対話 15

カタログについての対話

寺谷敬二郎 × 川俣忠久 × 三好克之

カタログの肝は、編集と1枚の絵

――NDCは、トヨタのプロモーションデザインをその始まりからやってきています。クルマは最も大きなものづくりの産業のひとつで、トヨタはその産業を世界でリードする企業ですから、生半可なデザインでサービスができる会社ではない。ですから、その会社をデザインでサポートしてきたという歴史はNDCの誇りだと思います。NDCはトヨタのプロモーションを多角的にサポートしてきましたが、ここではカタログの話をしてみたいと思います。

メディアが多様化して、コミュニケーションのかたちが激変する中で、カタログをつくるということは、そもそもどういうことなのか、実は何をつくってきたのかということを捉え直してみたいと思います。クルマが「製品」になっていくプロセスと「カタログ」ができていくプロセスとは、ほぼ同時並行して進んでいくようなところがありますが、どういった作業が行われてきたのかをまずおうかがいしたいと思います。

寺谷カタログというのはクルマに限らずいろいろな商品のカタログがあるわけですが、クルマのカタログのひとつの使命、特徴と言われるものをちょっとお話しします。

クルマというものは、商品が物理的に大きいんですよね。そして、さまざまなメカニズムと素材の集合体のような商品なのだけれども、その商品を見ることができる場所はわりと限定されています。メーカーや販売店のショールームに行かないと見られない。その上、現実に商品を展示してあるものを見に行っても、細かい機構やディテールは見た目では分からない。その商品の中にどんなメカニズムが潜んでいるかは、隠れて見えないわけです。ユーザーの人達がその部分をどうやって理解するかというと、実はカタログのような整理・編集されたものから情報を得るしかないわけです。一般の人達は難しい技術的な問題をそのまま聞いても理解しにくいので、メーカーからの情報をいかに簡潔に一般の人達に分かるように説明するか、それを明快に美しく説明しているものがクルマのカタログだと思うんです。興味のある人は、実際には買う時に現物を見に行くのも事実なんですが、見に行って、なおかつカタログで機能や性能を何度も反芻しながら商品の理解を深めていく。その結果、買おうという気になってくるんですね。

それから、クルマは限定された場所でしか見られないので、ユーザーはどうしてもカタログの紙面を通して疑似体験するわけです。こういうクルマに乗ると気持ちよく走れるんじゃないかとか、紙面の中に自分が乗っているさまを想像したりするわけですよね。

ここから本題ですが、カタログの使命と機能というのはそういう情報の伝達だけなのかというとそうではない。それも重要な要素ではあるんだけれども、それだけじゃない。NDCがトヨタ自動車のカタログを長い間やってきた役割は、気持ちよくクルマに乗れるさまを表現するとか、分かりやすい解説で商品の理解を深めるということだけではない。メーカーは当然、いろいろな情報をリサーチして開発しているので、我々のところには、今度開発したクルマはこういう人達に売りたいというオリエンテーションがあるわけです。その段階では大まかなトヨタの開発意図はあるんですが、それぞれのセクション、例えばエンジンを担当しているところには、エンジンに込めた思いがものすごくある。苦心を重ねて開発した新しい技術も入っている。もちろんメカニズムだけじゃなくて、シートとか内装にしても新しい工夫やデザインを全部盛り込んでいるわけです。要するにあらゆるセクション、あらゆる部署がそれぞれの思い入れをそのクルマに注ぎ込んでいるんですね。

その思い入れを全部かたちにしてしまうと、それこそとりとめのない商品情報になるので、カタログにするという編集作業の初期の段階で、ある程度、商品の特長や性質を絞り込んでいくんです。最終的に、トヨタ自動車が「こういう車として世の中に送り出したい」とまとまるまでの間、我々は、いろいろな意見を途中過程で聞きながら、多方面の意見を集約しながらカタログの編集案をつくってかたちにしていきます。ラフ編集の作業は1回じゃなく当然何か月もかかってやるわけですから、多くの関係者の意見が出尽くすまで我々がいろいろな角度から具体的に提案をしていくわけです。

――さまざまなセクションに対してプレゼンをしていくわけですか?

