'03 無印良品 アイデンティティ

トータルアイデンティティの再構築

新聞広告 2003
CL 良品計画 AD・D・C 原 研哉 D 井上 幸恵、菅 いずみ P 藤井 保 PR 森崎 展也 ロケーションコーディネート 葵プロモーション

無印良品は1980年、当時の流通業界を牽引してきた堤清二とグラフィックデザイナーの田中一光という、ふたりの思想の交感から誕生した。流通の過程で生じる無駄を省き、良い製品を安価で消費者に提供しようという堤氏の考えに、田中氏は豪華を凌駕する「簡素」の美をそこに付与することで応えた。消費が豊かさの象徴のように思われていた時代にあって「工程の点検」「素材の見直し」「包装の簡略化」によって磨かれた40品目の商品は実に大きな覚醒力を、当時の社会に示したのである。

そのアートディレクションを、原研哉が田中一光から引き継いだのは、氏が急逝される半年前の2001年の夏のことである。氏は原に向かって「無印良品は夜も眠れないほど楽しかったんだよ」と語ったという。その日、受け取った資料の中に『無印良品の本』という書籍があるが、表紙の裏には、原研哉が田中一光に送ったファクシミリの原稿が今も挟まっていて、そこには考えた末に無印良品のアドバイザリーボードとアートディレクションを引き受けることにしたこと、そしてWorld MUJIというコンセプトが浮かんできたことが記されている。

2003年以降、無印良品はその年のビジョンを新聞に発言してきた。これらの文章はそれぞれが1,600字程度あるから新聞広告としてはかなり長文であるが、多少無骨であっても時が経っても見直されるような、その時々の思考の経緯がしっかりと伝わることを優先させたいという意図で書かれている。その1年目にあたる2003年は、無印良品が誕生から20年余りを経て、今後どこに向かおうとしているのかを語った「無印良品の未来」、そして、もう一篇には田中一光に宛てたファクシミリに綴られたWorld MUJIの考え方がベースとなっている「地球規模の無印良品」が掲載された。

ビジュアルはボリビアのウユニ塩湖とモンゴル草原の地平線である。360度が平らに見える場所を地球儀の中から2か所選びロケが行われた。写真家は藤井保。写真を、B倍2連というパノラミックな大型ポスターに引き伸ばした時、そこには、シンプルな構図だが大地の象徴的なかたちがこの上なく鮮明に現れた。

ポスター 2003
CL 良品計画 AD・D・C 原 研哉 D 井上 幸恵、菅 いずみ P 藤井 保 PR 森崎 展也 ロケーションコーディネート 葵プロモーション

新聞広告 2005
CL 良品計画 AD・D・C 原 研哉 D 菅 いずみ P 上田 義彦 ロケーションコーディネート 橋本 麻里 協力 千宗屋

対照的に2005年の「茶室と無印良品」は、和室の源流といわれる慈照寺の書院「同仁斎」に、その年に発売されたばかりの無印良品の茶碗がひとつ置かれている光景を撮影した。上田義彦によって撮影された写真は、豊かな黒の濃淡を湛えたモノクロームだ。茶室の空間はしつらいや見立てによって自在にそのリアリティを変化させることができる。無印良品もまた簡素であるがゆえ、人々の解釈を柔らかく受容できる自在性を持っている。これらのポスターに文字は「無印良品」のロゴタイプしか記載されておらず、この漢字四文字はすべての人の思いを受け止める器として機能している。

制作過程で原がよく口にする言葉に「詩をころせ」というのがある。製品がすでに思想を持っているのであるから、その製品に込められた無印良品の意図のみが明解に伝わることが、納得、共感を呼ぶ近道である。従って叙情性は不要だということだ。例えばプロダクツを紹介する場合は、形状がどのような必然に基づいているのか、素材選択の理由はどのようなものか、どこに工夫のポイントがあるか、その事実を端的に伝えることに終始する。写真の中には流行や時代性に寄り添うような飾り付けはない。衣服のモデルも人物の魅力をアピールしたりはしない。コピーもまた端的に事実を述べることのみに腐心する。無印良品は、そのコミュニケーションにおいても「無印良品」でなければならない。

商品タグ 2008
CL 良品計画 AD・D 原 研哉 D 井上 幸恵、菅 いずみ、植松 晶子

2008年、無印良品は商品に付けられるタグ及びシールのデザインを改定した。

タグやシールは商品に最も近いところで、顧客とアイコンタクトをとれる大事なコミュニケーションツールである。今回の改定では商品開発の意図がより多くの人に伝わるよう、その位置を最上段に移動された。購入者がひとつひとつの商品についた「わけ」に共感して、自らの消費に納得して手に取ってほしいという無印良品の要望を受けての変更である。見かけは普通だが、7,500を超える大小さまざまな商品に破綻なく運用できるよう、綿密なデザインシステムが背景を支えている。

無印良品の表現は修飾がそぎ落とされて筋肉質である。地道にこつこつと鍛えるしかないのだが、それが簡単なようでなかなか難しい。

井上幸恵(いのうえ・ゆきえ)
1966年埼玉県生まれ。女子美術大学卒後、90年NDC入社。CIデザイン研究所を経て、92年原デザイン研究所の立ち上がりに参加。現在、同研究所副所長として、良品計画を始め業務全般を総括している。

デザインのポリローグ 日本デザインセンターの50年(誠文堂新光社)

この記事は弊社の創立50年を記念して発売された書籍「デザインのポリローグ日本デザインセンターの50年」からの再録です。

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