’87
東京電力 CIデザイン

信頼を象徴するシンボルマーク

CL 東京電力 AD・D 永井 一正 PR 小林 豊樹 AG 電通

主に関東エリアの電力を供給する東京電力が、CIを導入したのは1987年である。NDCのもとにシンボルマークの依頼が来たのはその前年のことだ。東京電力は電力供給といういわば黒子的な事業であることから一般の人々には意識されにくく、暮らしを陰で支えている企業であった。しかし、時代の要望に応えるためには黒子的な役割から、より消費者との接点を持つ必要性があると感じ始めていたのだった。

それまでの東京電力のシンボルマークは稲妻をモチーフにしたものだった。稲妻は電力を象徴する自然現象であり、電力会社が生まれた当時においては、電気をイメージさせるシンボルとして非常に分かりやすかったであろう。だが、時を経て電力は、自然現象ではなく基幹インフラとなり、電力なくして企業も工場も、日常生活全般が成り立たないほどになった。にもかかわらず、電力供給という根源的な普遍性が目に見えにくいので、消費者により深い信頼性を抱いてもらうためには、自らの顔をはっきりと見せて安心を示さなければならなくなったのである。

CIは、企業の未来のために導入するものであるから、何度も企業のトップと会い、未来について話を交わした。そうして私が提案したのは、稲妻のギザギザとは正反対の丸く柔らかいシンボルマークである。

丸形は電力に最もふさわしい。人々が電気を感じ、そのありがたさを感じるのは、明るく電気のついた家の中で一家団欒している場面であろう。丸は「和」である。さらに端正な調和を感じさせることを意図して、6つの丸で構成されるひとつのマークをデザインした。大企業であるから具象的なものでは飽きられる。完全に抽象的でありながらもどこか親しみやすく、見ようによっては、アニメのキャラクターのようにも見えるこのマークは、家庭的な、日本を支える電気の暖かさを感じさせるものになった。コーポレートカラーとして設定した深紅も、明るさ、力強さ、活気、エネルギーを表すものとして選定している。

ロゴタイプに比べ、シンボルマークは象徴性が高い。人々に直感的に感じてもらい、その積み上げによってなんとなく愛着が生まれる。東京電力のシンボルマークは信頼性の証であり、企業と一般消費者とのコミュニケーションの核となる。そのため、マークを中心に消費者に直接触れる看板や社用車に重点を置いてデザインシステムを整備した。シンボルマークは累積によって効果が生まれる。マークの露出度は大きく、マンホールや料金伝票、社用車やCMなど、ありとあらゆるところに登場する。マークは使われなければ意味がなく、使用されて累積した効果でより豊かなイメージが育っていかなければならない。

ビジュアル・コミュニケーションは的確でなければ逆に混乱を招く。最適なマークを生み出しても、健康優良児を健全な大人に育てるのは、企業から正しく発信することしかないのである。

このマークはあっという間に一般に認知された。見えない電気を供給する企業が、人々に最も身近なインフラを提供している身近な企業へと捉え直されたのである。

アプリケーションデザイン 上原 昌、柳谷 奉文、太田 岳、吉田 正、末永 圭三

永井一正(ながい・かずまさ)
1929年大阪生まれ。51年東京藝術大学彫刻科中退。60年日本デザインセンター創立とともに参加。現在、最高顧問。多くのCI、マークのほか、80年代後半より動物をモチーフにした「LIFE」シリーズを展開している。主な受賞に日宣美会員賞、朝日広告賞、東京国際版画ビエンナーレ東京国立近代美術館賞、ADCグランプリ・ADC会員最高賞。東京ADC「HALL OF FAME」(殿堂入り)、日本宣伝賞山名賞、亀倉雄策賞、勝見勝賞、毎日デザイン賞、毎日芸術賞、通産大臣デザイン功労賞、芸術選奨文部大臣賞、紫綬褒章、勲四等旭日小綬章、ワルシャワ国際ポスタービエンナーレ金賞・銀賞・特別賞、ブルノ国際グラフィックビエンナーレグランプリ・金賞、メキシコ国際ポスタービエンナーレ第1位賞、モスクワ国際ポスタートリエンナーレグランプリ、ザグレブ国際ポスター展グランプリ、ヘルシンキ国際ポスタービエンナーレグランプリ、ウクライナ国際グラフィックアート・ポスタートリエンナーレグランプリ、アジアパシフィックポスター展(香港)グランプリなど多数。