Jul. 2015

表現することについて 表現することについて

村松 里紗/原デザイン研究所/デザイナー

多くの人に受ける表現よりも、少なくても深い共感を得ることができたら。

村松 里紗

原デザイン研究所/デザイナー

1987年生まれ。2012年東京藝術大学デザイン科卒業後、日本デザインセンター入社。ブランドデザイン研究所勤務ののち、15年7月より原デザイン研究所所属。東京TDC賞2013入選。最近の仕事に「コトバンク」ロゴ・マークデザインなど。2008年から書き続けているモレスキンノートの日記をTAKEO PAPER SHOW 2014 「SUBTLE」などに出展。

read more close

こんにちは、村松里紗です。日記やアイディアのエスキース、講義のメモ、展覧会などの半券まで、モレスキンノートに日常を網羅するように集約し始めたのは、大学1年の頃からです。内容を近くの人に読まれないようにと、次第に文字が小さくなり、4ポイントほどの大きさで書くようになりました。現在で9冊目になりますが、そもそもは人に見せる意図はまるでなかったノートです。

自分の個性の一端であると意識するようになったのは、大学の教授の言葉がきっかけです。ノートに書いたアイディアを見せた際に「一発書きでまとめられるとは編集能力がある」「すでにデザインされている」と、ノートをデザインの種として評価して頂きました。日記の延長としか思っていなかった為、意外な反応に驚きましたが、自己紹介代わりになるかもしれないと、就職活動にもこれを持ち込むようになりました。入社後はTAKEO PAPER SHOW「SUBTLE」(2014年)や、東京ミッドタウン・デザインハブで行われた「ももも展」(2015年)などでもノートを展示する機会を頂きました。パーソナルな内容であったため、人に見せる・見られることが脳裏から離れなくなり、思ったことが上手く書けない時期もありました。それを打ち破りたいともがいていた時期のノートには、太いペンでわざと落書きをするなど、評価とは逆行するような形跡も。ノートを振り返って見るとその頃に何を考えていたか手にとるようにわかり、面白いものです。モレスキンノートは自分の深部を垣間見る、覗き穴のようなものなんです。

よく使う筆記具は青色のボールペン。青には印象的な出来事があるんですよ。高校3年の美術予備校の集中講座でのこと。講師から「B3用紙4枚に悲しかったことを全部書け」という風変わりな課題を出されました。この時に配られたのが青い油性マジックです。最初はありきたりのことしか書けません。しかし途中集中を求めて机の下へ潜り込んでから、記憶と共に涙が溢れだし、気がつくと画用紙は青い文字に埋め尽くされるほどになりました。 “青色は感情を出しやすい”という講師の持論に基づいた講座であったようですが、心の奥底の感情と初めて向き合うという体験に、10代の多感な私は激しい揺さぶりを受けました。そのショックは思いの外大きなもので、その年の美大受験を諦めたほど。しかし苦しいとも快感とも言えるその強烈な体験に導かれるように、再び美大を目指し、2年の浪人生活を経て東京藝術大学に入学することになりました。意識をしているわけではありませんが、今も青色に手が伸びるのは、この経験が一因のようにも思えます。

じつは広告的表現に苦手意識があります。多くの人に“受ける”表現を掴むことが私には難しく思われるのです。できれば自分が良いと思うものを丁寧に磨き上げて送り出し、少ない人数の中でも深い共感を得ることができたらと思っています。広告界の先輩に話をしたらそれは甘い…と一蹴されるかもしれませんが、そうしたものづくりに近づくことが理想です。入社後に学生時代の友人と企画したグループ展のDMが東京TDC賞(2013年)に入選しました。一見無価値なものの美しさを救い出すことを意図し、丸めてくしゃくしゃにしたビニールをモチーフとしました。まだまだ現実の仕事では難しいですが、自分と社会をつなぐささやかな手応えを感じることができた作品です。

今、心惹かれるもののひとつにエアプランツや多肉植物があります。自宅にずいぶんと植物も増え、モレスキンノートにも登場することが多くなりました。意外性のある色や不思議な造形は人間には到底考えられないもの。この完璧さを前にしては、人ができることは限られていると畏れ多い気持ちになります。けれど、だからこそ挑むべき未踏のデザインがあるのかもしれない。そんなことを考えながら、ユニークな形に朝に晩に見入っています。

日本デザインセンターは
Facebookでも
情報を発信しています。

LIKE TO US