NDC LUNCH
MEETING

江原理恵
RE株式会社代表取締役/ボタニカルデザイナー

Event Date : 2014.05.27

江原理恵 RE株式会社代表取締役/ボタニカルデザイナー

先進のテクノロジーや独自の発想で、デザインの可能性を広げる人たちがいます。
さまざまな領域を横断し、これからのデザインをともに考える対話の場「NDC LUNCH MEETING」
今回は、ボタニカルの視点やSNSなどを活用して、人と人のつながりをデザインされているボタニカルデザイナーの江原理恵さんをお迎えしました。

人と人をつなぐのには、花がぴったりなのではないかと思いました───江原
人と人をつなぐのには、
花がぴったりなのではないかと
思いました───江原

江原

言葉のかわりにギフトを使って人の気持ちをつなげていけたらな、というときに、花がぴったりなのではないかと思いました。そういったことから、フラワーギフトのデザインをやっています。基本はお祝いの花が多くて、企業の移転祝いなどで贈る花ですね。会社のメッセージなどを、花のデザインに落とし込んでいます。
また、ギフトのデザインに加えて、今は「花に関して初心者の方と、どうつながっていくか」も考えています。長く植物関係の仕事をしていて思うのは、生の花を買って、生けたり飾ったりすることの敷居の高さです。でも、花は特別なものではなくて、日常の中のものだと思っていまして。一般の方が関心のある場所に花を持ちこんで、知っていただくきっかけをつくりたいなと考えています。
たとえば、日常生活に植物を取り込んでもらうための周辺プロダクトの開発をしています。植物を模したアクセサリーですとか、伊勢丹で展示したボタニカルベースなどです。そのほかの展示では、緑がなぜ必要かということに関して、ミュージシャンの方に詩を書いていただくなど、そういうコラボレーションにも挑戦しています。

仕事をしたい方とは、ソーシャルメディアで積極的に交流します───江原
仕事をしたい方とは、
ソーシャルメディアで積極的に
交流します───江原

深津貴之(THE GUILD代表)

ちょっと質問なのですが。やはりFacebookとかTwitterなどで、営業みたいなものをされるのですか? というのも、僕が渋谷でオフィスをつくるときに、プリザーブドフラワーを探していまして。そのときに、Twitter上で江原さんと初めてお会いしたんですよね。

「この人、花を探してる」と思って深津さんに声をかけたわけですか。

江原

そうですね。私が深津さんのTwitterをずっとフォローしていたのですが、花をお探しとのことだったので。「やりましょうか?」という感じで(笑)。花を使って、もっとおもしろいことをしてみたいという方に対しては、わりと積極的にコミュニケーションをとっていくところはありますね。

花を贈ることの原点は、高校時代のアメリカ留学。現地で盛んなギフト文化から受けた刺激が、のちの活動の芽吹きとなった。

江原理恵 Rie Ehara
RE株式会社代表取締役

1977年生まれ、広島県出身。立命館大学文学部卒業。2005年、RE株式会社を設立。企業などの移転祝いを専門とするフラワーギフト通販RE flowerを運営するとともに、花を用いた空間演出や展覧会の開催など、ボタニカル(植物・草花)を起点とした人のつながりをデザインしている。また、SNSを活用したコミュニケーションにも積極的で、さまざまな企業に対するソーシャルメディア関連の企画・支援や、NYのスタートアップシーンの取材など、領域を問わず、人と人をつないでいくデザインに挑戦している。

ネットの中で、上手に人のつながりをつくっていると感じました───原
ネットの中で、
上手に人のつながりを
つくっていると
感じました───原

江原

今は常時8つくらいのソーシャルメディアを使っています。新しいものはどんどん使うようにしていまして。インターネット上のサービスづくりのお手伝いなどもしているのですが、そのひとつに、鈴木健さんとのプロジェクトで「SPOTLIGHTS」というものがあります。これは、だれかをお祝いする企画を立てまして、友達を招待するんですね。1本単位で花を買って、花が集まれば集まるほど、大きな花束を届けられるというサービスです。この「SPOTLIGHTS」は、簡単に花を贈ることのソリューションのひとつとして考えています。

これくらい仕組みがシンプルなほうが強いですよね。植物というスローなものを介在させるというのは、おもしろいと思います。花を介在させると「おめでとう」と言いやすくて、(コミュニケーションの)速度を変えてくれるんですよね。江原さんと鈴木さんの出会いはどこなんですか。

