’80
富山県立近代美術館 ポスター

一貫したブランドアイデンティティを示すポスターデザイン

CL 富山県立近代美術館 AD・D 永井 一正


1982

ギネスブックに申請しようか、という冗談が出るほどに、30年間、ひとつの美術館のポスターをひとりのデザイナーが手がけている事例はほとんどないだろう。

富山県立近代美術館は1973年に設立準備が始まった。富山という地は美術評論家で詩人の瀧口修造の出身地である。県立美術館構想は、当時の県知事が瀧口氏に相談し、朝日新聞学芸部美術記者だった小川正隆氏(元美術館長)を館長に迎えようというところから準備が整い始めた。

当時、美術館でもCIの必要性が話題に出始めてはいたが、どの美術館でも、本当に一貫した美術館の顔は成立していなかった。美術館が地方に密着して、その存在を全国に発信していくためには、美術館のデザインポリシー、アイデンティティを持たなければならない。美術館のポスターはアイデンティティ確立のために最適なメディアであるにもかかわらず、多くは、展示品の写真の下に文字が入っているという定型のもの。企画展示ごとに企画に合ったデザイナーを選定しているのも、アイデンティティ構築という観点からみれば、ぶれにつながっている感も否めない。

小川氏は、せっかく自分が館長になるのであれば、最適なデザイナーを選んでアイデンティティをつくっていきたい、それが美術館のブランド価値につながると考えていた。美術館のロゴマークの審査のために同席し、その手直しを手がけたことから、私がその任を引き受けることになった。

その時に話し合ったのは、いくら顔づくりといっても、展示品の写真と文字だけで構成するのはやめたいということだった。

要するにポスターに写真を掲載したからといっても、美術館に行けばその作品はあるわけで、印刷物は現実の作品にはかなわない。むしろ、永井一正という作家の特質を使って一貫性を出すことで、富山県立近代美術館の顔をつくるのはどうかということだ。そして30年余。200点以上のポスターを制作してきた。個人の作家性を打ち出したアイデンティティ構築は美術館では皆無だったために、強烈なポリシーができあがっていった。

ポスターは、オリジナルな作品に出会う前の「前奏曲」ともいうべきものだ。いつ何をやるかという告知以外に、独立したアートとしても魅力的でなければならない。80年代に入ると、商業的な広告ポスターが全盛時代を迎えた。60年代からNDCや私達が手がけてきた、極めて造形的な、グラフィックを使ったポスターがかえって珍しく思われる時代となってきたということもある。


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私自身の作風は、初期のミニマムな抽象から、徐々に有機的になり、70年代の終わり頃から宇宙の神秘をテーマにするようになり、その後、具象的な動物をモチーフにした作風へと変化している。しかし、一貫しているのは、人それぞれの違いを超えた、何か人間共通のもの、共有の宇宙というような普遍性が存在するのではないか、という想いである。デザインの中でもなんとかそれを表現したい。その想いが、抽象であれ具象であれ、普遍的な宇宙、自分がそこに生かされている宇宙をモチーフとした一連の作品となっているのである。

美術館のメッセージや企業のメッセージも、見る人ひとりひとりに訴えかける強さを持たなければならない。その琴線に触れるような普遍性をメッセージとして発信するのが一番強いのではないかと思う。もっと不動の根源の部分に根を下ろしたい。

美術館はそういうものの大切さを訴えるところだと思う。時代の風潮や風俗ではない本当の価値を、本物に触れて五感に感じてもらう場所。私のポスターが視覚的前奏曲であるとすれば、その理念、志がそこからにじまないといけないと思う。

永井一正(ながい・かずまさ)
1929年大阪生まれ。51年東京藝術大学彫刻科中退。60年日本デザインセンター創立とともに参加。現在、最高顧問。多くのCI、マークのほか、80年代後半より動物をモチーフにした「LIFE」シリーズを展開している。主な受賞に日宣美会員賞、朝日広告賞、東京国際版画ビエンナーレ東京国立近代美術館賞、ADCグランプリ・ADC会員最高賞。東京ADC「HALL OF FAME」(殿堂入り)、日本宣伝賞山名賞、亀倉雄策賞、勝見勝賞、毎日デザイン賞、毎日芸術賞、通産大臣デザイン功労賞、芸術選奨文部大臣賞、紫綬褒章、勲四等旭日小綬章、ワルシャワ国際ポスタービエンナーレ金賞・銀賞・特別賞、ブルノ国際グラフィックビエンナーレグランプリ・金賞、メキシコ国際ポスタービエンナーレ第1位賞、モスクワ国際ポスタートリエンナーレグランプリ、ザグレブ国際ポスター展グランプリ、ヘルシンキ国際ポスタービエンナーレグランプリ、ウクライナ国際グラフィックアート・ポスタートリエンナーレグランプリ、アジアパシフィックポスター展(香港)グランプリなど多数。


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