REPORT Albert Shum
あらゆる人の多様性に合わせてデザインをすること、
インクルーシブデザインの課題と可能性
Event Date : 2019.09.17
Microsoft社のクリエイティブチームトップ(CVP)であるアルバート・シャム氏から、
何十億という人たちのために、デザイナーが重視しないといけないことは何か?など、
「インクルーシブデザイン」の責任や可能性についてお話を伺いました。
テクノロジーによって特定の人が除外されてはいけない———アルバート
テクノロジーによっては特定の人が除外されてはいけない
———アルバート
———アルバート
アルバート
デザイナーとは、夢を見ることができるドリーマーであると思っています。何が可能か、何が不可能か、どういうことができるだろうかと夢を見ることができます。それは素晴らしいことであると同時に一方で大きな責任を負っています。以前原さんとシアトルでお目にかかったときにインクルーシブデザインというコンセプトについて話しました。テクノロジーによって特定の人が除外されてはいけない、この地球上でプロダクトを使う何十億という人たちのために、どうやってデザインしたらいいのかという課題です。
例えば、あるテクノロジーを私たちが作り上げたとして、同じものをアメリカだけでなくヨーロッパやアジアにも使ったら、それはテクノロジーによって他の地域を植民地化していることと同じで、インクルージョンの反対エクスクルージョン、すなわち除外ということが起きてしまう。他の地域にどうやって適応されていったかではなくて、もともともそこにあったものが尊重されなければならないと考えています。
同質化はリスク———アルバート
同質化はリスク
———アルバート
———アルバート
私が仕事をしているシアトルは非常に素晴らしい環境が整っていますが、それは私たちが作り上げたのではなく、もともとそこにはネイティブアメリカンがいたわけですし、彼らはとても鮮やかな文化を持っていたと思います。さまざまなことが同質化してしまっていることこそリスクです。業界全体に言えることですが、デジタルエクスペリエンスをさまざまなユーザーに向けて作ろうとするとき、同じデザインをすべての人に適応しようとして、除外という状態を生んでしまうことがあります。インクルーシブは、誰がどのように除外されているかを理解するだけではなくて、根本的に文化がミスマッチしていることを考慮しなければなりません。インクルーシブなデザインを作るということは、インクルーシブなプロダクトを作るということだけでなく、そもそもチームの文化としてインクルーシブな環境を作らなければいけないと思います。
デザインシステムの台頭———アルバート
デザインシステムの台頭
———アルバート
———アルバート
複製がたやすくできるようになったことで、すべての人にとって同じものをデザインすることができるようになりました。しかしその結果、特に意味を持たずに同じデザインが量産されるようになったという課題に私たちは直面しています。もちろん私はAppleやGoogle、Microsoftを非難しようとしているわけではありません。デザインシステムそのものは非常に重要でブランドのガイドラインのようなものです。しかし数十億という人に向けてデザインしようとするときには、デザインシステムだけではなく、そこに人間性というものを付けなくてはならないと思います。Appleのガイドラインによって多くの人が簡単にアプリケーションを作ることができるようになりましたし、GoogleもMicrosoftも似たようなものを出しています。何度も言うようですが、デザインシステムを批判しようとしいるわけではありません。
デザインを共有することも簡単になってきています。例えば「Figma」を使えばリアルタイムでコラボレーションできます。プロトタイピングツールもご紹介しますが、例えば「Marvel」を使うことでアイデアをすぐに実際のものに移行することができますし、誰でもカスタマーからフィードバックを得ることができます。カラーツールも豊富になりました。「Adobe Color」や「Colormind」といったツールを使えば自動で色彩テーマも生成できます。また、Googleの「AutoDraw」を使えば、絵の描き方を知らなくても簡単なスケッチから自動的に絵を作成してくれます。これだけ簡単にものを作ってスケールを拡大してということができるようになりましたが、できるようになったとしても、ものが使われる意味、その背景、文化を無視してはいけないと思います。ツールは進歩的になっても、私たちのデザインはそこまで進歩的なものではない、そこが今、私たちが直面している課題です。
Albert Shum|アルバート・シャム
Microsoft社のデザインエクスペリエンス&デバイスグループCVP(コーポレートバイスプレジデント)
マイクロソフト社のエクスペリエンス&デバイス部門に属するデザイナー、ライター、研究者の協同チームを率いる。コンテンツクリエーター、ユーザーリサーチャー、プログラムマネージャー、エンジニアリングやビジネスのパートナーと一体となって働くクリエイティブグループ(インタラクション/ビジュアル/モーション/ブランドデザイナー)を指揮して、地球上のすべての人がより多くのことを達成できるよう、エンドツーエンドのエクスペリエンスを創出。
グローバルコンシューマーブランドやデザインの開発に20年以上携わり、実行力があるデザインリーダーと評されている。 新しいコンシューマーエクスペリエンス(消費者体験)の開発、デザインチームの構築と管理、新ブランドの開発、戦略的設計を主導。スタンフォード大学大学院でプロダクトデザインの修士号、ウォータールー大学で機械工学の学士号を取得し、ハーバード・ビジネス・スクールの総合経営プログラムを受講。
