BOOKS
Vol.20
川原 綾子 日記、あるいは日記のような本
1960年の日本デザインセンター創業時から社員に親しまれて続けている資料室。
その約2万冊の収蔵本の中から選んだ10冊をお勧めする
「ライブラリーのおすすめ本をシェアするプロジェクト」
第20回目は、川原 綾子(制作研究本部 コピーライター)が選んだ10冊です。
1
西尾忠久 編・著
『フォルクスワーゲン かぶと虫の図版100選』
1960年代に長く続いた伝説のキャンペーンをこの本で体験することができる。広告史の勉強という気分で手にしたが、色褪せない鮮やかな表現に夢中になった。読まないのはもったいない。読んでいる人は読んでいる。事実、あの有名な広告、ここからインスパイアされたのでは?というものもちらほら。
2
朝日百科
『世界の食べもの』
朝日新聞社が発行していた分冊百科をまとめた、世界の料理とその背景を紹介している本。一皿の中に、地域の風土や歴史を読み解くことができる料理は、土地の日記のようなものかもしれない。どのページも興味深く、実際料理を作ってみたくなる。
3
木村宗慎
『一日一菓』
器と和菓子で構成された、茶人の365日のもてなし。美しいものは怖い。それを受け取れるかどうかを、試されている気がする。見てなごむというより、緊張を楽しむ本。
4
開高健 監修
『アンソロジー洋酒天国』
1963年まで発行されていたウイスキーのPR誌をもとに作られている。開高健編集長のもと、ウイスキーの飲み方から女の話、映画の話、まじめも悪ふざけもあり。今こんなWebコンテンツがあったら相当な人気が出そうです。古本屋で入手した「洋酒マメ天国」もかわいいので展示します。
5
林のり子
『パテ屋の店先から』
この本を人に貸そうと思ったとき、ここを読んでもらいたいとフセンを入れ始めたら手が止まらなくなってしまった。そしてさすがに厚かましいと思い直し、結局フセンを抜いて渡した、という記憶がある。湯がわいていく薬鑵の音、豪雪地帯の冬の過ごし方、世界に存在するイモ食・粉食の話へと食を中心に話題が四方に飛んでいく。こうした視点を持ちたいものだと、著者 林のり子さんに憧れる。
6
高山なおみ
『ロシア日記』
長距離通勤者なもので電車の中でけっこう本が読める。なんとなくいつも、気持ちを遠くに旅させるような、日常とかけはなれた本を選んでしまう。料理家の高山なおみさんがロシアを旅した本。自分の体でつかんだ言葉しかないのがいい。そして朝、シベリア鉄道に乗って銀座に到着した気分になれる。
7
横尾忠則
『未完への脱走』
NDCに在籍されていた横尾忠則氏のエッセイ。「待望のデザインセンターへの入社もほぼ決定、うれしい限りだ」とあり、1960年代のNDCのクリエイターの様子がいきいきと描かれておりおもしろい。時代が変わっても豊かな個性の集団であることは変わらない。NDC Web「PEOPLE」の導入を書くときに、この本が頭に浮かんでいた。
8
レネ・レゼピ
『進化するレストランNOMA—レネ・レゼピの日記』
人の予測を超えた感動をつくることは大変なことだ。僭越ながら、世界一予約のとりにくいレストランのオーナーシェフの日記を読んで「わかる」と苦しい気持ちになった。現在の仕事を選んでいなかったら、私はこの本にこれほど立ち止まることができなかっただろう。
9
河田桟
『馬語手帖 ウマと話そう』
○○さんのテンポは違います。(略)。1時間後に返事をするなんてこともざらにあります。一見、なんにも起こっていないように見えて、○○さんは、ものすごく長い時間をかけて考えたり、会話したりすることもあるのです。※本書では○○さん=ウマ 馬の気持ちについて、馬の観察を続けた作者が書いた本だが、私は人とのつきあいの本として読んだ。「本屋Title」のご主人に教えていただいた本。
10
川合龍湖 偏
『白鷹山文明史』
司書の関本香さんの助言で製本することができたので、番外編の10冊として祖父のノートを選書した。いま生きていたら133才。明治に生まれ明治に学んだ祖父が長い間書き連ねていた大学ノートが今年偶然4冊見つかった。崩した文字でまったく読めないが、私はこのノートではじめて祖父と対面した。