
海上自衛隊の救難飛行艇「US-2」は波高3mの大波でも離着水できる世界トップクラスの性能を持っている。湖や内海だけではなく太平洋や日本海にも余裕を持って降りられる。この機体を「旅客機」として用いて日本列島の「半島」を結ぶ空路を構想してみたらどうだろう。半島を結びつつ日本列島を巡る空路ができるなら、移動手段が乏しく注目されていなかった場所に光が当たり始める。


旅客機として座席を据えると38人まで乗せられる。航続距離は4700km以上で、東京-那覇間が約1600kmであることを考えると実に素晴らしい性能である。巡航速度は480km/h以上であるから、新幹線の約二倍の速さだ。ジェット旅客機は高度10000mを飛ぶので、地表は遠過ぎて見えないが、飛行高度を1000mくらいにして飛ぶと、めくるめく地表の様相、俯瞰からの絶景が克明に見える。

水陸両用の飛行艇は、飛行場を作らなくても海が滑走路となる。海岸にコンクリートのスロープがあれば、そこから陸に上がり、回頭してまた海へと戻るのだ。したがって、これまでの都市間移動とは全く性質の異なる自由な空路が自然に構想されるのである。海に囲まれ、瀬戸内海や有明海のような静かな内海を持ち、琵琶湖のような大湖を持つ日本列島には飛行艇という移動手段こそふさわしい。

「US-2」は離着水に要する距離も約300mと素晴らしく短い。約90km/hという極低速の飛行が可能なため、波の衝撃も少なく、極短距離での離着水が可能となるのである。同じクラスの他の飛行艇との性能を比較すると、その特徴は歴然としている。軍用機として開発されているので、民間の転用は法律で禁じられているというが、有意義な平和利用なら、法の改正も可能ではないだろうか。

日本列島は、実に変化に富んだ地形をしていて、低空から景色を堪能しないのはもったいない。三陸のリアス式の海岸線の地形は思わず目を見張る美しさだ。松島は上空から見てもやはり松島で、知床半島から流氷の海を眺めつつ阿寒湖の上を飛ぶと、白い雪に覆われた阿寒岳とカルデラ湖の荘厳な光景に思わず時を忘れる。手付かずの日本列島の姿が低空飛行の領域に丸ごと残されているのである。

東京から本州の最北端、青森県の大間まで、電車を乗り継いで行くと約6時間かかる。もし東京から飛行艇で向かえば約2時間で着く。そこから知床半島の先まで、約1時間程度。これまでの都市間移動の交通手段だと考えられない短時間である。土地の価値の重要な側面は、アクセスのしやすさである。手付かずの自然がたわわに実っている半島の先は、まさに可能性の宝庫ではないか。

半島は、航海の時代にはアンテナとして文化や情報が飛び交う拠点であった。日本海を北前船が行き来していた時代には、日本海の半島は生き生きと活性化していたはずだ。今でも往時の面影をとどめる地域は少なくない。しかし今日、最もアクセスしにくい場所となった。この状況を、飛行艇なら逆転できる。日本列島に潜む未来資源を、新たなツーリズムに向けて活用するアイデアがここにある。

川が内陸の山から海岸へ向かって走るのとは逆に、道路は海岸の輪郭に沿って走る。鉄道網や高速道路網が主要な都市や街を結んで充実している日本列島であるが、よく見るとアクセスしにくい場所も数多く残されている。地図上に赤くマーキングされている地域がそれである。おそらくは素晴らしい自然に囲まれた場所である。それらの地域を結ぶ空路と、地域開発の可能性を同時に考えてみたい。
半島航空の可能性
1:これまで行きづらかった場所に早くスムースに移動できる。
2:空港を作らず、最小限の施設で、旅客の空輸ができる。
3:過疎地域は、自然を謳歌できる土地として価値が上昇する。
4:日本列島の海沿い全域に新しいツーリズムを構想することができる。
半島航空の課題
1:宿泊施設の開発や航空機の保有・運用・管理に大きな予算が必要になる。
2:自衛隊の機材・海難救助艇を民間利用するための法改正。
3:漁業権を持つ人々や組織との折衝。
4:乱開発にならない、ルールづくりや法律の整備。