エネルギー|Energy

エネルギー|Energy

日本はエネルギー資源を持たない。そのことが逆説的に日本をエネルギー先進国へと成長させてくれるかもしれない。エネルギーは石油や原子力によらず、あらゆる方法でその生成が研究されている。藻類から石油を生成するバイオ燃料、二酸化炭素からエネルギーを生み出す光合成、廃棄物発電や多領域にまたがる再生可能エネルギーの研究も脈々と進められている。
エネルギーの開発速度と消費のバランスが当然懸念されるが、テクノロジーの進歩によって、エネルギーの消費効率は飛躍的に向上しそうだ。誰もいない場所を暖めたり、冷やしたり、照らしたりという無駄はセンシング技術と制御技術によって減少していくはずだ。また、運転者しか乗っていない乗用車が深刻な渋滞を起こすような非効率は徐々に淘汰されていくだろう。個人が所有し「ドライブ」されるクルマから、合理的に無人運転車をシェアしあう高効率移動すなわち「モバイル」へと徐々に移行し、相対的にクルマの数は減少する。エネルギーの生産と消費のバランスはそんな風に変わっていく。

Aug 22, 2017

半島航空 |Peninsular Airlines

半島航空 |Peninsular Airlines

日本列島には「半島」がたわわに実っている。それらの先端を結んでいく航空会社「半島航空」を構想した。旅客機や新幹線のような都市間移動ではない。日本の深部へ人を運ぶ移動インフラである。日本では、優れた水陸両用機が海難救助艇として働いている。これを民間利用し、海に離着陸させれば、海は滑走路になる。つまり日本列島は滑走路に囲まれており、小さな漁港はそのまま空港になるのだ。
日本の国立公園の多くの場所は海沿いにある。半島は、船で交易を行っていた時代には、経済文化のアンテナであった。その痕跡をとどめる場所も少なくはない。しかし現在、都市から半島の先への移動は絶望的な時間を要する。
「半島航空」が、たとえば羽田を起点として、日本列島を西回りと東回りで仮に一日一便ずつ就航すれば、それだけで日本列島は魅力的に繋がる。雲の下を飛ぶ「低空飛行」も景観を楽しむにはいい。格安航空でなく、割高航空でいい。日本の魅力的な深部を点で結ぶ少人数移送「半島航空」は、空路で日本の潜在価値を拓いていく具体案である。

Aug 01, 2017

ドライブからモバイルへ|From Drive to Mobile

ドライブからモバイルへ|From Drive to Mobile

無人車の運動性能が向上するにつれて、事故の確率は「ドライブ」よりも「モバイル」の方が圧倒的に低くなると言われている。間違いを起こしやすい人間が、自ら運転するという行為が、徐々に乱暴に感じられるようになるのかもしれない。時速200キロで運行している無人車ハイウエーにドライブ車は入ることができず、低速ドライブウエーを利用せざるを得ないような事態も想像に難くない。
また、クルマは移動手段というよりも、通信手段や休息場所として重要になっていくかもしれない。たとえば、眠りながら移動する。手動運転よりも格段に安全が保障されるなら人々はクルマの中で睡眠をとるようになる。
さらにクルマは、異界に建てられた別荘のような、インフラから隔絶した施設にエネルギーや情報を供給する役割を担うようになるかもしれない。クルマと繋がることで家に電気と情報が供給され、施設は活性する。
一方で、無人運転は人の移動だけではなく物流に革命的な変化をもたらせると言われている。個で暮らす社会を、進化した物流が支えていくのである。