寺谷そうです。個別にやるというよりも、全体のカタログを通してそれぞれの意見を反映させる。例えばある部門では、これは世界的にも新しい機構だから大々的に扱って欲しいと言うけれど、その部分だけ突出させてチューニングすると全容が見えなくなってしまう。だからその割合はこれくらいでどうですか、とある種の按配をしながら提案をしていく。それぞれのセクションの意見を、カタログをつくる過程の中でだんだん調整をしていく。カタログというのは数十頁の中に各セクションの思いや意見を全部盛り込んでいくわけですから、トヨタの内部での意思統一の過程を我々が担っているんだという気持ちで取り組んでいます。

もちろん成果物として、その車種に関わった全ての人々が魅力を感じるカタログをつくるということは当たり前のことですが、実はその成果物ができる前の段階で、我々が情報の整理と統合の作業をやっているんですね。外部の人達の目には全く触れない作業なんですけれど、NDCが長い間トヨタ自動車のカタログ制作を担ってきたというところには、そういう統合作業に対する確かな信頼をメーカーとの間に育んでこられたということがあると思うんです。かたちにはならないんですが、そこの役割をずっと担ってきたというプライドを我々は持っているんですね。カタログ制作は実はそこが重要なんじゃないかなと僕は思います。

――本当にそうですね。車は巨大メカニズムの集積ですから、情報の化け物みたいなものだと思うんです。それを果てしなく掲載し続けると何百頁あっても足りない。それが、紙の制約があって物理的に数十頁という限定された空間の中に、情報を効率良くバランス良く詰め込んでいくことで、逆にクルマという商品が非常にクリアに見えてくる。あくまで推論ですが、おそらくはトヨタの社内でも各セクションの性能や数値的なもので新製品を把握できても、商品としてどういうふうなかたちになって定着していくかということは、カタログができて初めて見えてくるのではないでしょうか。そういう意味では、カタログができてくることによって、マーケティング上での車の位置づけが、はっきりしてくるでしょう。

寺谷今、「商品」とおっしゃいましたが、開発段階では、商品になる前なんですね。商品となるには、トヨタ全体がひとつのその商品に対する意思一致をしていなければならないんです。それはトヨタのメーカー側だけじゃなく、販売店も同じ意識を持って、「こういうクルマです」とユーザーに接していかなくてはならない。なので、商品としてまとめるというのはやっぱり大切なことなんだなと思います。

――単純に考えると、カタログというのは、写真を撮ってレイアウトして、ほどよくきれいに見せているような作業に見えるけれども実は全然そうではなくて、情報の整理整頓、高度な編集作業というのがデザインですから、むしろそこが最も集約されてシンボリックに表れてくるのがカタログなんだろうと思います。

川俣普通、セールスプロモーションなりマスコミュニケーションと言われていたものは、必ずマーケティング・リサーチがあって、ターゲットを絞って、そこに向けてどういう発信をしていくか、どういう感動を与えるか、そして最終的にものを買ってくれれば成功なわけですが、購入されなくても少なくとも振り向いてくれるということが大事だったと思うんです。でもトヨタの場合は、内部に対しても外部に対しても、商品のしっかりした説明をして、理解してもらうところにプロモーションの核があるんですね。

トヨタの数多い商品群の中から選ぶ場合、普通、人はコストの問題や車庫のスペース、どういう使い方をするかということで選択するわけですから、カタログの構成やコピーライティングは、本来であれば車種によって変わってくるはずなんです。でも、トヨタのカタログは、クラウンからヴィッツまであまり変わらない。スタイリングの写真があって、内装があって、メカニズムがあって、小物があってスペックになるという構成です。なぜかというと、どんなクルマでも基本は、その情報を分かりやすく説明することが求められているからです。

トヨタにはしっかりした目標のターゲットがありますが、コアに絞った表現をすればもっと狙い目が鮮明になるはずのところを、全ての人(10割)を目指すというのがトヨタなんです。10割の人を対象にするので、このクルマがどういうクルマかということをしっかり分からせるためのものづくりを写真でも見せなければならない。例えば、見映えだけで言うともう少し左側のほうがいいのに、クルマのコンセプトを伝えるにはこのアングルがベストだとか、背景も、この車を理解するためには都会の街角が一番似合います、という分かりやすい範囲でつくっている。景色やライティングの美しさの前に、やはり10割の人に分かってもらうクルマを提供しなくてはいけない。そういうことをずっと追い続けてきた。それがNDCの仕事のベースにはあると思います。

