NAMED by NDC ─── #1 女性向け商品にまつわるネーミング談義

FOCUS

2018年4月現在、日本デザインセンター(以下NDC)には、36人のコピーライターが在籍しています。
“NAMED by NDC”は、そのコピーライターの仕事のひとつである「ネーミング」にFOCUSするシリーズ。

第1回目は、「女性向け商品」をテーマに、手掛けた案件の制作秘話や、それぞれのネーミングの発想法、
ひいてはNDCコピーライターの強みについてまで、
内藤充江(以下内藤)、吉岡奈穂(以下吉岡)、上野晃(以下上野)、原田珠里(以下原田)、長瀬香子(以下長瀬)、
5人のコピーライターが集まり意見を交わします。

企画・編集・司会進行 秋山智憲/コピーライター

────まずは、担当した女性向け商品のネーミングについて聞かせてください。

内藤

昨年、ニチレイフーズの「Oven the Dish」という冷凍食品を担当しました。それまでは電子レンジで温める商品が大半だったところに、オーブンで調理するものが出ることになったんです。1箱に3〜4人分が入っていて、30〜40代の働くママたちが夕飯にしたり、ホームパーティに持ち寄ったり…というシーンを想定したものでした。味見もしましたが、すごく美味しくて。
オーブンを使うことと、メインディッシュにもなる本格的な品質感を伝えたいと、資料にはもともと「Oven Dish」という言葉がありました。ただ、メインディッシュからメインを取ってディッシュだけにすると、本来伝えたかった意味からずれてしまうんですよね。そこで、定冠詞のtheを足して王道感や本格感を付加するという提案をしました。

吉岡

他にはどんな案を出したんですか?

内藤

ディッシュを言い替えた「Bistro Oven」や、オーブンをローストと置き換えた「Roast the Dish」などの案は出しました。あと、この商品は価格帯がちょっと高めです。メインディッシュになるとはいえ、主婦だと値段は気になりますよね。だけど、一人当たりで考えれば、実はそれほど高くないのでは?ということで、集いを切り口にShareやGatheringといったボリューム感を伝える言葉の案も検討しました。消費者目線で方向性を探ることも大切にしていますね。

原田

私は、明治の「HAREL」というチョコレートのネーミングを長瀬さんと担当しました。使用するカカオや、味のバリエーションは決まっていたものの、商品名は決まっておらず、一緒に考えていくプロジェクトでしたね。議論するうちに、親しみやすい日本語由来の名前がいいのでは、と方向性が決まりさまざまなネーミングを提案しました。体験を感じさせる動詞がいい、英語で表記しても違和感のないものにしようなど、いくつかの視点から決定したのが「HAREL」です。ポジティブな印象も決め手になったと思います。

長瀬

デザイナーもチームに入っていたのですが、「L」で終わると高級感があるしまとまって見えるなど、ビジュアル的な視点からの意見も出ましたね。
また、“食べている時間を楽しむ” “五感で楽しむ”というコンセプトがあったので、共感を得られるような小さな同封小説を試作してみたり、いろんなアイデアで買う人の気持ちに寄り添おうとしました。発表後は、インスタで#harel #チョコレート #かわいい…などの投稿も見かけてうれしかったです。

上野

僕が担当した「やさしいくちあたりの純米」は、白鶴酒造がセブンイレブンで限定発売している日本酒です。通常720ml のサイズをふたまわりぐらい小さい250ml とすることで、女性を中心に、いままで飲んでいなかった方にも手に取ってほしいという意図のもと開発されました。
オリエンの際、白鶴酒造からは漢字2文字のネーミングの提案がありました。しかし日本酒らしい表現であるがゆえに、新たな日本酒のエントリーポジションを獲得するには、違う提案をしたほうがいいと考えたんです。まず掘り下げたのが、商品の特徴である小ささを切り口にした「白鶴 ことり」「ちいつる」などの方向です。ただ、もともとの白鶴のサイズを知らない人もいるわけだしな、と別の方向も同時に探りました。
そもそも、夜仕事帰りに立ち寄るコンビニでは、もっとシンプルで素直なコミュニケーションの方が心地よいのでは…とユーザーの心情を想像し、画数の多い漢字の世界ではなく、目にやさしく入ってくる名称として辿り付いたのが「やさしいくちあたりの純米」です。

