’08
川村記念美術館 VI

改装に伴うミュージアムブランドのVIリニューアル計画

CL 川村記念美術館 AD・D 色部 義昭 PR 児玉 圭文

千葉県佐倉市の郊外、里山の地形を活かした約3万坪の緑豊かな庭園内に1990年に設営された美術館の改装工事に伴い、VI(ビジュアル・アイデンティフィケーション)のリニューアル計画が行われた。川村記念美術館は都心から電車とバスで1時間半程度というやや不便な立地条件でありながらも、地の利を活かした環境づくりや、20世紀抽象絵画を中心とした充実のコレクション、作品鑑賞を配慮したゆとりある展示構成によって多くの観客を魅了し続けてきた。マーク・ロスコやバーネット・ニューマンらによる作品の専用展示室増築や企画展示室の拡張などのために行った建築工事も、直接的な集客数の増員を第一としたものではなく、内容を充実させることを目的としたものであった。そのように展示構成や環境の充足に重点をおいた運営を経て円熟しつつある館の美質を見極め、ビジュアルを介してその価値を再定義すること、そしてそれをいかにメッセージとして定着させていくかということが、重要な課題であったように思う。

自然に恵まれ、どっしりとした石の建築とゆったりとした空間を擁する館のおおらかで明るいイメージから「野太く明るい」という全体のビジュアルテーマを打ち立て、マークとロゴからステーショナリー類、ショップ包材、館内のサインに至る部分まで一環したテーマで展開した。当初、美術館側より提示された条件の中には、特徴的なツインタワーの建造物をイラスト化したものとして知られている従来のマークをそのまま流用するという希望もあったが、イラスト調のマークがさまざまな展覧会を催す館のマークとして汎用性を欠くという問題点もあり、それをクリアする案として、川村の頭文字「川」とMuseumの頭文字「M」を合字してつくったシンボル「川+M」1文字による簡潔で抽象的なマークを提案した。条件にあったツインタワーは文字のシルエットとして継承することで了解を得て「川+M」のマークが採用されることとなった。

マークは、欧文ロゴで使用しているフルティガー・コンデンス・ボールドという太い活字書体をベースに開発。ロゴと同じ書体の1活字のようにデザインすることでマークとロゴの統合を図った。通常のボールド書体は線の太さによってどっしり安定した印象になる反面、重く暗い印象にまとまりがちであるが、この書体は簡潔で澱みがないラインによって明るく軽快な印象であり続ける。フルティガーの書体設計の秀逸な造形性を参照しながらシンボルマークを開発し、それに従属するようなかたちで和文ロゴやピクトグラムも開発した。太く明快なエレメントによって編集されたシグネチャーは自然の光の中でどっしりと地に根ざした美術館のイメージを表現するものであり、それがショッピングバッグやステーショナリーなどに展開されることで、環境という館の美点をメッセージし続けていくことを企図したものでもある。

建物の増改築工事とともにすでに進行中だったサイン計画も「空間のVI」という発案を経て、入口の大きな案内図から小さな作品キャプションに至るまで全般にわたってデザインを監修する機会を得た。サインそのものは誘導機能を前提にするものであるが、ここではエントランスから回廊、展示空間へと空間を跨いで存在する壁紙のようなものであることにも着眼し、そこに「野太く明るい」ビジュアルの粒子を点在させることによって空間を均質化し個性的な場を醸成させることを試みた。


Photo: Osamu Watanabe

「空間のVI」というコンセプトをもとに展開した「太く明るい」サイングラフィックは、太さが空間の中でメリハリをつくり視認性を高めるという効果に加え、8ビット調の荒い画質で描いたような太線のピクトグラムが持つ親しみやすさも手伝い、内外ともに好感を得る結果となった。SDA最優秀賞を得るなどの具体的な評価も得た忘れがたい仕事のひとつである。

色部義昭(いろべ・よしあき)
1974年千葉県生まれ。2003年東京藝術大学大学院修士課程修了後、日本デザインセンター入社。原デザイン研究所での勤務を経て、現在VIからSPツール、パッケージデザイン、展覧会グラフィック、サイン計画など、平面から立体、空間までデザインを展開。08年SDA最優秀賞、09年JAGDA賞、JAGDA新人賞、ADC賞受賞。