Nov. 2014

自分の感覚と手でつくる

三澤 遥/三澤デザイン研究室 室長/アートディレクター

自分の感受性に徹することで、生まれる共感もあると思っています。

三澤 遥

三澤デザイン研究室 室長/アートディレクター

1982年群馬県生まれ。2005年武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科卒業。デザインオフィスnendoを経て、09年より日本デザインセンター原デザイン研究所に所属。14年7月より三澤デザイン研究室として活動開始。グラフィックからプロダクト、空間計画等、多分野でデザインを展開。主な仕事に、KITTE 丸の内のVIとエントランスサイン、TAKEO PAPER SHOW 2014「SUBTLE」への出品作「紙の花/紙の飛行体」、上野動物園「真夏の夜の動物園」の告知物などがある。

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こんにちは、三澤遥です。祖父は伊勢崎銘仙の染色職人、父は図工を専門にする教師で、幼い頃から「ものをつくる人たち」に近しい環境で育ってきました。デザインを職業として意識したのは高校一年生の時。誕生日に両親から糸のこを贈られたことがきっかけで木工作業に興味を持ち、美大への進学を考えるようになったんです。大学ではインテリアを専攻しましたが、その頃はまだ自分が将来どんなデザイナーになりたいのか、具体像が描けずにいました。悶々としながらも「今この眼に見えているものをかたちに残したい」という衝動だけは強くあって、毎日机に向かってとりつかれるように絵を描き続けていたのを覚えています。卒業後も迷いは晴れず、インテリア会社、設計事務所、デザインオフィスなどを転々としました。どの場所でも経験や実力不足を露呈し、心身ともに叩きのめされる日々でしたが、プロダクト、建築、インスタレーションなど様々な仕事を経験する中で、少しずつ自分のデザイナーとしての立ち位置が見えてきました。

2009年、日本デザインセンター原デザイン研究所へ入社します。平面、立体、空間、展示企画など幅広い領域に渡って仕事ができる原デザイン研究所なら、さ迷いながら得てきた自分の経験が、逆に長所として活かせるのではないかと考えたんです。また、本質を丁寧に探り当てた普遍性のあるデザインを目指す姿勢にも強く惹かれました。原研哉さんのデザインは簡潔で清浄、一点の曇りもないような印象を受けます。でもよくよく眼を凝らして見てみると、そこにはたくさんの指紋や爪痕が刻まれているんですよ。それは最終的なかたちに着地するまでの過程において、地道な検証を際限なく繰り返すことで染み付いた執念の痕跡。なるほど洗練とは、混沌や複雑を通り抜けることでしか生まれ得ないのだなということを、原さんの間近でともに汗をかきながら作業させてもらうことで、体や感覚ごと学びました。その姿勢は、今の私の働き方に大きな影響を与えています。

2014年のTAKEO PAPER SHOW「SUBTLE」に「紙の花」と「紙の飛行体」を出品しました。原デザイン研究所に所属しながら自分名義で参加させてもらい、自分の中で大切にしている「手作業」というプロセスの重要性を、経験的にも直感的にも見極めることができました。この時の体験によって、自分が進むべき方向性がさらに明確になり始めたと思っています。それは「自分の感度・感覚に素直になる」ということ。たとえば「紙の花」は、鉛筆の削り屑が眼を見張るほど美しい造形になった、という個人的な体験が発想の源泉になっています。社会的な思想や哲学を背景にデザインを構築することも大切ですが、いち人間としての「私」に徹した感受性でイメージを広げることも、多くの人たちの共感を呼び起こす方法のひとつだと考えているんです。実際、「紙の花」を見た人たちの中には「自分も削り屑を花のように感じたことがある」と言ってくださった方が何人もいました。もうひとつの作品「紙の飛行体」では、梱包も自分の手でつくりました。写真の最後にあるダンボール製のケースがそれです。デザインは単体で存在せず常に環境とともにあるものですから、周辺にまできちんと眼を行き届かせ、自ら手を動かすという態度が、最終的にデザインの質を左右すると思っています。

この7月に原デザイン研究所を卒業し、三澤デザイン研究室を開設しました。かつては自分の専門分野を確信できないことに迷いを感じている時期もありましたが、いまは反対に、それが長所になっていると実感しています。「自分の感覚と手でつくる」という観点さえぶれなければ、あらゆる領域を軽やかにまたぎながら、やわらかなスタンスで仕事を開拓できるなと。たとえば今年の8月に上野動物園のポスターやツールを制作しましたが、将来的には、動物のケージのデザインにまで携わりたいという夢を持っています。デザインを考える上では、発想と定着の質やバランスを大切にしていますが、アウトプットの方向性や専門性にはあまり興味が湧かないんですね。何か発想が浮かんだときに、自分の専門分野ではないからやらないという姿勢をとるのはあまりにもったいないし、息苦しさも感じます。窓の外から新しい風を取り込むことで淀んだ空気を清浄するように、専門外だからこそ生み出せる新鮮なアイデアを提供したいんです。「専門がないことを専門にする」、そんなデザイナーは稀かもしれませんが、私がその中のひとりになって、世の中が考えるデザイナーという職能の領域を広げることを楽しんでいきたいと思います。

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