スクリーンの行き先
2026.08.20
スクリーンを折る、くしゃくしゃにする、線にする。あらゆる情報が四角く平らな画面に収まる時代に、スクリーンの形状や素材を変えてみると、何が起こるでしょうか。
それまで平面に閉じ込められていた映像は豊かな光の現象を生み出し、ただ「映像を見る」にとどまらない新しい体験をもたらしはじめます。
四角形ではないディスプレイ
はじめに、メディアの新たな可能性を模索するきっかけとなった原体験のような作品をご紹介します。
これは、縞模様が等速でスクロールする映像に、一定間隔で穴を空けた紙を重ねることで、換気扇やプロペラのような回転運動を生み出す作品です。「映像や画面は四角くなければいけないのか」という問いから、iPadの画面の形そのものを変えてみることで、これまでにない視覚的効果を生み出したいと考えました。
映像は、中身である「コンテンツ」と、それを映す場である「メディア」に分けられます。つくり手はどうしても「コンテンツ」に目を奪われがちですが、この作品の制作を通して、「メディア」の構造からアプローチする方が予想をこえるような表現につながるのではないかと気づきはじめました。
スクリーンを丸める、折る、糸にする
iPadの事例は映像の画面に対する取り組みでしたが、次第にスクリーンへの投影に目を向けるようになりました。スクリーン自体の形状を変えることで何か新しい表現が生まれるのではないかと考え、身の回りにある素材を使って手を動かしながら可能性を探っていきました。なかでも特徴的な事例を2つご紹介します。
例えば、いくつもの点が一定の範囲内を蠢く映像を、くしゃくしゃに丸めたワイヤーに投影すると、火花が散るような光の挙動が立ち現れます。2次元上の点の動きをスクリーン側で3次元に変換すると同時に、低密度な繊維状のスクリーンが光を断片的に捉えることで、このような点滅が生まれてくるのです。
こちらは、点群が一定のルールで動く映像を、その挙動を裏付けるような傾斜したスクリーンへ投影した作品です。これにより、点群が空間の重力に反応して集まり、傾斜を流れ下るような視覚現象が得られます。2次元上に過ぎなかった映像内の動きに対し、空間に存在する物体のような立体的な振る舞いを与えています。
これら2つの事例のほかにもプリミティブな実験を重ねており、その一部をまとめた映像を下記にご紹介します。いずれも、単純な「映像×素材」の掛け合わせから生まれたものです。
映像とスクリーンの相互作用
通常のスクリーン投影では、プロジェクター内の元データがレンズを通して正確な画像として映し出されます。スクリーンには、レンズから放たれた光の情報を損なうことなく再現する役割が求められるためです。 一方この研究では、レンズから放たれた光そのものをスクリーン側で変換することで、新たな視覚効果を生み出すことを目指しています。つまり、投影される元の光のデータと実際にスクリーン上で知覚される表示とが異なる構造をつくっています。
「スクリーンによる変換」の概念を示した図
ここで重要なのが、スクリーン上でどのように光を変換するのかということです。立体物への投影といえば、建築物へのプロジェクション・マッピングが思い浮かぶかもしれません。それは、建築の凹凸に合わせて映像データを精密にコントロールし、対象物の形に「合わせる」アプローチです。 しかしこの研究の主眼は光をスクリーンの形に合わせて補正することではありません。あえて単純な映像のまま照射し、光がどう歪み、どう反射するかという変化を、スクリーン側の物理的な形状や素材の性質に委ねます。映像で対象物を覆い隠すのではなく、光とスクリーンの相互作用によって生まれる「現象」そのものを、新しい視覚体験として提示することを目指しています。
光そのものを感じる体験
ここで、上記の研究を展示作品として発表した事例をご紹介します。
「光の質感とスクリーン」では、これまでのスタディの中から、特にスクリーンと映像の相乗効果が生まれていると感じた4つの事例を1つのインスタレーションとしてまとめました。
いずれも単純な図形のアニメーションを、凹凸など物理的な特徴を持つスクリーンに投影しています。スクリーンによって映像を変形させるだけでなく、反射や透過といった光本来の性質が表れるように設計しました。
「光の質感とスクリーン」記録映像(2022)
