「RE DESIGN」という言葉の原流をつくった展覧会である。トイレットペーパーを「リデザイン」するならという問いに対して、建築家坂茂の回答は、芯を四角くすることだった。必然的に四角に巻き上がったトイレットペーパーは、丸い芯の既存品と比較すると、積み重ねた時の隙間が軽減し、運搬や保管時の省スペース化に貢献する。引き出す際に生じるカタカタカタという抵抗感は、「省資源」のメッセージでもある。その発想に触れた途端、トイレットペーパーというものが新鮮に感じられてくる。
「RE DESIGN」展は、2000年に百周年を迎えた紙商社・竹尾が主催する「TAKEO PAPER SHOW」で原研哉が企画した展覧会である。建築家、グラフィックデザイナー、プロダクトデザイナー、ファッションデザイナー、作家など32人のクリエイターに、日用品の「リデザイン」を問いとして投げかけ、回答してもらった。
「リデザイン」という切り口は、1994年の「竹尾ペーパーワールド」で企画した同名の展覧会に端を発している。それを再度取り上げたのは、21世紀を迎える時代の節目に、デザインのあり方それ自体を問い直す作業が必要であることを痛切に感じていたからである。従ってこの展覧会は、優れたデザイナーに日用品のデザイン改良をしてもらうということを意図しているのではなく、冒頭に紹介した坂茂の回答のように、なじみすぎて見えにくくなっているものの本質を、まるで初めて触れるかのように感じ直すことを目的としている。日常への覚醒が呼びおこされるのである。
トイレットペーパーやマッチといった日用品は長い歴史を経て現在のかたちに辿りつき、デザインの余地などもうないようにも思える。それでも「リデザイン」のプロセスを経て提案されたデザインには明確な違いが現れる。その差異にこそ、デザインが取り組むべき社会の価値や問題が潜んでいるのではないか……。それを掘りおこしてみることが本展の主旨であった。32人のクリエイターによってその意図は柔軟に展開され、その差違を精密に表現するために、展示作品には限りなく既存の商品に近い仕上がりを追求した。
展覧会の内容は、書籍『RE DESIGN日常の21世紀』にまとめ、会期にあわせて出版した。展覧会の制作と書籍編集を同時進行するという、原デザイン研究所のプロデュース手法の原型もここから生まれ、その後の活動へとつながっている。
「RE DESIGN」展は、日本の4都市で開催された後、グラスゴー、コペンハーゲン、香港、トロント、上海、北京そして深へと、2年間にわたる巡回展へと発展した。熱心なミュージアムが地元の小中学生に行ったワークショップでは、子ども達の直感的なデザインアプローチから学ぶべきものが見えてきたり、展覧会を通じて新たな発見もあった。グラスゴーでは来場者が2万人を超え、トロントではその評判により会期が2か月延長になるなど、予想を上回る反響に、世界共通に潜在するデザインへの期待を感じた。
「RE DESIGN」展の後、デザインが機能する場はますます広がってきた。デザインは世界をバランスさせる知恵であり、感覚の平和を探求する知性である。人々が共有できる本質的なものごとは、見慣れた日常の価値観や問題点を注意深く観察する態度から見出される。
「四角いトイレットペーパー」が提起する本質へのまなざしは、「展覧会」という生の身体を運んで感じる舞台でこそ強く理解され伝播していく。それは今日でも、じわじわと広がっているのである。
松野薫(まつの・かおる)
1974年東京生まれ。ニューヨーク州立大学バッファロー校卒後、2001年NDC入社。現在、原デザイン研究所にて、書籍やパッケージ、展覧会制作運営から海外巡回コーディネーションまでをトータルに行う他、海外のプロジェクトを担当する。





