アサヒビールは、1949年大日本麦酒から分割して発足した。分割当時のアサヒビールのシェアは、日本麦酒(現・サッポロビール)に次いで業界二位。しかし、その後シェアは下がり続け、82年には10%ぎりぎりまで落ち込んでしまった。広告やイベントなどの新機軸を打ち出していたにもかかわらず、業績向上に結びつかない。その理由は、醸造技術には自信を持っていたが、逆にその自信ゆえに消費者の志向と遊離していたことにあった。社員も自信喪失気味となり、活気に欠ける企業風土が形成されつつあった。
起死回生策を打たなければ、と決断したのが村井勉社長(当時)である。社内外で自社の企業イメージに関する大規模なヒアリング調査を行った結果、外から見たアサヒビールは性格が曖昧で、明確なイメージがつかめない会社という評価であることが分かった。抱えている問題を解決するには、社員意識と企業行動の全体を統一・活性化すること、企業自身とブランドの双方に明確な個性を与えることが必要だった。
折しも89年には大阪麦酒(大日本麦酒の前身。創立1889年)の時代から数えて創立百周年を迎える。こうしてアサヒビールはCIの導入を決定したのである。
NDCは、アサヒビールのコーポレートマーク・デザインコンペティションで選定されたことから、コーポレートマーク、新製品ビールのラベルを始め、アサヒビールCIにおけるアプリケーションアイテム全てのデザインワークを担当することとなった。これは理想的な展開であった。CI導入で肝心なのは、イメージと商品の双方がともに刷新されなければならないということである。商品、サービスが上質なものであって初めてCIも活かされるし、商品も引き立つ。絶対的に両立しなければならない。
私たちが目指したのは、企業としてのアサヒビールらしさと、商品としてのビール固有の「らしさ」の視覚的な融合である。企業のシンボルマークとして完成度の高いものであっても、ビールのイメージに合わなければならない。その逆もまた然りである。
そのためにまず行ったのは、シンボルである「赤い朝日」を基本的に変え、シンボルでなく「ロゴマーク」をつくることだった。長く親しまれているこのシンボルを変えるか否か、社内の意見は割れたという。慣れ親しんだマークを捨ててしまったら、古くからのアサヒファンが離れてしまうのではないかと危惧する声もあった。しかし、コミュニケーション機能を重視するならば、ロゴタイプの判読性とマークのシンボル性を兼ね備えたマークが適しており、同時に、これまでのアサヒビールのイメージを完全に払拭する必要があった。ロゴマークは躍動感、若さ、挑戦する姿勢、発展性をイメージさせた独自性のあるデザインを意図し、また新たにコーポレートカラーをブルーに設定した。ブルーは清涼感、清潔感、知性、さわやかさを感じさせる。シンボルではなくロゴマーク、赤ではなく青。これまでのイメージと真逆のイメージを訴求したのである。切れ味のよいシャープなロゴマークは上原昌のデザイン。丸みのある右肩あがりの文字に細部の造形力が活きている。
そして86年1月21日、アサヒビールはCI導入を発表した。その翌年に発売された「スーパードライ」が大ヒット。ロゴマークと「スーパードライ」により、「アサヒが変わった」というイメージを強烈に市場に植え付けた。
CI導入年である86年アサヒの成長率はビール業界全体の約3倍。スーパードライ発売年には業界全体の約3倍。翌88年にはなんと9倍を記録。28年ぶりにサッポロビールを抜いて業界2位の座に返り咲き、奇跡的な成功例とも言えるほどの成果をもたらしたのである。アサヒ内部もNDCも一丸となり、変革への強い意思に基づく明確な方向性をみなで共有する意気込みが成果につながったという気がする。
永井一正(ながい・かずまさ)
1929年大阪生まれ。51年東京藝術大学彫刻科中退。60年日本デザインセンター創立とともに参加。現在、最高顧問。多くのCI、マークのほか、80年代後半より動物をモチーフにした「LIFE」シリーズを展開している。主な受賞に日宣美会員賞、朝日広告賞、東京国際版画ビエンナーレ東京国立近代美術館賞、ADCグランプリ・ADC会員最高賞。東京ADC「HALL OF FAME」(殿堂入り)、日本宣伝賞山名賞、亀倉雄策賞、勝見勝賞、毎日デザイン賞、毎日芸術賞、通産大臣デザイン功労賞、芸術選奨文部大臣賞、紫綬褒章、勲四等旭日小綬章、ワルシャワ国際ポスタービエンナーレ金賞・銀賞・特別賞、ブルノ国際グラフィックビエンナーレグランプリ・金賞、メキシコ国際ポスタービエンナーレ第1位賞、モスクワ国際ポスタートリエンナーレグランプリ、ザグレブ国際ポスター展グランプリ、ヘルシンキ国際ポスタービエンナーレグランプリ、ウクライナ国際グラフィックアート・ポスタートリエンナーレグランプリ、アジアパシフィックポスター展(香港)グランプリなど多数。