――それは奇を衒わないということですか。

川俣オーソドックスになる可能性もあるのですけど、ただ商品を分からせるために、ベストアングルだけを追い続けて、他は隠して見せないカタログをつくるのではなくて、例えば、後ろからのアングルに自信があるかどうかは別として、カタログの中でちゃんとバックアングルを説明する。色も全部見せる。ライティングも暗めに落として、雰囲気づくりを優先するよりも、細部がよく見えるように少し明るくする。こうしたことを全体に行って、お客様に応えていくというような画像づくりです。

ただこれからものが売れなくなってくる時代ですから、もっと心を動かさないといけないので、ターゲットを絞って表現していくほうに動き出しています。クリエイティブとしては少し尖ったものをトライできるような感じがします。

――大体シャープなものとか狙いをすませて放ったものは、知恵を使って賢く見えるけれど、対象物への刺さり方が軽くて浅い。オーソドックスな鈍みとでも言うか、あるターゲットにより深く刺さっていくのは、シャープな先端を持ったモリじゃなくて、鈍さを持ったものです。強烈なエネルギーで方向を過たず打ち込むと、鈍いもののほうが間違いなく深く刺さる。オーソドックスなものが持っている力はそういうものかと思いますね。

川俣そうですね、オーソドックスという言葉で言うと、何もデザインしないというふうに見られるけれど、オーソドックスなところで切れのある表現をするというトライアルがずっと続いてきたのではないかなと。

――歴代のトヨタ自動車のカタログを見ると、クルマの写真のクオリティが非常に高いんです。それは芸術性というより、クルマをけれん味なく捉えていく正面突破の品質とでも言うのでしょうか。あの写真は、どういう意図でつくってこられたんでしょうか。

寺谷僕は、NDCに入ってからずっとトヨタの仕事をやってきました。初期の頃のカタログの写真は、ワイドっぽいレンズで誇張して撮ったものが多かったのです。スタイリングも少し誇張気味に。室内インパネも車の制約があるから広角でないといろいろなものが邪魔して撮れないわけです。でも、それだとどうしても見た目と違うわけですよ。人間の目は広角じゃなくて標準に近いから。だけどカタログではものすごく誇張されている。このままではユーザーに戸惑いが出てしまうのではないかということと、過剰な演出になってしまうということに、トヨタも気がついたけれど、NDCがむしろ最初に気づいたんですね。やっぱり見た目に近い表現が一番素直なのではないか。クリエイトするということは、決して誇張することではないわけです。ユーザーに分かりやすいのは、ドライバーの目の位置から見るインパネが一番正常なんです。インパネは誇張しても駄目なわけですよね。

クルマ自体、運転者の目から見て設計されているのだから、そこの位置までどうしてもカメラを持っていきたい。ただ、昔のクルマはルーフが邪魔してカメラが入らない。4×5のカメラは大きいですからね。8×10を構えていたらルーフが邪魔をする。それで撮影時にリヤウインドウをはずして、ドライバーの延長上にカメラを据えて撮影した。それでもドライバーの目線と狂うわけです。試行錯誤しているうちに、ルーフを切らないと駄目だということでルーフも切った。

さらにドアの真ん中にピラーがありますよね。最初は合成で消す作業をするために、大変な枚数を撮って、合成で真ん中のセンターピラーを消したんです。毎回その写真自体は評判が良かったけれども、毎回やるのは大変なので、ボディをカットしたらいいんじゃないかっていう発想になった。こうして「カットボディ」というものが生まれた。

デザイナーの欲求にカメラマンがなんとか応えようと努力をする。これはNDCの社員全員で一緒に仕事をすることの良さだと思うんです。クルマのボディを切ったことによってアングルは自由になる。広角レンズを多用しなくても済むことになって、限りなく人間の目線に近い表現ができるようになりました。このことは、NDCの写真・画像に対するクリエイティブが従来の類型を破った一例です。一般ユーザーは気づいていないんですけれど。

