呼ばれ、Yahoo!、Amazon、Googleが続々と新しいコンテンツを発表し、私も毎日のように取材をしていました。そんな中で感銘を受けたのが、eBayという、買い手と売り手をつなぐオークションサイト。例えば自分には不要になったサッカーボールを、欲しい人に譲るというもの。単純なことなのですが、ある人にはいらなくなったサッカーボールが、インターネットを通じて必要とする人に出会うと、大きな価値を持つ、そのことに感激したんです。

同時に、このサッカーボールを人間の才能に置き換えたら、どれだけ面白いのだろうと考えました。「人材を流通させる」というインフラがあれば、多くの人が自分の才能を活かすことができるんじゃないか、と。単にお金だけの話ではなく、人が「生きてて良かった!」と実感できるレベルのサービスになるのではと思ったんです。それに、花王で宣伝に携わっていた経験から、日本のクリエイティブはもっとダイナミックに結びついていいはずだと思っていて。そこで2000年に帰国後、諏訪とロフトワークを立ち上げました。私たちのミッションは「クリエイティブが流通するインフラをつくること」。クリエイターを育てることはできなくても、可能性を引き出すことはできる。2012年現在では、16,000人以上のクリエイターが登録し、1日100件を超えるコネクションを生み出しています。

作品をオープンにすることで、
全体がレベルアップする公募

才能を活かす場所をもっと増やそうと、オープンな公募を運営しています。「Roooots」という地方の名産品のリデザインのプロジェクトです。公募というのは、実はクローズドなものが殆ど。クリエイティブのプロセスが見えてしまうことが企業にとってのリスクになるという理由からです。しかしクローズドであれば、応募者は自分の案と、採用された案しか見ることができません。もしそこをオープンにできれば、自分以外の多数の人のアプローチが見られる。その結果、応募者全体のデザインのクオリティがどんどん上がっていくんです。結果「Roooots」では、リデザインしたことで売り上げが20倍以上になったアイテムが続出。平均でも3倍、世界で6種類の国際的デザイン賞も受賞しました。

失敗はすべて「見える化」される

ロフトワークでは、全国のクリエイターとバーチャルにつながって、プロジェクトを進めています。当然、バーチャルなチームで本当にいいものができるのか、クオリティが管理できるのか、という疑問があるかと思います。特に日本デザインセンターのようにデザインクオリティにこだわる会社では、あり得ない! と思われるかもしれません。確かに、最初の数年は失敗もたくさんありました。クリエイターと連絡がとれないこともありましたし、仕上がりに対してどうディレクションしたらいいのか、という苦しみもありました。

ロフトワークが面白いのは、外部スタッフと一緒に仕事をしているので、失敗がコストとして「見える化」されること。例えば制作が進んでいる最中、大きくクリエイティブの方向性が変わったとしても、社内のチームなら徹夜してでも間に合わせるでしょう。その場合ロフトワークでは、発注のしなおしになります。もしくは追加費用が発生する。仕事の成功と失敗がダイレクトに売り上げに反映されるんです。

実は、クリエイティブこそ言語化すべき領域

失敗したプロジェクトによくあるのが、クリエイティブワークが肉体労働に変わっていくこと。クライアントの指示通りに1つのサイトに対して15色のカラーバリエーションをちくちくと作っていくのは、もはやクリエイティブではありませんよね。では、クリエイティビティとは一体何だろう? と考えたときに、ウィトゲンシュタインの「語りえぬものについては、沈黙しなければならない」という言葉を見つけました。どうしても言語化できないなら、黙っているしかない、ということですね。その時、クリエイティブの領域では、このことがあまりにも盲目的に信じられてないか? クリエイティブとはそんなにも感覚的で、言語化できないものなのか? と疑問に思いました。

ただその言葉には続きがあって。ウィトゲンシュタインは「しかし、語られうることは明晰に語られうる」とも言っているんです。つまり、クリエイティブに関わる人間はもっと本気でクリエイティブを言語にする。システム化できるものはシステム化する。クリエイティブは確かに言語化できない領域もあるけれど、99%を言語化することで、残りの1%を守るべきなんです。

唯一のwin-winの関係を築けるのが「対峙」

そういった考えから、ロフトワークでは、「PMBOK(ピンボック)」というプロジェクトを成功させるための知識体系を導入しています。例えば、人とつながって仕事をするときのコミュニケーションについても言語化して考えています。プロジェクトを進行中に相手と対立してしまったらどういう行動をとるか、を例にとって考えてみましょう。その場合、「PMBOK」では「撤退」「強制」「鎮静」「妥協」「対峙」の5つの選択肢があるとしています。

