REPORT

Surya Vanka
デザインシンキングを広めて
世界中のクリエティブエネルギーを活かしたい

Event Date : 2018.5.17

Surya Vanka デザインシンキングを広めて 世界中のクリエティブエネルギーを活かしたい

Microsoft社でUXディレクターを務めた経験をもち、フィジカルとデジタルの最先端で世界をリードし続けているデザイナーのSurya Vanka氏がシアトルより来日。Microsoft社をデザインファーストに導いた体験談、自身が考案したデザインシンキングの手法と効果、目指したいデザインの在り方などについて、お話いただきました。

テクノロジーからデザインファーストの会社へ
テクノロジーからデザインファーストの会社へ

Surya Vanka

Microsoft社には16年間勤務しました。Microsoft社はテクノロジーを基盤とした会社であったため、入社当初はデザインについて理解している人はおらず、会社の文化を変えていくのはとても根気のいる作業でした。まず最初に手掛けたのが、4つのモットーを設定することです。1.より少ない力で大きな結果を生むこと。2.デジタルでも実直なデザインをすること。3.一丸となって勝つこと。4.職人としての誇りをもつこと。これらの方針を浸透させ、デザインを武器に戦う会社にするために、約12万人の社員を3つの層に分けました。8万人はデザインリテラシーを身につける層で、これは受付スタッフに始まるすべての社員が対象です。4万人はデザインフルーエンシーを獲得する層。プロダクトやサービスを実際に組み立てることができるレベルです。2000人がデザインマスタリーと呼ばれる人たちで、デザインについて熟知した上で、会社をリードする存在です。この3つの層によって、テクノロジーではなく、デザインを軸とした会社に変えていきました。

シフトする世界とデザイナーの役割
シフトする世界とデザイナーの役割

Microsoft社は、デザインの力で戻ってきたと言われています。360以上もの製品を扱う中で、グリッドシステム、レイアウトシステム、アニメーションなどを統一し、ひとつのUXを提供することで会社がわかりやすくなったのです。とはいえ、高速で進化していく世の中で、それだけで満足していることはできません。特にここ5.6年で、世界は大きくシフトしています。世界最大のタクシー会社Uberはクルマを持っていない、世界最大のメディア会社であるFacebookはコンテンツを作っていない、世界最大の宿泊サービスを提供するAirbnbはホテルを持っていない、というようなことです。この新しい世の中で、わたしたちデザイナーは改めて“デザインの仕事の意味”を考えなければなりません。

Surya Vanka|スーリャ・ヴァンカ
デザイナー、コーポレートリーダー、教育者、作家

25年以上、フィジカルとデジタルのエクスペリエンスデザインの最先端で働き続けてきた実績を持つ。イリノイ大学の教授、Microsoft社のユーザーエクスペリエンス(UX)ディレクターなどを経て、TEDx、Form、I.D.、Design Council、WIRED、Interactions、BBC、NPRなどに取り上げられた実績を持ち、20ヵ国以上でデザインのレクチャーを行い、書籍も執筆している。Seattle Design Festival 2018のプレジデントと、Interaction Week 2019の役員を務める。Design Swarmsというデザインシンキングの手法の考案者。2015年デザインコンサルティング会社「Authentic Design」を設立。現在シアトル在住。

Swarm Creativity(群れのクリエイティビティ)の発見
Swarm Creativity
(群れのクリエイティビティ)の発見

ALS(筋萎縮性側索硬化症)を患い、最終的に動かせるのは目だけという方たちに、自分の意志で動けるモビリティを提供する、という課題に取り組むチームとの出会いがわたしの転機になりました。このチームは、人の動きを察するキネクトというゲームのシステムを使って目線だけで車椅子を動かせるシステムをわずか38時間で開発したのです。なぜこれほど短時間で達成できたのか。チームをよく観察したところ、Swarm Creativity(群れのクリエイティビティ)という考え方が導かれました。“群れ” というのはそれまであまり着目されていませんでしたが、メンバーのひとりひとりがユニークなアイデアや価値を提供しながらも、チーム全体が統率されているときに、極めて速いスピードでイノベーションが起こることがわかったのです。

ポスターの開発とワークショップ
ポスターの開発とワークショップ

マサイ族の9歳の少年のお話をします。彼が家畜をライオンから守るという役割をもらったときのことです。彼は農薬でライオンを毒殺せず、ライオンの習性を学び、カーバッテリーなどのパーツを組み合わせて動く光を作ることで家畜を守りました。彼の思考は整理されてはいませんでしたが、とても強いクリエイティブエネルギーがありました。彼が持つようなエネルギーをどうすれば活かせるのだろうか。エアーズロックに刻まれたマークや文字にヒントを得て開発したものがデザインシンキングのポスターです。ひとつのステージを用意し、プロセスをゲームのようにすることでデザイン思考を遊ぶように学べると考えたのです。実際にポスターを使ったワークショップからは、ホームレス問題を改善するためのID保存サイト「Identity Heaven」が実現したり、海のゴミや、スラム街の水不足、メキシコ地震など、さまざまな問題解決にも効果を発揮しました。

 

みなさんもぜひ、体験してみましょう。きょうの課題は「日本のデザイナーが世界中のデザイナーとつながるには?」としたので、思いつく限りのアイデアを書き留めてください。まずは質より量が大切です。その中から良いと思うものを3つ選び、付箋に言葉とイラストを書きます。メンバー全員の付箋をポスターに貼りましょう。次に、他のチームのアイデアを盗みに行きます。面白いもの、気になるもの、良いと思うものは書き写し、自分のチームのポスターに追加します。そして最後に実現可能性、斬新さなど、総合的な視点から検証し、チームのアイデアを抽出します。ポスターは左上から右下に埋めていきますが、まずは人間の思考を理解するところから初めて、最終的には解決策に対してストーリーを述べるところまで持っていきます。

すべての人に、デザインシンキングを
すべての人に、デザインシンキングを

デザインシンキングのポスターは、最初は1枚だったものが次第に進化し、最小3枚、最大15枚という形式になりました。すべてのポスターはデザインについての知識がなくても使える上、マインドセットについても学べる仕様になっています。マインドセットとは“デザインは人間から始まる活動で、テクノロジーやビジネスから始めてはいけない”“など、頭に留める必要があるものです。各種ビジネス、エンジニアリング、教育の現場など、幅広いシーンでこのポスターが使われている理由はやはり、シンプルだからでしょう。シンプルな枠組みの中では、クリエイティビティが発揮されやすく、解決策を見い出しやすいのだと思います。わたしはこれからのデザインを担うのは、一部のスーパーデザイナーではなくて、先程のマサイ族の少年のような人たちだと思っています。彼のような子どもたち、あるいは大人たちにデザインシンキングを身につけてもらい、問題解決の力を広く育むことが、わたしのモチベーションになっています。