Jul 26, 2017

旅

旅

ビジネスの国際化によって、移動は常態化し、働きながら休む、休みながら働くことがステイタスになっていく。オンライン会議が発達しても現地での視察や確認、人的交流の機会は増え続ける。エアラインの価値も多元化する。食べる/働く/休む、の質を高度化するサービスが、機内の「LIFE CORE」の研究によって高度化していく。一方では、食べ物も、デバイスや映画コンテンツ等も自分で持ち込む「ノーサービスクラス」が人気になるだろう。食を節約することも、ファーストクラス並みに充実させることもできる「空港デリ」で食事を準備し、自前のタブレットを座席前のホルダーに差し込むだけで映画も通信も楽しめる。ヘッドギアも自前が当たり前。機内は貴重な通信や集中の時間になるだろう。旅の目的地は、簡単に行ける都市よりも、僻地や異界に人気が移行していく。極まった自然の中に建てられる「異界ホテル」や、半島の先にある「半島ホテル」のような場所の価値が高まる。異界にいても、ネットでスムースに世界と繋がる点や、空調を含めた快適環境の確保、そして食の質は重要。能動的に仕事をする人々にとって、異界は恰好の休息と集中の場になる。

Jul 24, 2017

うまみ |

うまみ |

和食の世界的なブームを経て「うまみ」は、世界の食通の味覚の規準を変えはじめている。微細な味覚領域の拡張により、ワインの世界においては日本産葡萄を使用した端麗な白ワインの評価が高まってきた。移送の難しい日本酒は消費地に近い場所で生産されはじめる。どこか芝居がかっていた和のレストランは、本来の実力で世界に根をおろしていく。侘びや数寄を楽しむ感受性は決して日本のものだけではなく、人間心理の普遍的な快適さの一角に機能する感受性だということが徐々に明らかになる。
ラーメンやうどんも味覚の要点と作法が世界に認知され、人気を博していく。世界の漁獲量の低下による価格の高騰と、水準の低い店が出過ぎたために、寿司の人気は相対的に低下していくかもしれない。
一方、食を介して日本の繊細さへの理解が広がり、本場でこれを堪能したいという人々が一定の割合で現れる。探究心旺盛な海外からの旅行客は日本の深部を覗きたがる。都市や古都のみならずサードプレイスと称される僻地に来場者があふれ、価値創造の気運が地域ににももたらされるかもしれない。

Jul 19, 2017

高付加価値農業 |High Value Agriculture

高付加価値農業 |High Value Agriculture

環太平洋諸国の市場開放のあおりで農業はひととき打撃を受けるが、徐々に高効率あるいは高付加価値の農業が登場するはずである。ハイテクを用いたバイオ工場のような農業が大きな設備投資で生まれる一方、「アート・フルーツ」と呼ばれる驚異的な高値で海外に販売される付加価値の結晶のような農産物を栽培し、ブランド化を試みる若い経営者たちが現れているかもしれない。米農家にも、厳密なブランド管理により高価格を狙う組織が出現するだろう。
一方、農業は趣味の領域にも広がり、小規模な作付けで好みの野菜や果樹を育て、凝った産物を収穫する人々も増えてくる。こういう人々の中から、高い価値を生み出す農産物が生み出される可能性もある。大きな耕作面積を一元管理するアメリカ的農業とは異なり、耕作地を細分化し、超多品種高付加価値農業が盛んになり、高級ホテルやレストランと経営連繋をする農業の形も生まれているかもしれない。農の六次産業化は必須である。
他方では、植物の生成過程を経ず、細胞を直接果実にしてしまうバイオ農法が編み出され物議を醸しているかもしれない。

Jul 11, 2017

人工知能

人工知能

人工知能は、高度なサービスを供給できる水準に達し始めた。学習効果によって依頼主の性向を的確に解析して供されるサービスは、人々の暮らしの中に「依存」を引き起こすようになるかもしれない。誰よりも自分の好みや気分を理解してくれる人工知能に、徐々に人々の信頼が移行していくからだ。思いやりや配慮は人工知能に任せて、人々はどんどん個に分断され身勝手に振る舞うようになるかもしれない。人工知能は、より細やかにしたたかに振る舞うようになり、多くのSFに描かれているように、自ら思考して人間に対峙するようになるかもしれない。人工知能が人類最大の危機を招く可能性が指摘されている所以である。
ビッグデータの解析や人工知能を用いたサービスの形が模索される中、どんなサービスが、私たちに幸福をもたらせてくれるだろうか。
技術の果ては複雑すぎてもう見えなくなった。人工知能は果たして誰のものなのだろうか。