――背景とボディの合成も、基本的なノウハウで別々に撮ったものを合成する技術から生まれてきていると思います。デジタル時代になって比較的スムーズにいくようにはなりましたが、それまで長い試行錯誤があったのではないですか。

寺谷ボディが止まっているのにタイヤが回っていて、背景が流れている写真を撮影して欲しい、というデザイナーの要望を、カメラマンがなんとか応えようとする。まずクルマを止めて撮って、背景を流して、ぶらして撮って、タイヤに黒い丈夫な糸を巻いて動かして、動いている状態で撮って、それを合成する。非常に図式的な発想なんですが、それをいかに自然にできるかということで、ぶらし方やタイヤの回し方のスピードを、マッチングするまで延々とやる。初歩的な技術の開発に関して、NDCの写真グループの工夫は大きいですね。

ボディも背景によって映り込みで変わるので似たような背景の拡大プリントした画像を後ろに掲げてルーフやボンネットに映り込ませて撮ったり、木を手前に持ってきて、ガラスに映り込ませて撮って背景となじませたり、写真合成の工夫は非常に多様にありますよね。

――今はCGの時代ですが、CGによって設計図面からクルマの画像が生成できるようになってきた。もちろんボタンを押せばすぐ画像が出てくるわけではなく、クルマのCADデータを、コンピュータの中の架空の写真スタジオのような空間に設定して、光の角度や反射率などのいろいろなパラメータを設定すると、画像になって出てくる。NDCが非常に苦労してノウハウ化してきた写真撮影の技術が、CG制作の中でもう1回再現されているんですね。

寺谷CG化の考え方は、現物の試作車両をたくさんつくると、それなりにコストもかかることだし負担だなというところから来ています。設計段階のCADデータから画像ができれば、ある意味での効率化を図れる。だがそれに画像の表現技術がついて来られるかどうか。しかし、そういうニーズがあるからには、それに挑戦しなければならないですよね。CGはオペレーターだけでつくると立体にはなるけど写真のようにならない。ライティングのノウハウとか、表現のスキルがないと絵づくりが全くできないんです。CG画像のテストをやった時、クリエイターのスキルが必要だということで我々が協力を呼びかけられ、それから始まったのがCG制作なんです。NDCではカメラマンがCGを手がけているので、こういう光を表現したい、こういうことを表現したいというのを、どんどん画像の中に取り込んでいきまして、今は相当レベルが高いですね。

――クルマの写真は商品写真の中でも最も高度なものですから、とても難しいと思います。8×10や4×5の大型カメラを使ってきたクオリティでCG化していくという技術というのは並外れて高いのではないでしょうか。

寺谷一般ユーザーの人達は、見ているカタログがCGでできているということには気がつかないですよね。むしろ写真だと思われていることが、制作しているスタッフには誇りかもしれないですね。

変わるカタログの役割

――カタログの役割は変わってきているかもしれませんが、トヨタの車の商品情報をお客さんに渡していく方法として、どんなものが主流になっていく可能性があると思いますか。

三好今は紙だけでなく、さまざまなメディアが生まれてきていますが、最近の調査によると、こんなにインターネットが普及しているのにいまだにクルマを買う時に紙のカタログを入手する人がほとんどなんです。インターネットでユーザーの評価を参考にしたり、おおまかに車種を絞り込んだりした後、ディーラーへ行って実車を見て、たいていの人がカタログをもらって帰るんです。これは推測ですけれど、パソコンはパソコンに人が向かわなければ見られませんが、紙のカタログはいつでもどこでも人が手に取ってじっくり見ることができるから、というのもその理由のひとつかもしれません。家族と一緒にリビングで見るのもパソコンだと不自由ですよね。そういう意味で言うとiPadなどの新しいデバイスは、紙の良さとパソコンの良さをある程度兼ね備えていると思いますので、注目しています。

しかしどんな媒体であろうが、1台のクルマを紹介する時の情報を最初に整理するという基本的な仕事自体は変わらないと思います。先ほど話があった写真についても、8×10で撮ろうが、デジカメで撮ろうが、CGでつくろうが、そこに込めなければならない基本的な情報は変わりません。商品の色やかたち、質感、そしてその商品ならではの魅力などを、1枚の写真の中にしっかりと込められる作業をこれからも行うと思います。