自転車と読書の愛好家。 旅行家で探検家。 常に好奇心旺盛なクリエイター。
責任あるエクスペリエンスを提供しなければならない———アルバート
責任あるエクスペリエンスを
提供しなければならない
———アルバート
提供しなければならない
———アルバート
私たちが作り上げたプロダクトが世界中の何百万という人たちにどういう影響を与えるのか、その結果が、私たちにとって重要です。これはデジタルエクスペリエンスのクリエイターには、とても厳しいことですが、私たちはインクルーシブなエクスペリエンスだけでなく、責任あるエクスペリエンスを提供しなければなりません。例えば「WhatsApp」というのはデザイナーが意図していなかった形で使われるようになりました。もちろんリアルタイムでシェアしたりコミュニケーションするのは素晴らしい機能ですが、ブラジルではフェイクニュースの拡散に使われました。危険な状況もあったと聞いています。もちろん私は批判ではなくここから学びたいと思っているのですが。こうした事態が起こりうることを認識しなければならないと思います。
デザイナーたちは最善のものを提供したいと考え、ユーザーの時間やエンゲージメントを競ってきたわけですが、争いあってきたのはお客さまの時間という最も貴重な資源です。そして人のデータを扱うときに十分に考慮したつもりでも十分ではなかったことに気がつきました。この業界として、デザイナーとして、私個人として、ユーザーに対する権利を保護しないとエンパワーメントはできない、それは私たちが果たしていくべき責任だと感じています。
植民地化された状況から脱するには———アルバート
植民地化された状況から脱するには
———アルバート
———アルバート
植民地化された状況から脱するにはどうしたらいいか、という課題に対して私たちのチームで作り始めたアイデア「The Design Rehab」
をご紹介したいと思います。これまだスタートしたばかりなので、ぜひみなさんにもウェブサイトにいって意見を言ってもらいたいと思います。
「デザインプロセスをリハビリする」ことが大事だと考えますが、リハビリといっているのは、そもそもデザイナーとして持っているはずである、人間と人間を繋ぐという考え方を呼び起こして、デザインプロセスに活かしていこうと。それをリハビリと呼んでいます。「World Building」世界構築も重要です。私たちはなにもプロダクトだけを作っているのではなくて、そのプロダクトが存在する世界も作っているわけです。次に「Al as cohabitants」ですが境界線を押し広げていくという作業はデザイナーとしてやるべきことです。インクルージョンというのは、すべてを標準に合わせていくのではなくて、何がいま除外されているのかに着目していく作業だからです。もう一つ考えるべきことは、私たちの生活にAIが入ってくるということです。これはただ単に技術者が作ったテクノロジーということではなくて、デザイナーとして、人間と人間とのつながりのなかにAIをいれていくのかということを考えなくてはなりません。また私たちのチームは、世界中の人たちにこれまでとは違う世界を表すにはどうしたらいいのかを考えています。私たちのチームが開発した「Immersive Reader」は、文章を読むという点で障害を持っている人たちに、より良い体験を提供するものです。プロダクトを責任ある形で世界中の人に向けて開発していくというについて、ぜひ考えていただければと思います。
私たちが今後、デザインをどうシフトさせていくことができるか、プロダクトだけでなく文化を作るという観点から、インクルージョンを実現させていたくことができるのか、そのアイデアを共有させていただきました。今後こうしたアイデアを使って世界中のすべての人に対して責任あるデザインをしていきたいと思っています。
細川(NDC)
コンビニでお菓子を買うようにUIが消費されている流れがありますが、アルバートさんの哲学的なものとは相反する気がします。こうした世の中の消費速度をどう思いますか。
アルバート
業界全体として大きなシフトが起きています。例えば5年前にはスピーカーに話しかけていることを誰も想像していなかったと思います。これからの時代はひとり一人とデバイスとの関係性を重視する時代だと思います。デバイス間、マシン間のつながりも考える必要があります。今後のデザインシステムの進化は、こうした関係性を考慮する時代だと思います。
アンズヤー(NDC)
エクスクルージョン 除外についての経験をお話します。私はタイ生まれで母国語はタイ語です。多くのUX UIは欧米のものが多いですが、タイ語は表記方法が複雑なのでタイ語にすると70%ぐらいの大きさで読まなければなりません。タイ人としてタイ語に最もフィットしているのはタイで作られたUXデザインだと思います。もちろんFacebookやMicrosoftのUIを使うことは問題ありませんが100%スムーズではありません。これは、小さいけれど大きな問題です。
アルバート
文化の方がテクノロジーに適応しなければ、というものも中にはあると思います。例えばキーボードは、英語を打つために作られ標準化されて、たぶんタイでも日本でも使われていると思います。しかしユーザーがテクノロジーに合わせるのが当たり前だと思ってはいけないと感じています。これはMicrosoftだけではなく、業界全体で取り組むべきことですが、デザインシステムを作るときはその国の言葉とその国の文化で理解できるものでなければと考えます。
宮崎(NDC)
当社はデザイナーの年代も幅広く、スタートアップ企業のように誰もが同じツールを使いこなす環境ではありません。MicrosoftではアドビのXDを使って複数のチームでプロダクトを完成させていると紹介されていました。そこで伺いたいのですが、こうした状況でデザイン環境をアップデートする方法はありますか?
