’08
トヨタ自動車 iQカタログ

クルマのコンセプトを明快にする情報のデザイン

CL トヨタ自動車 CD 河村 達徳 AD・D 河村 達徳、 藤原 奈緒 C 澤井 恵一 P 遠藤 匡、 羽深 俊幸 PR 大山 秀雄

NDCでは創業時から数多くのクルマのカタログを制作している。昔から言い継がれているのが、「カタログはクルマの一部である」という考え方だ。カタログ制作とは商品自体を魅力的に再構築する行為である、という姿勢がこの言葉の背景にある。

カタログにおいて、写真やタイポグラフィなどグラフィックデザインの質の高さは重要である。なぜならカタログを見る人はカタログに掲載されているグラフィック要素を商品の質として感覚的に認識してしまうからである。さらに、例えばエントリーユーザーにも運転しやすいクルマのカタログは、当然ながらエントリーユーザーに分かりやすい表現が必要であり、商品コンセプトや個々の機能、スペックなどの詳しい専門的な商品情報をいかに整理・翻訳し、どんな構成でどう説明するか、という情報デザインの質も同時に重要となる。

2008年にトヨタが発売した「iQ」は、トヨタが今までにない先進的なコンセプトを注入したクルマであり、カタログもまたそのコンセプトを体現するビジュアル表現と、iQを選ぶユーザーにふさわしい情報の質的表現の双方からアプローチしている。

近年、ハイブリッドカーや電気自動車への関心が加速度的に高まっているが、環境・エネルギー問題はバッテリーやモーターなど動力に関する効率だけで語ることはできない。iQは、軽自動車の規格よりもさらに短い3メートル未満の全長の中に4人乗りの室内空間を配置した高効率パッケージによって、環境・エネルギー問題だけでなく、過密化する都市交通問題、そしてクルマ本来が持つ楽しさを提案するという、非常に先鋭的なコンセプトが核となっている。

カタログを制作するにあたって大きな課題となったのは、この「新しい価値」をいかに伝えるかであった。この課題に対し、私たちは1冊のカタログを4章に分け、4段階のコミュニケーションを設計することにした。

まず冒頭である。多くのカタログではクルマのコンセプトを言葉で説明するのに対し、あえて「iQは言葉で語らない」という方法をとった。iQのカタチそのものがクルマのコンセプトそのものだからだ。写真を見ればiQの新しい価値を「感じて」もらうことができる。このクルマならではの魅力的なアングルを探し出し、実際に手でボディを直接触れながら微妙な立体感や質感を意識しての撮影と、高度な3DCG技術を駆使した画像制作が行われている。

第2章では、iQの具体的な特徴を、数字をキーとしながら表現している。例えば「2,985mm」という全長の数値と、それによって生まれる新しい駐車スペースというビジュアルによって、小さいという価値を「想像」するきっかけになることを目的としている。

第3章では、快適性・走行安全性能・環境性能などをより進化させながらこのサイズに凝縮するために開発された、革新的な技術や装備などについて詳しく「理解」できるよう、分かりやすい解説に努めた。

そして巻末では、自分の1台を「選ぶ」という、カタログ本来の重要な機能的情報を集約させた。数あるボディカラーやグレードなどについて、比較のしやすさに配慮した細かい工夫を施している。

1冊のカタログを通して、購入検討者の心に最終的に残したいのは、クルマを購入することによって始まる、その人の未来の生活イメージである。

時代とともに進化するクルマと同様、カタログもまた進化していく。カタログと、ウェブを始めとする他の販促活動との関係も緊密になりつつある。しかしおそらく「カタログはクルマの一部である」からには、商品に最も近いコミュニケーションツールとして、そのコンセプトを体現し、クルマそのものの多角的な情報を分かりやすく伝え、購入へと導く重要な役割は今後も変わらないだろう。

三好克之(みよし・かつゆき)
1964年生まれ。88年京都精華大学美術学部デザイン科卒業。同年日本デザインセンター入社。現在、三好制作室室長、制作副本部長。主な仕事に初代プリウスを始めトヨタ自動車のカタログ多数。「トヨタ自動車ショールーム」コミュニケーションデザインで第41回SDA最優秀賞受賞など。