最もダメなのが「撤退」で、これは、プロジェクトをやめてしまうこと。lose-lose、一番避けたい方法です。次の「強制」はwin-lose。例えばクライアントが力を持っている場合、制作側は強制をしいられることがありますが、その場合、どこかに納得いかないものが残りますよね。「鎮静」は、プライオリティを落とすこと。困りましたね、ではあとで解決しましょう、としてしまうことです。「妥協」は国の政策みたいなものでしょうか。お互いが納得できる点をさぐります。そして、最もよいとされている解決方法が「対峙」。困ったなあ、といいつつも相手に会いにいき、なぜなのか、その後ろにある気持ちをしっかりと聞く。そして、ヘーゲルのいうところの“アウフヘーベン”的な解決策までたどり着く。唯一のwin-winの関係を築けるのが、この「対峙」なんです。対立する原因というのは結局、視点の違いなので、どちらかが正で、どちらかが誤ということではないものです。この解決でいかない? と導けることが一番わくわくすること。セレンディピティ(ミラクルを必然的に引き起こさせる能力)にもつながっていきますね。

「よし、これでいい!」と思ったときでは遅すぎる?

MVPというワードがあって、インターネット普及の前と後では、その意味が変わってきています。昔はMaximum Visual Presentation(完璧な企画書)が重視されたのに対し、いまは、Minimum Viable Productとして、(完璧でなくてもいいから、早く動き出すプロダクト)にこだわるべきだといわれています。つまり全体像は描けてなくてもいいから、一部でもいいから、どんな形式でもいいから、俊敏にユーザーに渡して、ユーザーのリアリティをもらって、クオリティを高めていくということ。途中段階でも品質が悪かったら意味がないのでは?とよく聞かれますが「あぁ、まだこれ出したくない…」というぐらいの状態で出すのがMVP。「よし、これでいい!」という状態で出すのがtoo lateなんて言っています。

情報を与えているようで、
実は与えてもらっている「シェア」というしくみ

MVPを実現する場所として、渋谷に「FabCafe」を作りました。「FabCafe」では、店内にあるレーザーカッターを使って、データをさまざまな素材に加工し、ダイレクトにプロダクト化することができます。「FabCafe」の強みは試作品を見られたり、触ったりでき、ユーザーの意見が聞けること。リアルに作ることでアジリティが高まり、さらにWebにアップすることでオープンになり、新しいものが生まれる。カフェという場所を通して、リアルとバーチャルを連携させながら新しい試みができると思うんです。

情報をオープンにするのは、一見「情報を与えること」に思えるのですが、実際は「シェアされる」ということだと思っています。例えばブログで、自分の専門、好きなこと、興味があることをオープンにする。そうすると反応があって、その100倍くらいの知識が返ってくる。つまり外部からエンパワードされる感覚です。私は、拡張自己という言葉を使っています。

林 千晶 Hayashi Chiaki
 

1971年生まれ。早稲田大学商学部卒業後、花王に入社。マーケティング部門に所属し、日用品・化粧品の商品開発や広告プロモーションなどを担当する。1997年に同社を退社。渡米し、共同通信社ニューヨーク支局に勤務。約1年間、記者として取材・執筆活動に従事する。2000年に帰国し、ロフトワークを設立。

「他の業者が見ることで、新しい仕事が発注されることもあります。公募においてもオープンであること、出会いをつくることをモットーにしています」(林さん)

「入社2ヶ月目なのですが、ロフトワークはどこでも仕事ができるし、Yammerを使って社員同士にオープンな空気があったりとあっという間に打ち解けることができました。本当にオープンな会社だと思います」(ロフトワーク濱田さん)

ロフトワークは、社内の内線がすべてFaceTime。顔をつきあわせたコミュニケーションで、社員同士の距離も近づいたといいます。

京都オフィス「ロフトワーク烏丸」とは、常にテレビ電話をつないでいます。お互いが何をしているかが一目で分かり、コミュニケーションが深まるそう。

「どうせ打ち合わせをするのならおいしくしたいね、というのはあります。朝の勉強会などは、おいしいものを用意したり。公私を混同することで、仕事がスムーズに運ぶんですよね」(林さん)

道玄坂にある本社1階にある「FabCafe」は、コワーキングスペースとしても利用されています。おしゃれな店内の中央には重厚なレーザーカッターが。

その情報は潜ってないか?潜らせる必要があるのか?―― 諏訪 光洋
その情報は潜ってないか?
潜らせる必要があるのか?
―― 諏訪 光洋

諏訪

ロフトワークでは常時20~30のシステムを利用しています。最新の「アサナ(Asana)」はプロジェクトマネジメントのツール。超クールなので使ってみてください。ぼくはいつも情報の「見える化」を考えています。その情報が、そのコミュニケーションが、潜ってないかということを疑っているんです。例えばロフトワークではYammerという企業向けのTwitterを使っています。そこでは無駄話が多いのですが、導入してよかったという感想が89%。あの人たち何してるんだろう? という謎が生まれたり、同じ社内でも何をやっているのか知らない、ということを防ぐためのコミュニケーションチャンネルとして機能しています。ありがとう! おつかれさま! 受注! 納品! おめでとう! を気軽に言い、他のスタッフの関心につながるようにしたいんです。