Jul 06, 2017

欲望のエデュケーション

欲望のエデュケーション

欲望のエデュケーションという言葉が、ここしばらく発想の起点にある。人々の希求に応じてものが生み出されるなら、希求の質がものの質に作用する。おなかの希求に添ってベルトの穴を緩めていくと、しまらないファッションが出現するだろう。「ニーズ」は往々にしてルーズである。だからニーズには教育が必要だ。欲望もエデュケーションも生々しい言葉だが、代わる言葉が見つからない。エデュケーションという言葉には、教育というよりも潜在するものにヴィジョンを与えて開花させるというニュアンスがある。デザインとは、ニーズの質、つまり希求の水準にじわりと影響をおよぼす緩やかなエデュケーションでなければならない。よくつくられた製品にこめられた美意識に触発されて小さな覚醒がおこり、つぼみがふくらむように暮しへの希求がふくらむ。ふくらんだ希求に呼応してものが生み出される、その無数の循環と連繋によって、文化の土壌が出来上がっていく。デザインとは土壌の質への関与なのである。

Jun 12, 2011

大人たちのプリンシプル

大人たちのプリンシプル

大人用のおむつの総数が子供用のそれを抜いたそうだ。あと40年もすると、人口の4割以上が65歳以上だと言われている。寒々しい話である。これを老人社会の到来ととらえてしまってはつまらない。
働く蟻とサボる蟻。その比率は忘れたが、働く蟻ばかりを集めても、サボる蟻ばかりを集めても結局、働く蟻とサボる蟻は同じ比率で分かれるのだそうだ。人間社会も同じではないか。年齢構成がどうあろうと、能動的な人とそうでない人の比率は案外変わらないかもしれない。必要なのは、能動性を「若さ」に集約せず、「成熟」や「洗練」を基軸に価値観を再編することではないか。別の言い方をすると、二十歳でも落ち着いた大人はいるし、還暦を過ぎてはしゃぐ人々もいる。
原デザイン研究所は「大人たちのプリンシプル」という言葉に寄せて、年齢を問わない、落ち着いたものの見方や雰囲気を大事にする価値観を切り出してみたいと考えている。つまり、高度成長や若者文化の喧噪の中で見失ってきた、成熟や洗練を基軸にしたマーケティングである。

Jun 12, 2011

犬のための建築

犬のための建築

犬小屋ではない。犬のための建築である。人間は自分たちに都合良く外界環境をつくり変えてきた動物である。機能も心地も人間中心でやってきた。人に優しいことが自然に優しいことだとすら考えている。
実は犬も人間がつくってきたものだ。犬の先祖はオオカミである。ポケットチワワもトイプードルも、ダックスフンドも、アフガンハウンドも、種の交配を人間が支配することで生み出されたものだ。だから今更、原野に帰れと言っても犬は当惑するだろう。犬は人間とともにあることを宿命づけられた存在である。だから、犬と人間のための空間や調度を本気で考えてみる。
具体的には、世界の第一線で活躍する、明快な設計思想を持つ建築家に、品種に合わせて、サイズや行動傾向などの緻密な情報とともに、犬のための建築を依頼する。その成果をウェブサイトで多くの人々と共有する。ユーザーに公開されるのは、CGと図面、そして明快な手順でそれを組み立てるアニメーションである。原寸図面の販売も検討しているが、前提はユーザーが自分で組み立てる建築であること。だからそれが可能な、簡易な建築でなくてはならない。
このプロジェクトは2012年、欧州で展覧会として発表を予定している。

Jun 12, 2011