江原

このサービス(SPOTLIGHTS)ですね。それこそTwitterで友達に紹介してもらいまして。

江原さんはネットの中で、上手に花を使って人のつながりをつくっていますよね。

オランダの植物観に、僕らは学ぶところがあるのかもしれない───原
オランダの植物観に、
僕らは学ぶところが
あるのかもしれない───原

いつも考えているのは、ボタニーと都市の空間をうまくつなげられないか、ということです。たとえば僕は、きれいな花を咲かせるより、ガラスの中でヘチマが育っているほうがかっこいいと思うのです。オランダというのは、そういったボタニーに関してすごく先進的です。国土の多くが干拓でつくられていて、「世界は神がつくったが、オランダはオランダ人がつくった」と言われているように、オランダは自然界に対して手をくだすことに躊躇のない国なんですよね。日本はそこに対して躊躇があるんだけれども。日本人にとって自然というのは、摂理であり、手つかずの自然であり、鎮守の森であり、里山であるわけです。オランダの場合には、ガラスの中に育つ植物なんですよ。自然と人工をうまくつなげるオランダの人たちの植物観に、僕らは学ぶところがあるのかもしれないですよね。

NYのスタートアップ取材についてもお聞きしたいです───NDC鍋田
NYのスタートアップ取材に
ついてもお聞きしたいです───NDC鍋田

江原

アメリカのベンチャーと言えばシリコンバレーが有名ですが、実はNYにも、盛んなスタートアップシーンがありまして。NYでスタートアップに携わっている人たちは、デザインやアートなどのヴィジュアルイメージに関心が高いんですよね。これからは、ヴィジュアルでコミュニケーションをするためのサービスが、もっと出てくるのではないかと思います。実際、そういったスタートアップも既にいくつかありました。今はまだ、Twitterなどテキストベースのサービスが多いんですけれど。

三好NDC

このランチミーティングではこれまで、デザインとテクノロジーの関係について何度か話題になっています。NYで取材された江原さんは、それについてどう思われますか?

江原

たとえばGoogleの画像検索で「花」と検索しても、きれいな花が上に出てくるとは限らないですよね。でも今後は、テクノロジーと結びついて、素晴らしい花の写真が上に出てくる時代になると思うのです。

有馬NDC

デザインとテクノロジーの融合ですね。そのあたり、深津さんの意見も聞いてみたいのですが。

既存のデザイン手法とスタートアップのスピード感───深津
既存のデザイン手法と
スタートアップの
スピード感───深津

深津

ウェブサービスなどのスタートアップが盛んですが、既存のデザイン手法で、彼らの開発のスピード感についていける技法がまだ存在していないのです。そのためスタートアップなどは、デザイン性よりも、技術主体でものをつくっているという状態があります。ウェブでやっているデザインも、基本的には紙のデザインなどを延長してきたものなので、その手法だけだと対応できないことが出てきています。デザインとテクノロジーの融合ということで言えば、アメリカのIT系のデザインの人たちって、デザインを仕組み化することが好きな人が多い印象を持っています。デザイナーがコミットしなくても、ある程度かっこいいものを自動的につくれる仕組みですとか。たとえば、「Flipboard」などが近いですね。デザイナーが、雑誌のレイアウトのテンプレートをどうも2000個くらいつくっているみたいです。それでエンジニアと共同して、記事に合わせていちばんうまくはまるテンプレートを見つけてくるというような。

未踏領域のビジネス化について、常に考えています───原
未踏領域のビジネス化について、
常に考えています───原

未踏領域のビジネス化という課題は常にあるのですが。江原さんが注目されているネットサービスなど、教えていただきたいです。

江原

私が好きなサービスのひとつに、「to.be」というものがあります。インターネットをコラージュできるサービスです。文字ではなくてヴィジュアルでつくるブログ、といった感じなのですが。ここでつくったものを、Tシャツとかポスターにできるんですよね。そのほかには、「PLAYBUTTON」という音楽のサービスも好きです。アーティストの世界観に没頭するための、缶バッジ型のMP3プレーヤーがありまして。どちらも、「PARTE」という会社がやっているんですよね。これからは、ネット上におもしろいヴィジュアルを提供していって、それを人がどんどん使っていくことによって、いずれリターンが得られるというようなことが起きてくると思います。

ボタニカルとデジタル。ベースはどちらにあるのでしょう───NDC鍋田
ボタニカルとデジタル。
ベースはどちらにあるのでしょう───NDC鍋田

江原

自分でもわかっていないですね(笑)。たとえばインターネット系のサービスに携わる人が、「インターネット屋です」と言ったとたんに、ざっくり説明できているようにも感じるのですが。でも人ってもっと複雑で、いろんなことに関心があると思います。私の場合、ボタニカルという言葉も、草花を直接的に使うというものと、植物など自然界にあるものから学んで何かをつくる、という2つの意味で使っています。ボタニカルデザイナーだからボタニカルだけに集中するのではなくて、自然界のものから得たヒントを生かして、人と人のつながりをデザインしていきたいなと思っています。

ボタニカルの視点を持って活躍されている江原さんですが、ネットの可能性を感受する力というものも、お持ちだと感じました。たとえば僕らも、ネットの影響をものすごく受けているわけです。江原さんは、新しい風に乗って飛んでいるような感じがあるんですけれども、その風がどこから来ているのか、僕らは知らなきゃいけないと思いますよね。