吉岡

わたしはヘアケアブランドのLorettaから新しく発売されたオーガニックコスメラインのネーミングを担当しました。ヘアケアブランドは既に可愛らしい少女の世界観で作り込まれていたので、そのブランドイメージから大きく外れず、かつ直感的に新ラインであることがわかるように、というオーダーでの競合プレゼンだったと思います。
まず、「ひみつの庭」というコンセプトが決まり、“植物の力で少女が再生されていくブランドストーリー”を中心に、キャッチコピー、パッケージ案、イラストレーター候補を提出しました。ネーミングはその次の段階でしたね。青い鳥、てんとう虫、天気雨など、いわゆるラッキーモチーフといわれるものをテーマにしつつ、化粧水、乳液、ハンドクリーム、リップと各アイテムの名前に落とし込みました。ネーミングとしては「の」を入れることを意識しました。宮崎駿さんの映画のタイトルにほぼ「の」が入っているのは有名ですが、単語と単語の間に「の」を入れると物語感が高まるので、7アイテムとも同様の構造にしています。

────女性向け商品特有の、ネーミングの作法というのはあるのでしょうか?

上野

一口にはいえないですね。濁音が入ったカッコイイ語感の女性向け商品もありますし。僕の場合は女性向け商品に限らず、調べるところからまずは始める。本屋やWebで、その世界をばーっと浴びて、自分をその気にさせてとりかかります。トヨタ自動車の女性向けの特別仕様車を担当したときは、デスクトップが毎日ソフトピンク色でしたね。どんな場合でも、とにかく調べる、どっぷり浸るという感じです。

内藤

わたしも似ています。性別や年齢など属性が違うと、言葉遣いも変わるので、想定しているユーザーが読むものを見るなどして、しっくりくる言葉を選ぶようにしています。可愛い、かわいい、カワイイの表記違いでもコミュニケーションの相手や質は変わりますよね。

原田

わたしは先入観を持たないということを心がけています。ターゲットが女性であれ、高級車を買う方であれ、重機を扱う方であれ、その市場のニーズを調べながらネーミングやコピーを考えます。自分が女性だから、女性向けの商品が得意とか好きということもなく、むしろ接点がない世界を垣間見るのが楽しかったりしますね。

長瀬

理論的なことよりも、可愛いか、かっこいいか、美しいかなど、感覚的なものを大切にすることがわたしは多いかも知れません。最初は理論から考えるのですが、あまり意味にとらわれすぎないほうがいいネーミングができることも多い。だからコピーライターだけではなく、デザイナーも巻き込んでみんなで案出しをすることもあります。

吉岡

確かにデザイナーやプロデューサーからもいい案が出ることが多い。女性向け商品特有の気の遣い方ということであれば、女子力の高い人と一緒にやる…とかですかね。

上野

結局ネーミングってよくわかるのが強い。「このネーミングには20個くらい意味がありまして…」ではなく、単純明快なもの。売り場で瞬間的にコミュケーションをはかる必要があるので、女性だから…と、あえて考えすぎないようにすることも大事だったりします。もちろん必要な調査はしますが、オリエンの際に浮かんだものが一番いいということもよくあります。造語はね、コピーライター的には一番やってて楽しくて、エキゾチックな響きが生まれたりするとワクワクしますが、それを商品として定着させるためには、ネーミング、パッケージだけでなく+αが必要ですよね。

内藤

特に今の時代、造語は難しいかもしれませんね。ネーミングにはトレンドがあって、英語が人気、ラテン語がブーム、日本語回帰など、流れがあります。男性女性というよりも、キャンペーンタイトルや季節限定の商品であれば時代感を意識したり、会社名や施設名など長く使うものであれば色褪せないものという視点を大切にしています。

────総括的な質問です。ずばりNDCのコピーライターの強みとは何でしょうか?

