’09
TOKYO FIBER ’09 SENSEWARE

ハイテク繊維の可能性を提示する展覧会のプロデュース

CL 日本化学繊維協会 主催 TOKYO FIBER展実行委員会 AD・D 原 研哉 D 井上 幸恵、 松野 薫、 岸本 朋子、 南舘 崇夫、 三澤 遥
PR 伊藤忠ファッションシステム、 児玉 圭文 AG 電通

日本デザインセンターはデザインで社会の役に立とうという会社で、専門領域はコミュニケーションである。コミュニケーションにおけるデザインの役割は刻々と変化している。企業と生活者のコミュニケーションは、もはや企業からの一方的な情報の投げかけではなく、両者の間に生き生きとした意識の疎通を生み出していくことにある。広告という情報伝達の方法は、ソーシャルメディアの旺盛な盛り上がりを反映して、大きな変革期を迎えており、日本デザインセンターの仕事のかたちも刻々と姿を変えつつある。

新たなコミュニケーションにおけるデザインの力は「構想力」と「編集力」にある。企業活動の本質を理解し、同時に生活者のリアルな希求に耳を澄ませ、企業と人々の暮らしを理想的なかたちで交差させる「場」を創造していくことが、これからのコミュニケーションデザインに課せられている役割である。

文明が衝突する世界においても、富と経済が軋轢を生み出す社会においても、人間の生存を直視せざるを得ない地球環境においても、軋轢ではなく「感覚の平和」を、浪費ではなく「最適さの快感」を見出して行かなくてはならない。デザインはそのために働かなくてはならないのである。

日本デザインセンターは、創業50年を経て、まさにその名前の意味する活動のかたちを自覚し、日本の文化や産業の中で機能するデザイン・カンパニーとしてその生命を更新させていこうと意欲している。

「TOKYO FIBER ’09 SENSEWARE」と題された展覧会は、新たなデザインの役割を見つめ直すきっかけをつくる仕事のひとつであった。これは、日本のハイテク繊維メーカー7社が開発した知的先端繊維を用いて、繊維産業の未来を、デザインの創造性を通して可視化してみせる試みであった。

繊維産業は戦後日本の製造業を支え続けてきた基幹産業のひとつであったが、円の高騰や、アジア諸国の工業生産の急速な伸展によって、衣料品を脱し、新たな市場の開拓を余儀なくされていた。現在、衣料用の人工繊維は、中国・インドなど人件費の安い国が生産の主導権を握っている。

しかしながら日本のハイテク繊維は、環境素材全般へと、その市場領域を拡大したことによって、むしろ新たな可能性を持ち始めた。今日、航空機のボディにも、水道水の濾過膜にも、人工血管にも、ハイテク繊維は用いられており、そのさらなる飛躍が期待されている。

私たちがプロデュースした「TOKYO FIBER ’09 SENSEWARE」展の目的は、先端繊維を用いた新たなものづくりの可能性を、日本の優れたクリエイションの力をそこに注ぎ込むことによって具体化して見せることにある。建築家、諸分野のデザイナーやアーティストのみならず、科学者、そしてクルマやハイテク家電のメーカーも、ここではクリエイターとして活躍していただいた。これらの才能と頭脳、そして感覚や技術によって、日本の先端繊維は新たな用途のかたちを体現したのである。

かたちを変えるソファ、柔らかい表皮を持つ笑うクルマ、人間や動物の顔をかたどった立体成型マスクや、光を透過させるコンクリート、拭き掃除をするロボットや、6メートルのアームを支えなしで歪みなく伸展させる照明器具などなど……。

ハイテク繊維産業と、洗練を極める日本のクリエイティブの力を融合させ、その可能性を眼に見えるかたちで具体化した展覧会は、ミラノと東京で開催され、世界に大きな衝撃を与えた。人と物がダイレクトに交流する展覧会はネット時代ならばこそ貴重な情報流通の場になる。

同展は今後、イスラエル、中国、シンガポールと、世界を巡回していく予定である。

原研哉(はら・けんや)
1958年岡山生まれ。グラフィックデザイナー。日本デザインセンター代表取締役。武蔵野美術大学教授。83年武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科大学院卒後、日本デザインセンター入社。アイデンティフィケーションやコミュニケーション、すなわち「もの」ではなく「こと」のデザインを専門としている。2001年より無印良品のボードメンバーとなり、その広告キャンペーンで03年東京ADC賞グランプリを受賞。近年の仕事は、松屋銀座リニューアル、梅田病院サイン計画、森ビルVI計画など。長野オリンピックの開・閉会式プログラムや、05年愛知万博の公式ポスターを制作するなど国を代表する仕事も担当。また、プロデュースした「RE DESIGN」「HAPTIC」「SENSE-WARE」などの展覧会は、デザインを社会や人間の感覚との関係でとらえ直す試みとして注目されている。近著『デザインのデザイン(DESIGNING DESIGN)』は各国語に翻訳され、世界に多数の読者を持つ。


Photo: Nacása & Partners

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Photo: Vda inc./amanagroup


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