10 SELECTED
BOOKS

Vol.09
小磯 裕司 『タイポグラフィ』ではなくて『文字』

Vol.09 小磯 裕司 『タイポグラフィ』ではなくて『文字』

1960年の日本デザインセンター創業時から社員に親しまれ続けている資料室。
その約2万冊の収蔵本の中から選んだ10冊をお勧めする
「ライブラリーのおすすめ本をシェアするプロジェクト」
第9回目は、小磯 裕司(北京大思広告有限公司 アートディレクター)が選んだ10冊です。

1
『大書源』

中国の識者をして「この本があれば他の字書は不要」と言わしめる程の空前の情報量を収めた膨大な出版物で、事実上東アジア史上最大の漢字伝統字体書と言っても過言ではありません。「お習字の本」だと思っているデザイナーは不幸だと思います。

Amazonで購入

2
撰輯者:府川充男
『聚珍録』

選んでおいてですが、私自身まだ内容を咀嚼できていません。今のところ、とにかく未知なる可能性の坩堝。以前私が購入を希望したのですが、書架のお飾りにならないよう、多くの方にご覧頂きたいです。

3
白川静
『常用字解』

白川学に触れるなら随筆よりも辞書。一個の碩学の頭の中身を手軽に覗き見る本です。私は決して白川学の「信奉者」では無いのですが、一個人の世界観で辞書が出来てしまっている事実は感嘆に値すると思います。

4
編集:石川九楊
『書の宇宙 洗練の小宇宙 平安古筆』

日本文化のオリジナリティーの源泉であるにも関わらず、現代日本人は実はひらがなの事をほとんど解っていないと思います。現代フォントと本来のひらがなの間には絶望的な断絶があり、それらを結びつける営為は未だに達成されていません。平安朝ひらがなの洗練の極致をあらためて見つめてみましょう。

5
スタン・ナイト
『西洋書体の歴史』

あまり体系的に触れる機会の無い西洋書字の世界を垣間みる事ができます。ギリシャ・ローマの石刻碑文から近世書字に至る変遷に具体的な事例で光を当ててくれる本です。

Amazonで購入

6
木村雅彦
『ヴィネット<01号>トラヤヌス帝の碑文がかたる』

碑文に対する著者の非凡な情熱が、欧文書体の典型としてのローマン体生成の秘密に肉迫する示唆に富んだ本です。碑石に指先で直接触れるが如きイメージを与えてくれます。

7
林 昆範
『ヴィネット<09号>楷書体の源流をさぐる』

伝統と現代を結ぶ知られざる架け橋。漢字伝統書体から印刷書体が発生してゆく過程を刊本学の観点から具体的かつ体系的に俯瞰した日本では多分唯一の本です。この視点を抜きにして、漢字フォント書体の美醜を語る事は、本来できない筈だと思います。三部作「楷書体の源流をさぐる」「中国の古典書物」「元朝体と明朝体の形成」の通読を。

8
佐藤敬之輔
『漢字(上・下)』

佐藤タイポグラフィ研究所小宮山氏に一度直接お話を伺う機会があり、その際氏は本書に関して「書体デザインには何の役にも立たない本」と仰っていました。偉大なる「無用の用」だと思います。

9
写研+杉浦康平
『文字の宇宙』

西欧近代の観念とは異なるアジアの宇宙観をモダンデザインの文脈において具現化した杉浦氏の営為に、私は小学生以来ひたすら啓蒙され続けて来ました。
アジアのデザイナーは本来「その先」を目指さなければいけない筈なのですが、モダンデザインは結局のところ、ひたすら世界を画一化する事に寄与しているように思えます。

10
企画:モリサワ、監修:矢島文夫、構成:田中一光
『人間と文字』

全人類史的な視点で文字なるものを俯瞰的に眺める事ができる本。「タイポグラフィ」は「文字」を解釈するひとつの方便に過ぎない事を改めて思い知ります。