アルバート
マイクロソフトでは、多くのツールを使用しています。というのはデザイナーがクリエイティビティに集中できるようにと考えるからです。そして、複数のチームで仕事をするためにオープンソースのデザインシステムを作りました。複数チームがさまざまなパーツを提供し、それらが同期するように連携させるチームもあります。オープンソースのソフトウェアと同じようにオープンソースのデザインやろうとしているということです。
三好(NDC)
インクルーシブデザインは、少数のためにコストがかかると思います。それについてはどう思われますか。
アルバート
時間をかけて少数のためにインクルーシブデザインを考えてきましたが、それを作ることが多くの人のためになると考えています。一つの例としてクローズド・キャプション、字幕のようなものがあります。もともとは聴覚障害の人のためのものですが、データを分析すると想定以上に多くの人がこのキャプション機能を使っていることがわかりました。目で台詞を追うことで映画が見やすくなる、特にオンラインで配信されているもので顕著でした。マイクロソフトの「Immersive Reader」は同じテクノロジーを使うことで、ドキュメントを読むときにどのように構成されているか理解するのに役立ちます。そういうわけで、さまざまな人へのメリットになると思います。
原(NDC)
インクルーシブは賢い方法だと思いますが、インクルーシブになればなるほど、日本企業は参入しにくくなってエクスクルーシブになってくる気がします。日本の企業の状況はアメリカから見てどうですか。
アルバート
日本のデザインを日本らしくする要素を、大切にするべきだと思います。日本のデザインを再考し、文化や文脈をデジタルエクスペリエンスの中に取り入れるいい機会だと思います。私が日本から学びたい分野の一つはプライバシーの受け止め方です。日本との親密なコミュニティのために、私はプライバシーとは何か、課題は何かを理解しようとしています。これは私が探究していなかったことです。
川浪(NDC)
UIの世界はカスタマイズされていくと思いますが、ハードウェアの世界で個別対応していく可能性はあるでしょうか。
アルバート
私たちは長く取り組んでいますが、Xboxのアダプティブ・コントローラーというのを開発しました。手を使えないユーザーがどうやってゲームをするかを考えたものです。これを使うといろいろな入力操作をプラグインできます。ユーザーのニーズに合わせてカスタマイズできるので、デバイス本体をカスタマイズする必要がありません。ハードウェアの寿命を延ばすとも考えています。一つの事例ですが、テスラはハードウェアを継続的にアップデートしていく取り組みをしています。
鍋田(NDC)
コミュニケーションや情報を収集するハードウェアが変化してきていますが、スマホに変わる新しいコミュニケーションツールはどうなっていきますか。
アルバート
二つの側面があると思います。一つは、スクリーンが増えて、ユビキタスコンピューティングになるというものです。あるスクリーンに向かって歩いて行ったときにそのスクリーンとすぐにインタラクションがとれる、それを家庭でもオフィスでも廊下でもできるようにする。スクリーンのユビキタス化、すなわちユーザーの方が移動してモバイルになるというものです。
もう一つは、コラボレーションの仕方です。デザインはこれまでも個人作業ではなく、多くの人がクリエイティブな手法で協力する作業だったと思います。しかし、デザイナーがPCでデザインしてイラストレーターやフォトショップで作ったものを次の人に渡すということが、今ではリアルタイムで共有されてコラボできるようになっています。多くの人がコラボした方がより良いものができると思うので、こうしたフローを作ることこそが、クリエイティビティを刺激することにつながると思います。
以上