実際のカタログ制作は、まずトヨタから多くて1,000頁を超える専門的な技術情報の資料をいただいて、それを読み解くことから始まります。技術の方たちは素晴らしいことを考えながらクルマをつくられているのですが、そのまま単純に表現しても、ただの技術解説書になってしまい、ほとんどのお客さんにはさっぱり分からない。ですからお客さんの立場に立ってそれらを1回全部「翻訳」するんですね。例えばお客さんの暮らしの中にそのクルマが入っていくことで、ひとつひとつの技術がどういった喜びを得られるものなのかということを考えます。そしてそういうものの集合体がこのクルマなんですよというようなところまで消化してから伝えようとしています。まるでクルマをもう一度、そこに分かりやすく魅力的に再現しようとしているような気がします。

ちなみに現状ではカタログ以外のSPツールをつくる時、カタログで整理された商品情報をもとに展開されることが多いんです。今後媒体のかたちが変わったとしても、お客さん向けの商品情報のリソースをつくるという仕事自体は変わらないと思いますね。

――ユーザーが何を欲しているかということを第一に考え、一番やりやすい「情報のかたち」を探していくと、紙という限定されているものが意外に最も良いというところもあるのかもしれません。オールドメディアとしてではなく、咀嚼された後にもう1回選択されたものとして紙のカタログは見直されることはあるかもしれないですね。

三好電子メディアに移行していくことは、さほど難しいことではないと思うんです。商品情報をふさわしいメディアに合うように編集していくだけの話なので。難しいのはやはり一番最初の商品情報のリソースをつくることだと思います。メディアの端末だけを扱う人達が、あっさりとカタログじゃない方法を考えついたとしても、そもそもの膨大な情報をきっちりと咀嚼してできた情報で構築されていないとだめだと思うんです。

――電子メディアになると、簡単に車がさまざまなアングルから見られたり、ムービーに置き換えられたりするメリットがありますが、一方で静止画は、動く現実を止めてみせる凝縮力があります。人間は時間の限定を持った生物です。寿命は、70~80年しかない。時間こそまさに「金」なのです。あるひとつの情報を得るのに3分間もムービーを見る時間を費やせない。できれば3秒くらいで終わらせたい。ごく短い時間に多くの情報を得られるのに、ムービーに何分も付き合わされるのは非常に無駄です。そこにまだ気がついてなくて、ムービーが珍しいという状況なんですが、そのへんは淘汰されていくような気がしますね。

川俣今、三好さんが話したように、コピー、写真、イラストのパーツが制作の原点です。クルマの全体像をいち早くつかみ理解し、このパーツをしっかり制作すること。カタログの頁数が1、2頁ほどになったとしても、この限られたスペースで何を伝え理解させるかです。今後どんどん出てくる新媒体になっても同じで、そのスペースでクルマをしっかり理解してもらえる情報をお客様に届けるためには、どういうコミュニケーションが良いのかを常に提案し続けることではないかと僕は思います。

――かたちはどう変わっても、トヨタ自動車に対して、デザインでサービスをしていくという本質は変わらないということですね。カタログというと販売促進のためのツールと思われがちですし、新メディアに取って代わられるものと思われがちだけれども、物質として手渡せる情報は強い。愛された小説というのは、最後に電子メディアの中にあるだけじゃなく、書籍として持っていたいし、いい映画を観たら、パンフレットを持っていたい。本やカタログは祝福されたデータのかたちです。カタログも、そう考えるといろいろな可能性がありますね。

川俣動画と一体化できないかという思いは漠然とあります。しかし、360度見られるようなものが本当に必要だろうかということを考えることがこれからの課題です。トヨタ自動車も他のクルマのメーカーもカタログだけでは商売できないというのがどこかにあるんですよね。昔はクルマも家電製品もカタログを見て選んでいましたが、今は口コミやウェブなどで情報を得ているから、家電のカタログはほとんどスペックだけです。クルマは家の次に高価な買い物なので、ディーラーの人に話をうかがうと、特に若い人は当然調べてくるそうですね。カタログを見たり、ネットで検索して、他社と比較しながらコストやメリットを十分調べて来て、最後は乗ってみて決める。肉眼で、自分の背の高さの目線から見たクルマの印象、座った感じ、エンジンをかけた時の音などを大切にしてそこで購入が生まれる。例えばイギリスのマン島を走るシーンを動画で見せたら車のイメージが上がるとは思うけれども、トヨタのカタログは、クルマの情報を写真やコピーで、実物を体験したお客様にも再度分かりやすく、短時間に再確認してもらうものでもあるのです。

