NDC LUNCH
MEETING

山本 晃士 ロバート
石川 将也 ユーフラテス

Event Date : 2014.07.11

山本 晃士 ロバート 石川 将也 ユーフラテス

先進のテクノロジーや独自の発想で、デザインの可能性を広げる人たちがいます。
さまざまな領域を横断し、これからのデザインをともに考える対話の場「NDC LUNCH MEETING」。
今回は、独創的な作品を作り続けるクリエイティブグループ、ユーフラテスから、
山本晃士ロバートさんと石川将也さんのお二人をお迎えしました。

考え方をもとにして作る―― 山本
考え方をもとにして作る
―― 山本

山本

ユーフラテスが何かものを作るときには、「考え方をもとにして作る」ということをひとつの軸にしています。たとえば、幼児教育番組「ピタゴラスイッチ」の中に「新しい生物」というコーナーがあります。何の変哲もない消しゴムが、「ケシゴムザウルス」という生物となって動いたり、消しゴムを食べたりするコーナーです。消しゴムザウルス以外にも、ふせんが動き回る「フセンヌス」といった生物がいるのですが、どれも、身近なものに生物らしさを見いだす「見立て」の考え方が基盤にあります。

石川

ピタゴラスイッチには他にも「ピクシレーション」という考え方、要するに「人を使ったコマ撮り」ですが、これを基盤にした「こんなことできません」というコーナーもあります。単にコマ撮りのおもしろい映像を見せるのではなく、「写真を撮りますパシャ」というセリフを通して、作り方まで含めてピクシレーションの考え方を教えるコーナーです。

山本

ピタゴラスイッチの例が続きましたが、Eテレ2355で不定期に放送している「ballet rotoscope」という映像にも、「ロトスコープ」と「計算幾何学」という考え方が基盤にあります。

菅原NDC

考え方をもとにして表現を作る。これは非常に興味深いのですが、ロトスコープなど、 考え方自体はどういう経緯で生まれてくるのでしょうか。

新しい考え方を見つけるのが、いちばん難しい―― 山本
新しい考え方を見つけるのが、
いちばん難しい
―― 山本

石川

もともと僕たちは慶応義塾大学の佐藤雅彦研究室の出身なんですが、コンピュータや計算幾何学が佐藤研の大きなテーマとしてあったんですね。そこでの研究がベースとなって、今の考え方につながっていると思います。

山本

適切な考え方があれば表現は生まれる、とユーフラテスのメンバーは考えていますが、新しい考え方を見つけるのがいちばん難しいんですよね。

考え方を育てることをテーマにした教育番組「ピタゴラスイッチ」

「ピタゴラスイッチ」よりピタゴラ装置

山本 晃士 ロバート
Kohji Robert Yamamoto

アートディレクター。1979年生まれ。慶応義塾大学佐藤雅彦研究室を経て、2005年よりユーフラテス所属。主なテレビの仕事に、NHK Eテレ「ピタゴラスイッチ」、「Eテレ0655」、「Eテレ2355」、「考えるカラス〜科学の考え方〜」など。他に、映像作品「ballet rotoscope」、DVD-Book『日常にひそむ数理曲線』(小学館)、独立行政法人 物質・材料研究機構(NIMS)との共同制作映像「未来の科学者たちへ」シリーズ、写真家ホンマタカシの写真集『NEW WAVES』の装丁デザインなど、ユーフラテスの一員として幅広い領域での作品制作に携わっている。

石川

いきなり新しい考え方を見つけるのは大変なので、メンバー各々が研究テーマを持って活動しています。例えばアニメーターのうえ田みおは「大工の数学」というテーマを立て、昔から大工の人たちが実際に使っていた、木材などの材料を測定したり加工するときに使う数学的な工夫を調査しています。自分が興味を持っていたり、表現の芽になりうると考えたものをテーマにするわけです。「研究テーマ」として設定し、様々な資料にあたって数多くの事例を収集することで、その中から共通する要素を抽出するなど、知見を深めることができます。そしてリサーチしたことを他メンバーの前で発表して、さらにその知見をもとに具体的な表現化を試みるのです。