上野

よく考えて、しっかり伝えることでしょうか。NDCに入社する前は、ネーミングは見てわからなければ意味がないので、説明不要だと思っていたんです。提出して「お願いします」で十分だと。そんなとき、先輩コピーライターの説明力、プレゼン力を見て、衝撃を受けたんですよね。 僕たちはある意味、クライアントが考えてもいないことも考えた上で、案を出している。だからそこをしっかり説明しないと伝わらない。その過程で、商品の背景をクライアントと一緒に掴んでいくことができれば、その商品の存在価値は、一段と強くできると思うので、一生懸命喋っています。

吉岡

あと、NDCのコピーライターは守備範囲が広いのかなとも思います。ゼロベースの企画から、ネーミング、最後1文字の校正までやりますよね。コピーライターというと短い文章を中心に扱う人というイメージがありますが、全員長い文章も書けるのが特長だと思います。

内藤

クライアントの幅も広いですよね。クルマ、食品、化粧品など、同時進行でさまざまな案件に携わっているので、多様な業界を垣間見ながら広い視野をもって仕事ができる。ユーザーはひとつの商品だけを買うわけではなくて、暮らしを営んでいるわけですから、いろんなことを掛け合わせて提案していけるというバックボーンは活きてくると思います。
コスメ専門のライター、フードライターなど、ジャンルを絞って活躍しているライターもいますが、わたしたちは業界の垣根を気にせず、オールラウンドで対応できますよね。

原田

デザイナーが近くにいることも強みかも知れません。ひとりで考えていると煮詰まることもあるけれど、デザイナーやプロデューサー、カメラマンなど、いろいろな職能の方と話すことでヒントをもらえることが多いですね。ネーミングは特にそうかもしれない。コピーライターだけが集結しているという環境ではないのはメリットだと感じますね。

長瀬

そうですね。一方でコピーライターが36人もいることも強みですよね。20代ライターチーム、ママライターチームなど、プロジェクトに対して適切なチーム編成で臨めるというスケールメリットがあります。今後も部署の枠を超えて、さらに柔軟な仕事の仕方をしていきたいですね。

左から

吉岡 奈穂/コピーライター
1976年東京生まれ。学習院大学文学部心理学科卒業。旅行会社、広告代理店等を経て、2003年日本デザインセンター入社。現在は広報室所属。趣味は読書で、2017年は約1000冊を読了した。猫、お酒、旅、フラダンスも好き。2018年よりマラソンの楽しさに目覚め中。2人の娘の母。

内藤 充江/コピーライター
1973年愛知県生まれ。愛知教育大学教育学部美術学科卒業。広告代理店勤務を経て、2002年日本デザインセンター入社。現在はブランドデザイン研究室所属。商店街と絵本と発酵食づくりが好きな、一児の母。

上野 晃/コピーライター
1975年神奈川県生まれ。新卒で入社した広告代理店が倒産し、1年間の幸せな失業期間を経て、2000年日本デザインセンターにミレニアム入社。郊外への引っ越しを機に、苦手だ嫌いだと敬遠してきた「太陽」と和解。ぬくぬくと暖まり、ジリジリと焦がれる日々を送っている。

原田 珠里/コピーライター
1982年奈良県生まれ。2007年日本デザインセンター入社。主にレクサスのカタログを担当。趣味はTVでのスポーツ観戦。野球、サッカー、テニスにアメフトまで、すべてのスポーツが守備範囲。特にプロ野球を全試合見ることが毎年の目標。

長瀬 香子/コピーライター
1986年東京生まれ。茨城育ち。上智大学法学部卒業。2010年日本デザインセンター入社。原デザイン研究所を経て、ブランドデザイン研究室所属。電車と温泉と九州が好き。旅は「冒険」と信じているが、近年はもっぱら「休養」に甘んじているのが悩み。

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