1枚の写真の強さも必ずあります。おじいちゃん、おばあちゃんが亡くなると、家に写真を飾りますよね。若い時のものでも亡くなる前のものでもなくて、その人の人生を最も象徴するような10年くらい前ので、ちょっと笑っている感じの写真。今だったらムービーをエンドレスで流すこともあるのかもしれないけど、1枚の写真の強さが、記憶を蘇らせる。カタログも1枚の写真の強さが見る人自身で世界観を広げてくれる。逆にリアルな動きを見せてしまうと色褪せて、かえって狭まってしまうこともあるんです。

ムービーカメラで1コマの画像をある大きさまでなら印刷もできるようになってきていますから、グラフィックでも使えるような進化がこれからますます起こると思います。しかし、道具に振り回されるのではなく、これは紙、これは電子書籍、モバイルでというふうにメディアを選択しながら効果的に提案していくのが我々の仕事です。そのためには、NDCは創立から50年間培ってきたように、モノの本質を捉えて制作することで、アウトプットがどのようなかたちでも、お客様の欲求に応えるために最適な情報を伝えていく。どういう写真や動画を使うか、さらに新しい手法や手段は前向きに挑戦して、クライアントに対して最高のナビゲーションをしていけるような会社になっていきたいと思います。

――おじいちゃんの写真1枚に人生が込められている。それが30分のムービーになると見られないということを分かっている人が整理した1枚の画像には力があります。テクノロジーは1年で廃れるし、アプリケーションは3年で古くなります。ここから先、めまぐるしくいろいろなことが生まれては消えていくと思いますが、NDCがトヨタに対して提案することは、小手先の技術に振り回されず、クルマを表現するビジョンとしてぶれないこと。50年、100年と残っていくのはビジョンだけですから。かっこよさだけに特化して、商品を見せるのではなく、悪いこともいいことも含めて、全てをちゃんと見せながらそこに自信を持っていくというクルマの捉え方ですよね。

寺谷静止画像を動かしてみたというだけでは希薄なんです。気持ちのよい景色の中をクルマが走るというのは、ある種BGMのようなもので、一瞬残るけれど、その画像がなくなった後は残るものではない。メディアの後追いをするのではなく、新しいメディアで従来のグラフィックの世界をブレイクスルーする方法を考えなくてはならない。本当のクルマを見ずに紙面でしか見ない人もいるわけです。静止画のカタログの紙面では、もうちょっと覗いてみたいという気持ちも起こる。静止画だとその部分をアップにしたものをどこかに載せないと見られないわけで、それ以上、見られないというところも多々ある。新しいメディアの機能がそういうところのブレイクスルーとなれば良いと思います。ベースのコンテンツに対してNDCはきちんとした対応をしているので、より機能的なメディアにも当然ですが対応できると思います。

三好例えば、漫画は1話読むのにそれほど時間がかからない。それを動画にすると、その時間よりは長くなるものが多いと思うんです。動画は、ある程度見ないと面白いかどうか分からないし、見た後にはずれだったと思う残念さがありますよね。カタログで表現する時に、動画のほうがいい時もありますが、わざわざ動画にしなくても2コマでシンプルに落ちてくるような情報の処理の仕方もありますから、メディアと表現を考える時、僕は今後もそういうことを意識して選んでいきたいなと思っています。

――そういう意味ではおもしろい時代になってきたと思いますね。しばらくテレビというマスメディアでのキャンペーンを主力としたプロモーションが続いているけれども、インターネットも含めてソーシャルメディアが多様化しているわけですから、お客さんにどのようなメディアでどんな交流や接点を持つか、多岐にわたる方法で、より本質的なところを伝える必要がありますね。ここまでは情報を出すけれど、お客さんのほうでイメージを膨らませられるほうがいいかもしれないし、よりよい充実したコミュニケーションの時間が持てたというコンタクトポイントがつくれると、たぶんそこが評価されていくんだなと思います。それがまさに情報のデザインですし、その中枢をつくれるのがNDCの役割です。