オープンにすることで共感を作ろう

ウィキノミクスという本によると、ウィキペディアが成功した理由としてOpenness、Peering、Sharing、Acting globallyという4つのポイントが挙げられています。日本人のいわゆる苦手なところですね。ロフトワークでは、社内の内線をすべてFaceTimeにしています。マスクをしている人に「風邪?」と聞いてしまうような自然なコミュニケーションや共感が生まれたり。人が感情を言葉で表すことはあまりないので、共感を組織の中にどうやって作っていくのかが大切なんです。

オンライン上で仕事は滞りなくできると、最初は信じていたのですが、それは違った。やっぱり話して、共有して、イノベーションが出てくる。架空のバーチャルな組織の中でも、共感を作るようにしています。誰かがイラストをアップすると、気付きや学び、共感ができる。常に面と向き合わなくても、レベルは違うかもしれないけれど、共感は作れます。そして、トリガーをデザインする。例えば、どこかに行ってお土産を買ったら、ただ置いておくのではなくて、Yammerでひとこと言う。それが買った人、食べた人の会話につながります。人と人がお互いに知り合う仕組みを作っていくことが大切なんです。

「ジミ・ヘンドリックスが『音楽がもっとも安全でハイになるツールだぜ』と言ったようにデザインも世界に対するイノベーションを起こせる、安全でハイで本当に楽しいものだと思います」(諏訪さん)

諏訪 光洋 Suwa Mitsuhiro
 

1971年米国サンディエゴ生まれ。慶応大学総合政策学部(SFC)を卒業後、JapanTimes社が設立したFMラジオ局「InterFM」(FMインターウェーブ株式会社)立ち上げに参画。クリエイティブ業務を経た後、同局最初のクリエイティブディレクターへ就任。1997年渡米。School of Visual Arts Digital Arts専攻を経て、NYでデザイナーとして活動。2000年にロフトワークを起業。

できるかどうかではなく、できるという確信を持つ人たち―― 原 研哉
できるかどうかではなく、
できるという確信を持つ人たち
―― 原 研哉

16,000人の社員ではない人とつながることで本当にビジネスになるのか、という問いを発しましたが、林さん諏訪さんは、できるかどうかではなく、できるという確信を持っていました。その環境でどう息をするか、できるという前提で取り組んでいる。ロフトワークのオープンネスは、言ってみれば球体だと思うんです。球体であれば練習すれば必ず乗れるようになる。世界は、フリーにしたりオープンにすることで良い効果を生むという物理原理があり、そこを信頼することから、従来とは違う働き方を見いだしているのだと感じました。球体でうまくプレーができれば、社会とラリーができる。日本デザインセンターの環境もそんなプレーができるフィールドとして見てほしいと思います。

Q. 情報の開示について
マル秘扱いの情報に対しての対応に関心があります
―― プロデュース室 西野

いわゆる新製品のマル秘情報をあえて出したことがあります。発売の一年前に「私たちは眠りについて考えています」と発信し、ユーザーとの関係を作りました。ユーザーとの関係の中で、「眠りたいのに眠れない」ではなく、「眠れてるのに日中眠い」ことが問題だ、という本当の課題が見え、プロダクトも変更できた。そして強気の売り上げ目標も大きく達成したのです。情報については何を本当に出してはいけないのかを考え直す必要があります。

 

Q. クライアントから仕事をいただくのではなく、
クリエイター同士で企画を考えて賛同してもらう人たちとやっていく
キックスターターのような活動を実施したことはありますか?
―― プロデュース室 鶴田

ロフトワークには、明日デザイン室という部活があります。クライアントありきではなくて、デザインから始まり、売り込むという活動です。キックスターターは、例えば「CAMPFIRE」、「READYFOR?」などのサイトがあり、個人レベルでお金を集めて何かを実行するシステムですが、日本デザインセンター内でやるのはとても面白いと思います。それに、日本デザインセンターでは当然と思われてることも発信すると、社外にも社内にも発見をもたらす宝物になると思います。日本デザインセンターのノウハウは、日本のクリエイティブ業界の財産なので、どんどんオープンしてほしいですね。

 

Q. あえて質問しますが、根本的な疑問として16,000人のクリエイターの質を
どう保つか? ということに興味があります
―― 原 研哉

ある審査制度を制定してクリアした人を登録、とはしていません。「良いデザイン」ではなく、「役に立つデザイン」を活かせる仕組みを作っています。それでも、登録されてる方は優秀な人が多いです。働きながら個人登録をしている方や、田舎に帰って近くには仕事がないけれどトップレベルの能力をもってる方などがたくさんいます。