山本

また、何かいきなり映像を作ってみて、「これはきっと、こういう理由でおもしろいんだ」と、 理由を言語化していくことで考え方を導いていくこともあります。おもしろさをうまく言語化できたものを、表現につながりそうな「鉱脈」と呼んでいるんですけれども。研究を通じて、新しい考え方や鉱脈を見つけていきたいですね。

研究が基盤にあるからこそ生まれてくる映像があるのでは―― 石川
研究が基盤にあるからこそ
生まれてくる映像があるのでは
―― 石川

山本

考え方をもとにして作るということにも関連しますが、ユーフラテスの活動の基盤には研究があります。以前、「理科実験の会」という研究会を行っていました。中学・高校の理科の教科書に載っている実験を、実際に再現してみる会です。知識として知っている実験でも、その場で見ると迫力があっておもしろいんですね。
ただ、それを映像にした途端、現場で体験したおもしろさが感じられなくなってしまって。ひょっとすると、実験が日常生活と地続きの場所で行われていないとおもしろさを実感しにくいのかもしれないと思いました。
そんな経験を踏まえ、「2355」では「夜ふかしワークショップ」というコーナーを制作しました。爆笑問題のお二人(太田さん・田中さん)に出ていただいたんですけれども、太田さんが天の声として進行役を務め、田中さんが視聴者の代行という役まわりになっています。

石川

田中さんが視聴者の代わりに登場することで、テレビの中と外を地続きなものとして感じられるようにするための構造です。たとえばこの「夜ふかしワークショップ」のように、研究が基盤にあるからこそ生まれてくる映像があるのではないかと考えています。

朝6:55から放送される「Eテレ0655」

夜23:55から放送される「Eテレ2355」

石川 将也
Ishikawa Masaya

TOPICS研究員。グラフィックデザイナー。ユーフラテス所属。1980年生まれ。慶応義塾大学佐藤雅彦研究室を経て、2006年より現職。代表作に書籍『差分』(佐藤雅彦・菅俊一との共著、美術出版社)、大日本印刷『イデアの工場』や「Eテレ2355」内『factory of dream』を始めとする「工場を捨象したアニメーション」などがある。佐藤雅彦+齋藤達也「指を置く 展」(ギンザ・グラフィック・ギャラリー)アートディレクション、独立行政法人 物質・材料研究機構(NIMS)との共同制作映像「未来の科学者たちへ」シリーズやNHK Eテレ「ピタゴラスイッチ」の「ねじねじの歌」、「Eテレ2355」「Eテレ0655」の「放物線のうた」を始め、ユーフラテスの一員として幅広い領域での作品制作に携わっている。

まず考えるのは、「音をどうするか」ということ―― 山本
まず考えるのは、
「音をどうするか」ということ
―― 山本

大黒NDC

どの映像作品も、音やナレーションが特徴的だと感じました。

山本

佐藤(雅彦)が昔から言っていることなのですが、音というのは、ある長さの時間をコントロールするものなんですよね。おもしろくなりそうな鉱脈があったときに、まず僕たちが考えるのは「音をどうするか」ということです。たとえば「こんなことできません」のコーナーでは、「できませんできません人間にはこんなことできません」というナレーションが決まったとき、「これでテレビに流せる」と思いました。音が決まりさえすれば、映像は作りやすくなるようなところがあります。

タイトルについて意識していることはありますか―― 原(麻)NDC
タイトルについて
意識していることはありますか
―― 原(麻)NDC

原(麻)NDC

「0655」や「2355」など、独特なタイトルに興味があります。タイトルや言葉に対して意識していることなど、何かありますか。

石川

「0655」「2355」のタイトルは佐藤雅彦によるものです。佐藤はネーミングのための方法論(ルール)をいくつも生み出しているのですが、この場合は「セルフトーキング」というルールが用いられています。「自分で自分のことを言っている」という構造はおもしろい、ということから見出されたネーミングルールです。自明なことや、自分自身のことを言っていたりすると、タイトル自体がコミュニケーションになるんですよね。タイトルを聞いて映像を見て、タイトルに戻って腑に落ちる。そこでひとつやり取り、コミュニケーションが生まれています。

