BOOKS
Vol.14
吉永 三恵 心に響くNDCにある貴重な本たち
1960年の日本デザインセンター創業時から社員に親しまれ続けている資料室。
その約2万冊の収蔵本の中から選んだ10冊をお勧めする
「ライブラリーのおすすめ本をシェアするプロジェクト」
第14回目は、吉永 三恵(パッケージデザイン研究所リーダー アートディレクター)が選んだ10冊です。
1
創始者Herbert Spencer
“Typographica”
1960年代イギリスのタイポグラフィー専門雑誌『タイポグラフィカ』。創始者はイギリスのタイポグラファー ハーバート・スペンサー。『タイポグラフィカ』誌は、20世紀後半の国際的で秀逸な視覚芸術の刊行物で、独創的な編集方法と高水準のデザインならび印刷・製本に傑出していた。 この本は図書館に所蔵されていたり、古本屋にも滅多にでることない貴重な本です。 長年NDC資料室の本棚に並んだことももちろんなく、わたしが入社当時に資料室にいらした中村さんにこっそり見せて頂いていた思い出の本です。
2
Paul Klee
“Dans l’entremonde : aquarelles et dessins de Paul Klee”
「芸術は見えないものを見えるようにする」と主張していたパウル・クレーの作品は、大きな油絵ではなく、新聞紙、厚紙、布、ガーゼなど様々なものにさまざまな画材を用いて描いている。 色彩豊かな作品も好きだが、この画集は、 作品のサイズ感と繊細な線が心地よく収まっていて、 見ていて気持ちよい。所々作品が抜け落ちているが、こんな作りの画集、今時なかなかお目にかかれないものです。
3
Hendrik Nicolaas Werkman
“The Next Call 9 Hommage A Werkman”
オランダのアーティストにして著名なタイポグラファー、そして印刷技師として知られるヘンドリク=ニコラス・ウェルクマンが、様々な実験的印刷技法を盛り込んだ伝説的な自主刊行雑誌。 見れば見るほど引き込まれ、とってもわくわくする素晴らしい本です! 紙質・構成といい、こんな本が身近に見れるなんて幸せです。
4
C. H.Gibbs-Smith
“Flight through the ages”
チャールズ・ハーバード・ギブス・スミス(航空の歴史家)著、航空機の初期の夢から宇宙まで、時代ごとに図示した年表本。機械的なものを繊細な線で表現すると、ハードがソフトに変わる何とも言えない魅力が生まれる。クリーム色の紙に上に描かれている線と、選び抜かれた差し色が とてもバランスよく、こういう本もわくわくする。年表本として見過ごすにはとてももったいない。
5
ヘルマン・ツァップ
『ヘルマン・ツァップのデザイン哲学』
ドイツの書体デザイナー ヘルマン・ツァップ。彼のデザインした書体としては、「Optima」「Palatino」「Zapfino」「Melior」などMac上でも目にするものが沢山ある。私たちが目にしている「Palatino」は模造品であることが多いそうですが…。1960年代からタイポグラフィーをコンピュータ・プログラム上で行っていたと聞くと驚きだが、この本は製図の技術にすぐれていたというツァップの美しいカリグラフィーが沢山載っていてとても参考になる上品で美しい一冊だと思う。
6
Man Ray
“Man Ray : photography and its double”
写真といえばロバート・メイプルソープの人物PHOTOが好きですが、マン・レイの独特な芸術的写真にも惹かれます。モノクロなのに色が深く、高校生の頃よく見ていました。レイヨグラフ(Rayographs)、ソラリゼーション(solarozations)、という技法を知ったのもマン・レイからでした。今はあまり取り上げられることも少なくなりましたが、たまに見ると、やはり新鮮です。
7
Jacqueline and Maurice Guillaud
“MATISSE Rhythm and Line”
マティスの集大成と言われるドミニコ会修道院オザリオ礼拝堂の白タイルに黒の単純な線でかかれた聖母子像が好きで、ステンドグラスや晩年の切り紙絵もいいですが、線でかかれた人や植物、鳥に惹かれます。マティスの画集のなかでもこの本は、マティスの線の魅力がつまった本です。黒一色、1本の線で研ぎすまされたものは、余計なものを省いたデザインと同じく、その人の力量がよくわかるように思います。
8
Sendak, Maurice
“Where the wild things are”
NDCの中の貴重な絵本のひとつ、モーリス・センダックの「かいじゅうたちのいるところ」。 内容も夢想的でとってもわくわくしますが、古典的な緊密なイラストはともすると、とても古めかしく怖い印象になりそうなものですが、怪獣というキャラクターをこんなに愛おしく描けるセンダック独特のイラストには、子どもも大人も引き込まれてしまうと思います。 そして現在発行されている本は、線の太さも色も変わってしまっていて…ますますこの本の大切さを感じます。
9
Leo Lionni
“TICO”
レオ・レオニで一番有名なのは教科書にも載っている『スイミー』。この『TICO』はその翌年に描かれたものですが、『スイミー』とは作風ががらりと変わります。羽のない小鳥のチコが金色の翼を得て飛べる様になった時、仲間は?と、とても奥の深い内容のものですが、物語はさておき、「金の翼」ということで、この時代のものにしては、 鮮明な金の印刷が施されています。レオ・レオニ独特の中間色がキレイで、日本語版が出版されたのが2008年、となると1970年からNDCにあるこの本はやはり相当貴重な絵本ではないでしょうか。
10
Saul Bass
“Henri’s walk to Paris”
ソウル・バスの遺した唯一の絵本。1962年に出版されたこの絵本は、2012年やっと日本で復刻版が出版されました。主人公のアンリくんの手や足は描かれていますが、顔は出てきません。色使いといい、グラフィックデザイナー ソウル・バスならではの作品だと思います。これも他の2冊の絵本同様、復刻版と比べてみて下さい。やはりオリジナル版は色も紙質も全然違います! こんな絵本があるNDCはすごい環境です。