NDCは長いこと社会の中の一流の企業と付き合ってきました。強い企業の良質な経営資源をしっかりつくり込んできたという経緯があるので、そこはぶれないで今後も付き合っていけるとすごくいいと思います。トヨタの仕事は生半可なものではない。強烈な意志を持った企業というものが社会にはあって、その企業についていくことは大変なことで、そこで蓄積されてきたコミュニケーションのノウハウは半端じゃない。NDCは50年の歴史の中でずっとトヨタ自動車の仕事をやってきているわけですから、そういった資産をさらに濾過して純度を上げて新しい状況に対応していけたらいいんだろうなと思います。

寺谷トヨタ自動車の商品情報をきちんと整理してユーザーに届ける使命は今後も変わらないと思うんです。コンテンツをきちんと整理する能力はあるけれど、伝える手法が変わってきているんです。新しいものがいいとは単純には言えませんけれど、新しいメディアにどうやって対応していくか、情報の伝え方として今までできなかったことをどうブレイクスルーしてくれるかを注意深く見ながらやっていくことがすごく重要ではないかと思います。

川俣トヨタに限らず、多くの仕事がNDCにと指名されて取り組むわけですから、商品の本質を分かりやすく、どれだけ表現できたかということが評価されるわけです。90点いったら合格だった時代から、もっと99.9999……と限りなく100点に近づくよう追求していかなければならないですね。

三好トヨタの車をデザインした方や設計した方に直接、話をうかがいながらつくっていくこともあるんですが、そういう人達の熱い思いを直接聞けるかどうかは、カタログをつくっていく上でひとつのエネルギーになると思います。ただ単に性能を聞いてきれいに並べるというより、気持ちの部分、こういう思いで車をつくってきた、走らせたい、そういう思いを直接うかがうことで、初めてあるレベルに到達できるカタログがつくれるという気がしています。

もうひとつ、そういう方のおひとりに、「カタログを手に持って見ている時に、見ている人の胸のあたりの空間、その空間に何かわくわくする感覚が生まれるようなカタログをつくってください」と言われました。これはカタログの重要な役割のひとつで、例えば明日の自分の生活が、そのクルマによってどう豊かに変わっていくのかを楽しく想像させることだと思います。今後カタログのかたちが変わっても、そういう素敵なものをつくっていきたいなと思います。

寺谷それはおもしろいよね。

川俣単に写真撮って、コピー書いて、整理するだけではなくて、最初の熱い思いを最初から共有できたら、出てくる表現も絶対違いますよ。

――それはとても大事なことですね。やっていることの基本は同じですが、ひたすらそこを目指して繰り返し提案していくということなんでしょうね。

寺谷もうひとつ、カタログの制作の過程の中で、最初から最後まで関わる重要な役割を果たしているのが、実はコピーライターなんです。コピーライターがNDCのカタログ制作の過程で担っている役割には相当重いものがあって、NDCはコピーライターで優秀なスタッフが育っているのが、今までずっとトヨタからの信頼を受けてきている大きな要素だと思います。

NDCの場合は、トヨタの仕事を担当するのが、単なる配属ではなく、ある種専任仕事みたいなところがあるんです。苦しくてもトレーニングしないとなかなかできないところもあるんですが、そういう集団がいるというのは強いですよ。

――NDCが設立されて50年経つわけですけど、歴史の上にあぐらをかいてはいけない。我々は50年経って、もう一度再スタートを切る上で、どのように次の50年を見据えるか。そして100年間トヨタの仕事をやりつくす、というビジョンをいかに持てるかということを考え直してみたいですね。ありがとうございました。

