10 SELECTED
BOOKS

Vol.03
松田 洋和 文字を学ぶ本

Vol.03 松田 洋和 文字を学ぶ本

1960年の日本デザインセンター創業時から社員に親しまれ続けている資料室。
その約2万冊の収蔵本の中から選んだ10冊をお勧めする
「ライブラリーのおすすめ本をシェアするプロジェクト」
第3回目は、松田 洋和(第4制作室 デザイナー)が選んだ10冊です。

1
佐藤敬之輔
『ひらがな上』

佐藤さんはとても勉強になるレタリングに関する本を数多く手がけていらっしゃいます。僕はとりわけ、この“ひらがな 上”が好きです。出版社別の所有書体を並べつつ、たくさんの美しい仮名が掲載されているからです。浅葉さんが佐藤さんのもとでレタリングを学んでいたときの精興社書体のカリグラフィも掲載されています。君塚さんのオリジナルとは大きく形が違いますが、その違いにレタリングや書体設計の奥深さを感じます。仮名には、「た」「は」「に」の違いを見ていくのがとても楽しいです。

2
Andrea Janser
“Corporate Diversity Schweizer Grafik und Werbung fur Geigy 1940-1970”

バーゼルの製薬会社、ガイギーのデザインをまとめた本です。ほぼすべてのデザインを手がけたフレッド・トロラーは、チューリッヒ・デザイン学校を卒業していますが、そのテイストは、どちらかといえばアメリカやオランダ(というかクロウエル)を連想させます。簡潔で明瞭なコミュニケーションは、たくさんのデザイナーに影響を与えたようで、その元ネタを見つける楽しみもあったりします。
僕はガイギーが大好きで、タイポグラフィにまったく関係ありませんが、ガイギー製の骨の模型まで手に入れてしまいました。その台座に記されているアクチデンツ グロテスクもやっぱりかっこいいです。

3
Jan Tschichold
“MEISTERBUCH DER SCHRIFT(書物と活字)”

「学ぶ」の語源は「真似ぶ」からきているそうです。チヒョルトは、優れたタイポグラファーになる術として「巻末に良い書体をたくさん載せたから、とにかくレタリングしなさい」と説いています。この本自体、チヒョルトの著書としてさほど重要な位置づけではないように思いますが、日本語版を出版するにあたりデザインをなさった白井さんがチヒョルトの思想を日本語組版へと美しく昇華している点が素敵な本たらしめているように思います。

4
Ben Bos
“TD63-73 Total design and its pioneering role in graphic design”

トータルデザイン及び、ウィム・クロウエルが手がけた仕事をまとめた作品集です。クロウエルの他にツワルトやブラッディンガ、カレル・マルテンスなど、オランダには好きなデザイナーがたくさんいます。クロウエルのデザインには、永遠に変わることのない「近未来感」のような、不思議なドキドキがあります。グリッドを駆使したカレンダーやロゴはもちろんのこと、モニター用書体の設計など、ベースが無機質なグリッドとは思えないほど豊かな表現に溢れています。すべては使い方次第だということを教えてくれる本です。

5
府川充男
『聚珍録【假名】』

本当は矢作勝美さんの“明朝活字の美しさ”を選びたかったのですが、ライブラリーになかったので府川さんの本を。分厚いし、言い回しが難しいので読んでいて眠くなってしまうのですが、ページのほとんどが資料ですので、読み終えるのにそこまで時間はかかりませんでした。この量の資料が一冊にまとまっている本は、他にないかと思います。その一つ一つに府川さんがコメントを書いているのですが、歴史上の位置付けや系譜(主に築地体との関連)、組版の美しさなどを踏まえての指摘は、とても勉強になります。他の2冊は未読なので今後読もうと思います。

6
Josef Muller-Brockmann
“Grid systems in graphic design”

ブロックマン自身、厳格なグリッド至上主義者であり、彼が手掛けた作品は、ほぼ例外なく、グリッドの元に作られています。本書ではそのグリッドの重要性を説きつつ、自身の作品と共にアイヒャーやクロウエル、ポール・ランドの作品を例に出し、実用的なグリッドの設計方法を詳細に記載しています。僕はこのグリッド設計方法を示す図版自体が大好きで、良いグリッドはそれだけでとても魅力を感じます。

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7
ルウ・ドーフスマン
『デザインワークス』

アメリカのタイポグラフィといえばルバリンとドゥーフスマンを思い浮かべます。書体設計や数多く雑誌を手掛けたルバリンに対し、ドゥーフスマンはタイポグラフィ表現のみの作品はそこまで多くないかもしれませんが、CBS内カフェテリアの活字壁のかっこよさから僕にはタイポグラフィの印象が強いのです。ルバリンや、ドゥーフスマン、エミグレなどを見ていると、「アメリカは自由な国なんだなあ」と思います。スイスのアカデミックなタイポグラフィとは異なり、自由で豊かな表現に溢れているように感じます。

8
小林章
『欧文書体』

書体の骨格の話、選定の基準、スペーシング、約物の正しい使い方など、欧文組版に関するあらゆる「正しい知識」がとても優しい言葉で書かれています。シカゴルール、オックスフォードルールこそ載っていませんが、欧文組版の知識の下地はこの本で勉強し、身につけました。この本を読みながら組版演習を行うと、欧文書体と少し仲良くなれる気がします。欧文同様に、日本語組版なら大熊肇さんの“文字の組み方”も、とてもわかりやすくておすすめです。でも、結局のところ美しい組版の本をたくさん読んで研究するのが、一番の勉強になるのかもしれませんが……。

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9
Emil Ruder
“Typography”

この本とArmin HofmannのGraphic Design Manualを合わせて読むことで、バーゼル派と呼ばれるデザイナー達が目指した視覚表現を学ぶことができます。ルーダーが示したこの紙面におけるグレートーンの重要性、リズム感などは狭義のタイポグラフィにとどまらず、自然や建築にまでその範囲を広げて説かれています。紙面の中で均衡を保つユニバースを見るたびにいつも新鮮でシャキッとした気持ちにさせられます。

10
組版工学研究会編
『欧文書体百花事典』

この本は、欧文の歴史を体系的・実用的にまとめることを目的に作られたそうです。他の欧文書体研究本を読んでいると真偽が怪しいところはあるものの、本書を読めば一つの流れとして欧文書体の歩みを捉えることができます。セントールやダンテなど、自分が好きな書体の生い立ちを知ると、より一層愛着がわきます。悲しいのは、書体の歴史を勉強していると、世界史の出来事が頻繁に出てきて、よくわからないというか、うまくつかめなくなることがあることです。今後は世界史の勉強をやり直そうと思います。