'08 ベネッセアートサイト直島 ウェブサイト

直島のアート活動を総合的に再編集するサイトデザイン

CL 株式会社ベネッセホールディングス CD 原 研哉 W 橋本 麻里 D・HTML 種村 司 フラッシュ 有馬 智之 ED・マネジメント 鈴木 啓太

瀬戸内海にある約3,000の島の中で、香川県高松市の北約13キロ、岡山県玉野市の南約3キロに位置する小さな島「直島」。岡山県に本社を置くベネッセホールディングスと直島福武美術館財団が1980年代より行ってきたアート活動「ベネッセアートサイト直島」の拠点である。

島には安藤忠雄氏が設計したふたつの美術館「ベネッセハウス ミュージアム」「地中美術館」を中心に、民家を利用したアートプロジェクト「家プロジェクト」、複数の宿泊施設やレストラン、個性的な屋外作品などが点在している。アーティストが直島のために新たに作品を制作した「サイトスペシフィック・ワークス」があるのも特徴のひとつだ。

最近では現代アートの聖地とまで呼ばれ、そのアート活動は今も成長を続けている。

2008年初旬、『BRUTUS』『和樂』などの雑誌で活動するライター橋本麻里からのコラボレーションの要請により、このウェブサイトのリニューアルプロジェクトが始まった。当時のウェブサイトは変化を継続的に重ねてきた、成長する施設によく見られるような、言わば、増築に増築を重ねた家のように迷宮化していた。世界が注目する日本の瀬戸内海にあるミュージアム施設の魅力を表現しているとは、やや言いがたい状況にあった。

構想を原研哉、制作はwebデザイン研究所、コーディネーションとテキストは橋本麻里が担当するかたちでプロジェクトチームが発足。

まずは旧ウェブサイト上の情報の整理から着手した。幾種もの施設が複合するベネッセアートサイト直島は他の美術館にはない独特な集合体であるため、日帰りでの作品鑑賞が目的の観客もいれば、旅行を目的に訪れるお客もいる。それら複数の目的に対応するため施設や作品情報をどう整理し、関連づけていくか、その情報を掲載するのに妥当な場所はどこか、といったサイト構成と編集作業に多くの時間と議論を費やした。

同時に、「瀬戸内海の直島を世界に誇れる自然と文化の島にしたい」という運営側の思いを世界中の閲覧者にどう受けとめてもらうかということも、今回のリニューアルでの課題であった。

具体的な方法として私達が提案したのは、このアート活動が行われている場所のロケーションを理解してもらうために「島の特徴を必要十分に反映した精密な地図」を用い、そしてその地図からそれぞれの情報へ辿り着いてもらうこと。

デザイナーは過不足のない最適な地図表現を具体的にするためにさまざまな資料にあたり、何度も地図を書き直した。ひとことで海岸線といっても港、砂浜、岩場と、場所によって線の表現がまるで違う。しかしすぐ見つかる地図データやグーグルマップでは島と海の境界の細かなディテールまでは載っておらず、最終的には国土地理院が発行する航空写真を貼り合わせて書きおこしていった。デザイナーは海岸線のリアリティを突き詰めることで生き生きとした地図を実現している。

きれいなグラフィックに終わらず、インターフェースとしての心地よい使用感を生み出すための作業にも試行錯誤を繰り返した。例えば地図を拡大するアニメーション。瞬時に拡大するのは瀬戸内海のスケール感がなく、直島らしくないと考えた。しかしその動作を遅くすれば閲覧者にストレスを与えることになる。そういったアニメーションや画面遷移にも直島らしさを損なわない演出を加えた上で、ウェブサイトとして機能する落とし所を模索していった。

それらは結果的に「世界の中の日本、日本の中の瀬戸内海、瀬戸内海の中の直島」であることを表現する世界地図から直島へとズームしていく冒頭のアニメーションや、アニメーション停止後の直島の地図にメニュー機能を持たせ、シームレスに個別の施設ページへと遷移するインターフェースなどで活かされることになった。

さらに、サイトを公開した後の2010年、直島を中心として、豊島、犬島、小豆島、男木島、女木島、大島、そして高松市の一部を含む広域な瀬戸内海アートゾーンを舞台に世界規模のアートフェスティバル「瀬戸内国際芸術祭」が開催されることになり、地図を基本としたナビゲーション・デザインは、電子デバイスを用いた新たなステージへと引き継がれていくことになる。

瀬戸内国際芸術祭のビジュアル・コミュニケーション・デザインを原デザイン研究所が担当することになり、直島アートサイトで基盤をつくった地図によるナビゲーションは、そこでも重要な役割を果たすことになったのである。

船を乗り継いで、島々を巡りながら、目当てのアートサイトを訪ね歩くという鑑賞スタイルにおいては、アートゾーンへの地理的な理解や、移動のための情報交換をいかに効率よく成就させていくかがポイントになる。情報デザインのゴールは人々に主体性と能動性を生み出していくことである。

国土を資源としたツーリズムへと産業がシフトしていく中で、芸術祭や国立公園のような広域ゾーンを効率の良い情報アーキテクチャーとして編集していくことが新たなデザインの課題となる。一連の仕事はその端緒となるはずである。

鈴木啓太(すずき・けいた)
1974年生まれ。ウェブディレクター。97年頃よりウェブサイト構築に携わり、キノトロープ、ジェイスリーなどのウェブプロダクションを経て、2005年よりNDC在籍。

図版は瀬戸内国際芸術祭2010で使用するナビゲーションデザインより引用
主催 瀬戸内国際芸術祭実行委員会 AD 原 研哉 D 大黒 大悟 P 上田 義彦

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