2010年3月2日

川俣忠久(かわまた・ただひさ)
1955年生まれ。79年桑沢デザイン研究所グラフィックデザイン研究科卒業。同年日本デザインセンター入社。現在、専務取締役。入社時からトヨタ「安全キャンペーン」や企業広告に携わる。その後GE、伊勢丹、雪印など担当後、トヨタ自動車のセールスプロモーションのカタログなど多数制作。現在は企業広告「かけがえのない一台シリーズ」を継続中。日本放送協会では70年ぶりに協会の方向性を見直すネクスト10プロジェクトに参加してCI・VIやさまざまなNHKの番組関係のグラフィック部門を多数制作。
寺谷敬二郎(てらたに・けいじろう)
1948年鳥取県生まれ。73年武蔵野美術大学造形学部卒業。同年日本デザインセンター入社。現在、代表取締役。過去の主なクライアントにトヨタ自動車、アサヒビール、伊勢丹、東急ハンズ、宝酒造、ニコンなど。これまでに手がけた主な作品は、トヨタ「安全キャンペーンシリーズ」、「移動空間のクオリティキャンペーンシリーズ」、カタログ各車種、東急ハンズ池袋店オープニングキャンペーン、宝酒造「日本の松を守ろう」キャンペーンシリーズ他。主な受賞は朝日広告賞、毎日広告賞、サンケイデザイン広告賞、産業広告賞、日本雑誌広告賞他。
三好克之(みよし・かつゆき)
1964年生まれ。88年京都精華大学美術学部デザイン科卒業。同年日本デザインセンター入社。現在、三好制作室室長、制作副本部長。主な仕事に初代プリウスを始めトヨタ自動車のカタログ多数。「トヨタ自動車ショールーム」コミュニケーションデザインで第41回SDA最優秀賞受賞など。
NDC写真部とトヨタ海外宣伝企業広告グループ
  1970年頃 トヨタ外山スタジオにて
  写真提供 小栗美子
CELICA SUPRA 本カタログ スペイン語版
CELICA SUPRA
本カタログ(スペイン語版)
1983
CD 田村功
AD・D 山本洋司
テクニカルイラストレーション 猪本義弘
クラウン ロイヤル・パフォーマンス カタログ
クラウン ロイヤル・パフォーマンス カタログ
クラウン ロイヤル・パフォーマンス
カタログ 1985
レクサス GS430/GS300 カタログ
レクサス GS430/GS300 カタログ
2005
CD 田村高章 AD・D 荒井康豪
P 松田成二、田中亮、田邊亞夫
C Dion Lenting
コピーコーディネーター 田村勉、関戸美保
I 中島秀一 PR 船橋洋一
80〜90年代にかけてのクラウンのカタログの数々
ビスタ店「プロナード」のカットボディ。内装(メインシート)の撮影風景
2002
マークX
マークX 2009
ホイールのみ現物を撮影。その他の部分はCG
CG 長島CGI制作室
ネッツ店のための統一フォーマット
ネッツ店のための統一フォーマット
2004
CD・AD 三好克之
  D 河村達徳、神尾亮一、加藤賢一
C 山添浩太郎、上野晃、池端宏介
PR 大山秀雄、武政誠
トヨタ自動車ショールームでの展示デザイン
2007
CD 三好克之
  AD・D 河村達徳、神尾亮一、藤原奈緒、三好克之、平間幸子、笠井則幸
  C 上野晃、澤井恵一、山添浩太郎
PR 牛丸奈美
AG 電通
カローラ ルミオン カタログ
カローラ ルミオン カタログ
カローラ ルミオン カタログ
カローラ ルミオン カタログ
2007
AD 谷田部聡 C 内藤充江
  P 羽深俊幸 PR 井上英樹
iQ 本カタログ
iQ 本カタログ 2008
CD・AD 河村達徳
D 河村達徳、藤原奈緒
C 澤井恵一 P 遠藤匡、羽深俊幸
  PR 大山秀雄
レクサス IS300 カタログ
レクサス IS300 カタログ
2005
CD 田村高章 AD・D 荒井康豪
P 松本枝、大野敏郎
  C Dion Lenting
コピーコーディネーター 田村勉、関戸美保
I 中島秀一 PR 船橋洋一
ヴィッツ 特別仕様車 F カタログ
ヴィッツ 特別仕様車 F
“Chambre à Paris collection”
カタログ 2009
AD・D 藤原奈緒 C 上野晃
  P 羽深俊幸、助友恭之
  I 山本祐布子 PR 大山秀雄
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デザインのポリローグ 日本デザインセンターの50年(誠文堂新光社)

この記事は弊社の創立50年を記念して発売された書籍「デザインのポリローグ日本デザインセンターの50年」からの再録です。

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