投影映像とスクリーン形状の組み合わせの例
投影された光がスクリーンの形状や素材によって変形し、反射や透過といった現象を伴うことで、映像はまるで空間に存在する物質のような性質を帯びはじめます。そして単に「投影された映像を見る」という感覚をこえ、空間にある「光」そのものを感じるような体験へと変化していきます。
スクリーンを手で動かす
さらに現在では、スクリーン側の役割をより大きくし、インタラクションの要素を取り入れる実験を進めています。
具体的には、投影される映像はあえて静止画にとどめ、スクリーン自体が動くことで光の変化を生み出す構造です。鑑賞者が手で持てるサイズのスクリーンを自分で動かすことで、光の動きや変化を作れないだろうかと考えました。
この作品では、細い線でできたスクリーンを鑑賞者自身が実際に持ち、点群の静止画が投影されている空間の中で動かしています。
すると、スクリーンの形状に沿うように、光が点滅しながら流れていく様子が浮かび上がります。この「点滅」や「線に沿う光の移ろい」は、動きの情報を持たない静止画の投影空間に対して、鑑賞者自身がスクリーンをかざし、移動させることで生み出されています。
このように、点・線・面で構成された静止画が広がる空間へスクリーンを差し込み、手元で動かすことで、空間上の光を立体的に切り取り、自ら光の変化を作り出すことができる実験作品を制作しました。上記の事例のほかにも、多様な「スクリーン形状×静止画構成」の掛け合わせが考えられます。
作品構造の解説図
「手で持つスクリーン」の実験映像(2026)
この作品の重要なポイントは、単に光の動きが面白く不思議というだけでなく、自らの手元に呼応して光が反応することで、鑑賞者が「次にどう傾ければどのような表情が生まれるか」という予測や意図を持てるところにあります。空間に漂う光を探しあてたり、心地よい振る舞いを探ってみたりと、鑑賞者の意思による手の動きが光のあり方を定義していきます。ここで体験しているのは「映像を見る」でも「光を見る」でもなく、「空間内の光を探る」という感覚です。
さらに、鑑賞者自身が体験しながら、ある種の「質感」のようなものを感じ取っていることも分かってきました。スクリーンの形状や静止画の構成によって、手の動きに対する光の追従が極端に遅くなったり速くなったりと、様々な変化が生じます。この手元の操作と光の追従の差分に、鑑賞者は質感を感じ取るのです。
スクリーンを手に持てる形にしたことで、元々の「投影された映像を見る」という体験から大きく離れ、「手を動かして空間内の光を探り、その変化を予測する」「手元と光の差分から質感を感じ取る」という新しい体験へと変化しています。
メディアのかたちが、体験を変える
手をスクリーンと見立ててみた実験例。手の中を蠢く光の点群から、どんな感覚が生まれるでしょうか。
これまで紹介してきた実験や作品を通して見えてきたのは、「メディアのかたちが変われば、体験そのものが変わる」ということです。
現代のデジタル情報は、スマホやPCなどのフラットな画面に最適化されています。映像を作る際も、「何を映すか、何を伝えるか」という中身(コンテンツ)を考えることが一般的です。しかし、「白い丸が等速で動く」ようなシンプルなアニメーションであっても、それを受け止めるスクリーンの形状や素材に工夫を凝らすだけで、フラットな画面では実現できないモチモチとした柔らかさや、触れられそうな質感が生まれます。
また、スクリーンを手に持って動かせるようにすれば、単なる受動的な体験から離れ、光とスクリーンのインタラクションや、手元と光の差分を味わう新しい視覚体験がもたらされます。デジタル情報の受け止め方が、ただ見ることから、物理的な手触りを感じられる体験に変わっていると言うことができそうです。
そしてこれは、プロジェクションに限った話ではありません。コンテンツとメディアという2つの軸の中で、情報を提示する際の「前提」となっているメディアのフォーマットや環境そのものを見つめ直し、デザインの対象として捉えてみる。こうした視点は、これからの「デザインと体験」を考える上でひとつのヒントとなり、生み出せる表現や体感の可能性はより大きく拡がっていくのではないでしょうか。
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