そんなことを考えるとき、思い浮かべるのは「国立公園」である。日本には29の国立公園がある。初めて「国立公園」を意識したのは、切手を集めていた少年時代である。モノトーンの控えめな切手であったが、美しい風景が凝縮されたシリーズが記憶の端にある。元来、いずこの山もいずれの浦も美しいわけで、ことさら「国立」と言われても、という見方もあろうが、あらためて「くに」の景観ひとつひとつを吟味してみるといずれも味わい深い。環境省の資料によると「同一の風景型式中、我が国の景観を代表すると共に、世界にも誇りうる傑出した自然の風景であること」がその定義であり、環境大臣がこれを指定するとある。「風景型式」などという発想には苦笑させられるが、確かにその景観を前にすると大きな感慨が湧いてくる。
国立公園の発祥はアメリカ合衆国だそうだ。19世紀半ばから20世紀初頭にかけて、イエローストーンやグランドキャニオンを人為による破壊から守るために、景観や自然、動物などの保護法が定められていった。アメリカ大陸のフロンティアを切り開いてきた人々が、合衆国独立後100年を経て、自らの歴史を刻むべき壮大なアメリカ大陸の自然の稀少性に気付き、人為によって損なわれる前にこれを保存しようと思い立ったのだろう。
月刊誌『図書』第742号
連載「欲望のエデュケーション」
16回 国立公園 より抜粋
Dec 01, 2010