山本

さらに言うと、人の口の端に上るようなタイトルにすることも意識しています。「今日0655見た?」というように。

鍋田NDC

朝の6時55分から始まる「0655」は、たしかに自明というか、番組自体について述べたタイトルですよね。また、口の端に上りやすいと会話になりやすく、そこでもコミュニケーションが生まれそうです。

ユーフラテスの仕事の流れが気になります―― 深津 貴之
ユーフラテスの
仕事の流れが気になります
―― 深津 貴之

深津

ユーフラテスの組織のあり方というか、仕事の流れが気になります。研究と創作、クライアントワークとプライベートワークなど、境界線なく取り組んでいるように見えるのですが。

石川

僕らはテレビ番組を3つ担当していまして。その番組の中に登場するコンテンツの開発を日々行っています。また、「2355」「0655」は、その番組の構成、編集作業なども行っています。

深津

その仕事とは別に、研究の時間などがあるといった感じでしょうか。

石川

そうですね。たとえば月に1回のペースで研究会を設けて、そこで発表したりしています。

山本

毎日のスキマ時間に個人で研究して、研究会でシェアした後、日々の仕事に戻っていくという流れです。だいたいそういったペースで、仕事や研究をしていますね。

トーンはアイデアの質に影響を及ぼす―― 原
トーンは
アイデアの質に影響を及ぼす
―― 原

山本

ここまで、「考え方をもとにして作る」ですとか、「研究が基盤にある」ということをお話ししてきたわけですが、実はそれぞれ理由があるんですね。
考え方のほうについては、「強固な考え方をもとにすると、個人が持つ文脈によらない表現になる」という思いがあります。関連するかもしれませんが、研究をベースに表現することについては、「世の中の文脈から離れた探求」を基盤にした表現には強さがある、と感じていまして。
また、表現を出口となるメディアにあわせて定着させることも意識しています。たくさんの方に見ていただきたいテレビと、スタイリッシュに見せたい場合の映像とでは、トーンを変えたりすることもあります。

トーンというものは意外と重要で、アイデアの質にまで影響を及ぼす気がしています。ユーフラテスの作品には、どれも独特なトーンがあるように感じていまして。一見、佐藤雅彦さんのトーンを共有されている印象を受けるんですが、実はそのトーンは佐藤さんだけで出来たものではなく、佐藤研究室に山本さんや石川さんといった別の才能が訪れたからこそ、生まれてきたトーンなのでしょうね。

石川

僕たちは作るものによってトーンを変えているつもりなのですが、視聴者の方には「これはあの人たちの新作だ」と分かってしまうらしく(笑)。ただ、それは貴重なことだと思いますし、大切にしていきたいところですね。

ユーフラテス EUPHRATES ltd.
さまざまな研究を基盤として活動するクリエイティブグループ。2005年、慶応義塾大学佐藤雅彦研究室の卒業生を母体として結成。研究活動から生まれる表現にこそ根源的なおもしろさがあるという考えのもと、映像、アニメーション、書籍、展示、テレビ番組、外部企業との共同研究などを通して、新しい表現の開発やメディアデザインに取り組んでいる。2014年、独立行政法人 物質・材料研究機構(NIMS)との共同制作映像「未来の科学者たちへ」シリーズが第55回科学技術映像祭文部科学大臣賞を受賞、また、2013年にはEテレ2355のステーション映像「2355-ID」などがNew York ADC 92nd Annual Award Meritを受賞、2007年には佐藤雅彦とともに制作した 「ISSEY MIYAKE A-POC inside」がNew York ADC 86th Annual Award Gold を受賞するなど、その作品は国内外から評価されている。